地球版桃太郎
むかしむかし地球のあるところに、おじいさんとおばあさんがおりました。
おばあさんが地球の川で洗濯をしていると、川上からどんぶらこ、どんぶらこ、と山で柴刈り中のはずの配偶者が流れてきました。
「おいじじい、仕事はどうした」
おばあさんがたずねます。
「クビになったんじゃ」
続柄(おばあさんから見た関係):夫が泣きながら答えました。
「クビとかあるんだ」
「じじいだからクビって言われた」
「地球社会は厳しいんじゃのう」
「それじゃ」
いくつかの会話の後、おじいさんはそのまま流れていきました。
それから15分して。
どんぶらこ
どんぶらこ
およそものの流れる音とは思えない音を立てながら、大きな桃が流れてきました。
「なんじゃこれは! 20メートルはあるぞい! こんな桃初めて見たわい!」
おばあさんは桃を拾い上げ、家に持って帰りました。おばあさんは200メートルあるので、この桃を片手で持つことができるのです。
ピンポーン
『はい』
「ババアだけど」
『はい』
先に着いていたおじいさんが鍵を開けます。
「うおおお。なんじゃその桃は。すごいのう」
「実はさっきあそこの⋯⋯八百屋で買ってきたんじゃ」
「へえー、こんなの売っとるんじゃの! いくらじゃった?」
「1900円」
「奮発したの〜」
おばあさんは嘘をつきました。さすがに拾ってきたなんて言えませんからね。
「ではおじいさん、いきますよ」
「よし、いったれいったれ!」
おばあさんが刀を入れると、桃はパッカーンと割れました。
「種ごと切れちゃった」
「30メートルのスプーンでくじり出そう」
おばあさんは30メートルのスプーンを手に取ると、左手を桃に添えて、種付近に突き刺しました。
ぐりん!
と上手くは行きません。
なんかけっこう繋がってて、ぶちぶちちぎりながら入れないと離れません。実を押さえている手の力加減も考えないと、実がへこんでしまいます。
「慎重に、慎重に、ふぬぬぬぬぬ」
果汁がどんどん溢れますが、順調にスプーンが入ります。
「よし取れたァー!」
「もういっちょ!」
「簡単に言うな!」
「20メートルあるし、ちょっとぐらいへこんでも良くね? と思うのじゃ」
「それはお前が全長50センチじゃからじゃろうが! わしゃ200メートルあるんじゃぞ! そろそろ老眼でお前も見えんくなる頃じゃ! 踏んでしまうかもしれんの〜」
「あ? なんやて?」
カチッ
『それはお前が全長50センチじゃからじゃろうが! わしゃ200メートルあるんじゃぞ! そろそろ老眼でお前も見えんくなる頃じゃ! 踏んでしまうかもしれんの〜』
耳の遠いおじいさんのために、毎回録音しているのです。
「なんやて?」
カチッ
『それはお前が全長50センチじゃからじゃろうが! わしゃ200メートルあるんじゃぞ! そろそろ老眼でお前も見えんくなる頃じゃ! 踏んでしまうかもしれんの〜』
けっこう耳が遠いのです。
「⋯⋯ははっ」
おじいさんは小さく笑いました。おそらく聞こえていませんが、何度も聞き返すのも悪いと思ったのでしょう。
「さぁ食べましょう」
「おいしそう」
桃に手を伸ばす2人。いただきますも言わずに口へ放り込みます。
「けっこうぬるいね」
「あと、ちょっと薄いね」
桃の味はするけれど、甘みが足りないという感じでしょうか。そしてぬるかったようです。
するとどうでしょう(唐突)
2人の体が光りだしたかと思うと、ピチピチ肌の2人に大変身! どうしたお前ら!
「おじいさん、あなた⋯⋯!」
「ババアも!」
地球人でいうところの17歳くらいになったのです。高2ですね。
さて、高2の男女がすることといったらなんでしょうか。
「ハァ!」
おじいさんのおじさんが火を噴きます。
「あぁ〜ん!」
おばあさんの神社が炎に包まれます。
こうして生まれたのがオレってわけ。
「ばあさんや、この子の名前をウンコにしよう」
「そうしましょう、そうしましょう」
「いや、桃太郎がいいです」
「赤ちゃんがシャベッァー!!!!!」
「おじいさん! 驚きのあまり『タ』を忘れてますよ!」
「タ」
「それでいいんだ」
「また喋ったァー!!!」
「さすがおじいさん、漢字にすれば忘れませんものね!」
「『た』は漢字じゃないけどね」
「またまた喋たァ!」
「ほら漢字意味ない」
「いや、今のは『しゃべたァ』って言った」
「なんでもありかよ」
「こんなに喋るなんて、ウンコはすごいなぁ」
「却下したんだが」
「名付けの権利は親にあると思うんじゃが? 本人が名付けたケース見たことある?」
「今生まれたばっかだから見たことないよ。見たことあるのはデカすぎるババアと小さすぎるジジイだけだよ」
「だからウンコだというのだ」
「いや、桃から摂取したエネルギーのおかげで生まれたんだから桃太郎だ」
「ほう。じゃあ次の子が生まれたらどうするんじゃ?」
「桃次郎でいいだろ」
「女の子じゃったら?」
「桃子だろ」
「次女は?」
「桃香だろ」
「それじゃどっちが姉か分からんじゃろが」
「別に姉妹だからって順番が分かる名前つけなきゃいけないなんて決まりはないだろ」
「今生まれたばっかのくせになんでそんなこと知っとるんじゃ! じゃあさっきの話も知っとるはずじゃろ!」
「うるせージジイ」
「お!? 反抗期か!?」
「あの、ババアは蚊帳の外ですか?」
「反抗期じゃなくてもうるさかったらうるさいって言うだろうが!」
「それが反抗期だと言うのじゃ!」
「うるせーんだよ! やんのか!? あぁん?」
「やん!」
「えっ、なに?」
「『やるのか?』を『やんのか?』って言ってるわけじゃろ? なら『やる』は『やん』でいいんじゃなかろうか?」
「でも、鳥取の鳥だけで『とっ』って読まないだろ? 『やんのか?』も『のか?』がついて始めて『やん』になるんだよ」
「ババアの頭は爆発しそうです。蚊帳の外で」
「オラ死ね!」
「おいジジイ! 不意打ちは卑怯だぞ! ちーせーから痛くねーけど」
「さっき『やん』って宣言たんだから、あそこからもう始まってんじゃよ!」
「し」
「『宣言したんだから』にしたのね」
「そう」
「ババアを仲間に入れちくり〜」
「『入れてくれ』の間違い?」
「令和生まれの子には通じんか、とほほ」
「ウンコよ、鬼ヶ島へ行ってくれんかの」
「いきなり? あとウンコ呼びやめろよ。殺すぞマジで」
「殺すなんて⋯⋯親に向かってそんなこと、冗談でも言うな!」
「おじいさんや、そんなことより⋯⋯」
「おじいさんなんて、こんなピチピチ高校生に向かって! 二度と言うな!」
「ああ、全員敵モードだ⋯⋯」
「うおおおおおおお!!!!」
「今度はバーサーカーモードだ」
「鬼はワシが殺す! 鬼滅のジジイじゃーい!」
チワワ、リスザル、スズメを従えたおじいさんが、ついに鬼ヶ島へ到着しました。
チワワには骨を、リスザルにはバナナチップを、スズメにはカラスの死体をあげて仲間にしたのです。全体的に小さいのはおじいさんが小さいからです。言わせんな!
鬼ヶ島へ上陸した4体は、ドシドシと音を立てて歩き回ります。
「キャー」
「ニンゲンガキター」
「コワイヨー」
「コワイヨー」
「フミツブサレルー」
鬼たちは全員1センチなので、彼らからするとおじいさんは超巨人なのです。
「踏み潰します」
おじいさん一行は容赦なく鬼たちを鬼ヶ島ごと踏み潰しました。
「ヤラレター」
「イタイヨー」
「クルシイヨー」
「タスケテクレー」
苦しそうな声を上げていますが、彼らは凶悪な鬼。身長3ミリの人間たちを襲ったり食べたり溶接したりしていたのですから、こうなって当然なのです。
おじいさんは島中の虫の息鬼をかき集めると、すり鉢ですり身にしてしまいました。
「これを丸めて、鬼団子を作るんじゃ」
「それ、いいね!」
「とても興味深い視点ですね」
「はい、それは素晴らしいです」
3匹のお供にも好評のようです。
「どうしよう⋯⋯」
おじいさんが突然泣き始めました。罪悪感が押し寄せてきたのでしょうか。
「つなぎがない」
どうやら鬼団子がまとまらなかっただけのようです。
「はい!」(挙手)
「チワワくん」
「スズメに卵を産ませましょう!」
「天才!」
「ふんしょ!」コロン
「はやっ!」
「ふんしょ! ふんしょ!」コロンコロン
「3つもまぁ! あざすれ」
「おじいさん、ビックリマークを打とうとして『れ』になっちゃってますよ!」
「うるせぇチワワ! ワシは17歳じゃ!」
おじいさんの北斗・ゴムゴムの月牙螺旋天衝丸が炸裂し、チワワが鬼団子の一部になりました。おじいさんの逆鱗にふれるとこうなるのです。覚えておきましょう。
「おい!」
空に向かって怒鳴るおじいさん。どうしたのでしょうか。
「ナレーションのお前!」
えっ、俺氏!?
「ワシはおじいさんではない! 死ね!」
おじいさんのどこでもドアが炸裂し、俺氏も団子の一部になりましたとさ、めでたしめでたし。




