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人魚殺し  作者: 星来香文子
第三章 翠

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澪(六)

 私はそのまま、台所に引きずられた。

 腰から下を魚にして水に浸かっていた私は、腕の痛みに気をとられて、人間の脚に戻すことができず、歩いて逃げることができない。


 いや、何を逃げようとしているの。

 これでいい。

 このまま、この女に私の肉を食いつくさせてしまえばいい。


 ――それにしても、なんで台所……?


 痛みに意識が飛びそうになりながら、そんなことを考えた。

 私をかまどの前に乱暴に放り投げ、この女は大きな包丁を手に取った。



「大きな魚は、食べやすいように小さく切らなくちゃ。まずは頭を落とすのよね」



 その後のことは、何も覚えていない。




 * * *




「翠……!」


 あれから、どれだけ時間が経ったのかわからない。

 でも、私の顔を見て、あの人はあの女の名を呼んだ。


「お前は下がっていなさい。悪いのは、俺なんだ。潮、妹は関係ない。だから、殺すのは俺だけに……」


 私は、賭けに勝ったのだと、その瞬間、確信した。

 やっと手に入れた。

 これで、私はこの人の一番になれた。


 それなのに、奪われてたまるものか。

 どうして潮がここまで来たのかわからない。

 でも、状況的に見て、潮は仇討ちに来たのだろう。

 間に合ってよかった。

 その前に、この体を手に入れてよかった。


「違うわ。潮さん、あなたのお姉さんを殺したのは、この人じゃない」

「翠!!」

「違う……? それじゃぁ、誰だっていうの!? ここには、姉さまの血のあとがあった。それなのに……」

「姫様よ」

「え……?」


 私の言葉に、驚いた顔であの人は私を凝視した。

 澪を殺したのは自分だと言うとでも思ったのだろう。


「兄は何もしていません。お城から来た姫様の手下が、この家でお姉さんを殺したんです。人魚の肉で不老長寿の力を手に入れた姫様が、一人で長生きするのは面白くないからと、同じように周りのみんなにその肉を食べさせようと……」


 私が並べた嘘を信じて、潮は城に向かった。

 芳姫様こそが、姉を殺した犯人だと思い込んで。


 残念ながら、芳姫様はその刀で切っても死にはしない。

 不老長寿の体で、何度も苦痛を味わうだけ。

 まぁ、その前に捕まって、代わりにあんたの首が飛ぶだけだろうけど。


「兄さま、大丈夫ですか? お怪我は……?」

「俺は大丈夫だ。でも、どうして、あんな嘘を……? あの女を殺したのは、お前じゃ――」


 知っていたのか。

 翠としての記憶と私の記憶が混ざって、曖昧になっている部分がある。

 でも、少なくとも今日、潮が現れるこの日まで、一切そんな話はしてこなかったはず。


「人魚を殺したのは、姫様です。私ではありません。もう、大丈夫ですよ」

「でも……!」

「そんなことより、家に入りましょう。兄さま」


 戸惑うこの人の腕を引いて、私は家の中に入った。

 扉を閉めた途端、私はこの人の胸に縋りつく。


「――私を愛しているのでしょう?」

「え……? 何を、突然……当たり前だろう?」

「それなら、それで大丈夫です」


 顔を上げれば、私を見下ろす愛しい人の顔がある。

 その瞳には、ずっと、これからも私だけを映して欲しい。


「翠……」

「なぁに、兄さま」

「お前、こんなところに黒子なんてあったか?」

「……何のこと?」


 翠の顔に、黒子なんてあったかしら?

 覚えていないわ。


「いや、気のせいみたいだ」


 何度か瞬きをした後、この人はそう言って、私の頬に唇を落とした。


 やっと手に入れた。

 もう、誰にも、奪わせやしない。





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