表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

理系のオカルト研

⸻登場人物紹介⸻


小鳥遊(タカナシ) 里理(サト)

理系のオカルト研究会(通称:リケオカ)

所属の中でも理論派

市販の心霊器具には、なぜか異様に厳しい。

モットーは「目の前で起きている現象を正確

に把握すること」


橘 理ノタチバナ イノスケ

霊障学部の学生。同じくオカルト研所属。      

サトより柔らかい印象で橋渡し役。

モットーは「面白くなければつまらない」

戦闘は好きじゃない。サトでも敵わない秘めた力を稀に見せる。


2人の学生時代のエピソードをお楽しみください。

理系のオカルト研




これは都内某理系大学に通う2人の学生が

レジェンドへと駆け上がる軌跡を描く物語


令和8年1月現在


某所 LIVE会場にて


さぁ、皆さん。準備はいいですか?


お待たせしました!


今や心霊業界を代表する大物レジェンド。

CMやモデルとしても大活躍中。


研究論文

『探究心こそ脳の老化を止めている』を発表 


今回のノーベル物理学賞において、先程の論文がノミネートされたとの連絡が入りました 


(会場は大歓声と喝采に包まれた)


ご紹介します!

理系のオカルト研 

いのさん、サトさん 

大変におめでとう御座います!


(改めて拍手が巻き起こる)


今年、リケオカは誕生30年目を迎えました。


出会ったのは研究ゼミだと聞いています。

初めて会ったお互いの印象はどうでした?

(2人が回答すると会場内に笑いが起こっていた)


そのきっかけとなった心霊検証がございます。

(会場内が一斉にザワザワしている)


(突然、会場全体が真っ暗になる。気が付くと壇上には誰も居ない)


(大型スクリーンには、リケオカの配信が始まる時に流れるカウントダウンが映っている)


(会場完全に沈黙後、テロップが入る)


‥‥時は遡ること30年前‥‥


橘 理ノ助(20歳)/小鳥遊 里理 (20歳)



(文字の羅列が流れては消えていく)


数奇な出会いが宇宙の理りに

どの様な影響を与え

どの様な未来をもたらすのか


最後に


二人の名前に共通するワードがあります

そうです!理です。ことわり 

では、ことわりとは何か


それは道理や法則、論理、規範

いわゆる、軸となるブレないものです

今ここにそれぞれの理を持つ2人がいます

この2つの理が反発するとどうなるか

また2つの理が共鳴するとどうなるか


反発した場合→お互いの道理や思想、信念がぶつかり合い世界は分断されます


共鳴した場合→お互いが同調、価値観なども同期され相乗効果という化学反応が起こり、文明の飛躍的な発展に繋がる




①入学式当日


澄み渡る青空。入学式は晴れやかに行われた。

式典も学長の挨拶を残し、結びの段階に入っている。


見事に勝ち抜いた学生諸君



私に君たちを未来の象徴と呼ばせてほしい。

この大学を選んでくれてありがとう』


学長はゆっくりと頭を下げた。


拍手が鳴り止まぬ中、静かな口調で続ける。


『日本だけではなく、世界もまた同じ問題を抱えている。

子供の人口は、そのまま受験者数にも反映されてしまう。しかし、6年連続で減少傾向だった理由について、人口の増減より深刻な理由があると私は考える。

存在する形に囚われず、登録がされている学校は800校前後。

偏差値とは、入学のしやすさ・試験や授業で扱う問題のレベルを数値化したものになる。

思い出してもらいたい。

その学生の学力レベルを見て、それから行ける大学を決めていた時代を。


何かとてもつまらない選び方と思いませんか?


もっと、各大学で学べる事が違ったり、その学校でしか学べない授業のような‥

まず、何を勉強したいのか。

そこから学校選びが出来たら、もっと楽しいのではないか。

スポーツだってもちろん選ぶ理由になります。


群雄割拠のこの時代。

生徒争奪戦に負けないように、私たち大学側がすることは何でしょうか。

あぐらをかいて怠慢になっていないか。

魅力的な学部だと自信を持って言えるのか。

これからの大学の在り方を変えるため、私は新しい学部の設立を心に誓った。

ここまで培ってきた知識や智慧は、たんなる過去の記憶ではありません。

これからの人生における、唯一無二の武器としてあなた自身を守っていくはずです。

そしてその一歩を明日から歩んでもらいたい』


皆、学長の言葉に圧倒されている。


「その革命のために一石を投じました。

それが心霊学や霊障学という新しい分野です。

その中でも、5年前に心霊学部の存在を世間に公表したのです。


知っての通り、世間からは叩かれました。

マスコミで取り沙汰され、逆にそれが話題となり大きな波紋を呼ぶことになったのです。

そして、心霊はあらゆる可能性の地盤となって確立できると判断しました。


その確信のもと、更に霊障学という新しい学問の扉を開くことが出来たのです。

霊障学は心霊学から派生した、人に対し実害をもたらすモノに特化した学問です。


"幽霊の正体見たり枯れ尾花"

ニュアンスこそ違いますが、霊も元は人間です。

私たちより生々しく存在してる。

幽霊も人からの派生と言えるでしょう。


それらを今ここで論じるつもりはありません。

霊による障りや祟り、科学で解明されていないから‥目で見えないものは信じない‥など。

いつの時代の話をしているのか。


目に見えないものを信じ、意味を調べもせず暦通りに祝い事をする。

そんなご都合主義で生きている者たちに、理解してもらおうとは思いません。


霊障学の注目すべき点に、講義に参加する生徒のほとんどが女性という事例があります。

学んでいく中で、その理由に気づく方もおられますが、理由は他にもあります。


「霊障学」の講義は、他の大学では絶対に受けることが出来ません。

意地悪をしているのではなく、理由は学び伝える側の人手不足にあります。


心霊学や霊障学は、まだ生まれて間もない言わばプロトタイプです。

もっと長い時間を費やし、人の手で実際に考察→実験→検証の研究する必要があるのです』


この伝説の学長挨拶は更に波紋を呼び、未だ沈静化をしていなかった。

当時、学長挨拶をその場で聴いていた2人の学生がいた。

2人とも、学長の話の本質を理解していた。

理解しているか、いないかは、研究内容や成果を見れば一目瞭然である。



霊障ゼミナールの研究棟から大声が聞こえる。


「はぁ〜??検証する機材を市販で買うだって?

まだそんなナンセンスなこと言ってるやつがいるのか?」

サトの声が部屋の外まで鳴り響く。

『今はイチから作って直す時代だろ?

‥‥なぁ、いのさん』


当時、検証機材はどれも高額であった。


「無いなら作るしかない」

それがリケオカの基本スタイルだったのだ。


彼らが制作した機材たち


① 温度・湿度・磁場の変化を同時に計測しながら、変化のあった瞬間ではなく、その数秒前からログとして保存して検証できる装置


② 人の顔を認知した瞬間、シャッターが切られ、対象が動くと動画に切り替わるAI搭載


③ 鏡の性質を活かし、凹面鏡や合わせ鏡の性質を使って、全方位をリアルタイムで視覚できる画期的な全方位鏡面システム


④ 赤外線と紫外線の切り替え可能。光の波長の長さを変えることで見える範囲を広げる眼鏡


⑤ 19Hzなどの低周波を流す事で、脳に負荷を与えて極限状態と錯覚させて使う検知システム。


※①の機能に人感センサーを加え、リアルタイムの映像を保存して見えるように改良。

更にサーモグラフィでの熱の可視化を可能にしたものが後のVoyagerである

※⑤人体に負荷がかかるため、おすすめ出来ない諸刃の剣システム。ただし、それだけの副作用なので、得られるものはあるかも知れませんが責任は取れません。


デメリット→現時点では実用に耐えられない。

(デメリットをどの程度抑えられるかが重要)

耐えられる範囲内での対応が前提。霊との交渉の際、先手を打ち主導権を握れる確率が高い。


メリットは、壊れてもすぐに修理できる点。


ここで、検証側にも良い変化が見られた。

機材の動きを何度も見てきた甲斐があった。

検証したい内容を理解して、観察するのは時間的短縮につながり、結果まわり全てが得するので◎


実験は忍耐力が必要。先読みが可能になると、自分の動きに迷いが無くなってきて◎



なんだか調子が良いと皆が感じているようだ。

このまま新年を迎えられるといいのだが‥。


週の半分を「Labo」と書かれた部室で、情報交換をして過ごすのが日課であった。


コン♫ココン♫


乾いたノック音が3回鳴った。


『どーぞー。開いてますよー』


霊障研究会の部長 とみさんである。

(とみた さや・22歳)


『いの。さと。‥‥ちょっといいかな』

何だか少し照れているようにも見える。


『部長?』

『とみさん? どうしたの?』


とみさんは少し迷ったあと、意を決したように口を開いた。


「いや‥‥実家で困ったことが起きててさ。力を貸してもらえないかと」


とみさんが自分達に頼み事をするのは珍しい。


自然と二人は姿勢を正した。


『では、詳しくお話を聞きましょう』


話はこうだ。

実家でいくつか不可解な現象が起きている。


現象内容

・誰もいない廊下から足音がする

・仏壇のリンが勝手に鳴りだす

・リビングの電気が勝手に点いたり消えたりする

・現象は夜中2時頃に集中


霊障で言うなら小粒案件だが、大きさはあまり関係なかった。

家族の反応を聞くと

「別に気にしてない」

「実害がないなら問題はない」


しかし、とみさんは怒っていた。好き放題

されているのが腹が立って仕方ないのだ。



「現象に再現性がありそう。調査する価値はあると思う」

サトの言葉に嘘はなかった。


「磁場観測に特化した機材がある 安心して」

"いの"らしい優しさが伝わってくる。


それぞれが新作の《Voyager》を見つめている。

心霊現象かどうかはさておき、とみさんの調査依頼を正式に受けることにした。


12月某日

年末が近づくにつれ、大掃除が始まりバタバタとし始める。研究室が閉まるのはその後だ。


帰り支度を終えて目的地までの経路を調べる。

今回検証する場所はここからそう遠くない。

相談した結果、年内のタイミングで調査する事で話はまとまった。



使用出来る測定機器は全部積み込んだ。

故障も考慮して、ある程度の作業が出来るよう工具も積んでいく。


サトは時計に目をやる。

今から出発すれば20時頃に到着できそうだ。


とみさんは家庭の準備があるため、先に実家へ向かってもらった。

その後を追う様に2人は現地に車を走らせた。


助手席に座り、Voyagerを大事そうに抱えている"いの"

ハンドルを握ったまま.考えにふける"サト"


この検証が2人のターニングポイントになろうとは、誰も知る由もなかった。



最優先は「何が起きているのかを正確に」だ。

サトの好きな言葉である。

「誰の言葉だっけ?」

いのが聞くと、サトはニヤリ とする。

「俺の言葉だ」

しーーーん‥‥


なに!車内の時が止まっているッ!DIOめ!


いの!お前!今、バカにしただろ!

2人の大爆笑の声がこだまする。


今のところ大きな霊障はまだ出ていない。

仮に出たとしても対処はできない。お祓いは専門分野ではない。


19時40分

とみさんの実家に到着することができた。

荷下ろしはあとにして、先にご家族への挨拶を済ませることにした。

少し緊張する 


玄関先に到着して呼び鈴を鳴らすと、元気な返事が返ってきた。


玄関扉が開くと、満面の笑みを浮かべて

「おかえりなさい」と声をかけてくれた。


初めて会うにも関わらず、まるで自分の子供が帰ってきたかのように出迎えてくれた姿は今でも鮮明に覚えてる。

こんな気持ちになれただけでも、ここに来て良かったとサトは思った。


「さぁ、寒かったでしょう。早く中に入って手を洗っていらっしゃい」

危ない ミスリードだ。

思わず、お母さんと言ってしまいそうになる 


みんなが集まるリビングにお邪魔する。

目に飛び込んできた料理に驚かされる。

Σ( ̄。 ̄ノ)ノ

「ええええー!」

「おおおおー!」

驚く2人を見て、みんなが笑っている 


ハッっとサトが気づいた。いのも気づいた。

お互いに顔を見合わせる。

まわりが見えていなかったと悔やむ。

『どうしたの?2人とも』

とみさんが心配そうに声をかける。

用意された料理に食べた形跡がないのだ。

会った事もない自分たちを気遣って、この時間まで何も食べずに待っていたんだ。

とみさんの優しさの原点を垣間見えた気がした。


急にサトの思考にノイズが走った。

‥‥ん?


「では、乾杯 」

「かんぱーい 」


さっき感じたのは何だ?

ノイズのような違和感だ。

優しさを感じた直後にきた寂しさ‥‥


また来た。ノイズ‥ではない。これは気配だ。

気のせいではない。

サトは気になる場所に目星を付けていく。

安心感で心が軽くなると、それを遮るかのような何か‥‥


サトは違和感は徐々に確信に変わりつつあった。


寂寥感と安堵感、正反対の2つの感情が交互に思考をジャックする。

いのさんも何やら辺りを警戒している。



マ、マズイぞ‥‥

サトの顔が歪む。

いのさんの言葉が関西弁になっている。


「とみちゃん?背も伸びてて‥‥

おじさん、ほんま分からんかって。

えらいべっぴんさんおるなって、口説いてしまうとこやったよ 」

「いのさん、エロい親戚みたいになってるぞ」

みんな大爆笑 

いたいた笑

冠婚葬祭の席でこうなる叔父さん 


宴も終わり、私たちも片付けを手伝っていた。

お母さんから、順番にお風呂へ入ってきなさいと促された。


1人がシャワーを浴びて、1人が機器を移動する。

時計を見ると23時になるとこだった。


とぅーるるるる 


とぅーるるるる 


このアニメの着信音はサトの携帯だ。

とみさんから着信だ 


とみさんたち家族は、両親と一緒に近くのホテルに泊まると連絡が入った。

検証を考慮してうちらに気を遣ったに違いない。

撮影NG場所を確認して通話を終えた。


そして、0時を告げるアラーム音が鳴る。

➓❾❽❼❻❺❹❸❷❶

画面にカウントダウンが映り、YouTube配信 ️が始まった。


YouTube LIVE中 ️


はーい 

皆さんこんばんは♪

今年最後のLIVE配信になりまーす 

あ、聞こえますか?

(いのさん,こんばんは)

はい、こんばんはー


ありがとうございます。

(こんいのー♪)

こんいのでーす

(サトさん、いないの?)

あ、サトさん?

サトさんはですね。センサーライトやカメラを検証場所に置いてると思うんやけど‥

あ、戻ってきたー


改めまして。

皆さん、こんばんはー

理系オカルト研、通称リケオカの‥‥


橘 理ノ(いのすけ)こと、いのでーす!

小鳥遊 里理(さと)変わらず、サトでーす!



時計の針は1時を指している。


検証は予定通り開始され、いのが検証で使う機器の説明をしている。

事前に話に上がっていた、霊障の由来から読み解いていこう。


現象は決まって深夜2時前後に集中。

いわゆる丑三つ時だ。

丑三つ時という言葉から連想されるのは、やはり丑の刻参りだろうか。

サトは問いかける。


『いのさん、なんで藁人形を使って呪う儀式に、丑三つという時刻を指定してるの?』


しばらくして、いのは答える。

『アレやな。宗教的な儀式やから。理系的視点の分子核や原子レベルから考えると分かりやすいかもな』

『いや、分かりにくいだろ』

いのはキョトンとしている。


『まず、祟りっていうのは祈りと同義や。ほんで祈りが叶う方角というものがある。それが丑寅‥‥』

『鬼門か!』

『そうや。東北の位置する場所が鬼門で、丑の刻は1時〜3時、寅は3時〜5時。丑三つ時は更に細かくなって午前2時〜2時半』

とみさんの2時頃に集中するとの言葉を思い出す。

足音、仏壇、電気――いずれも強い害意はない

が、何かしらの意思‥‥意図を感じる。


Voyagerはすでに起動していた。

温度、湿度、電磁波、磁場。

変化が起きた「瞬間」ではなく、その数秒前からを記録する設定だ。

未だログに不可解な点はない。


間も無く時間は丑三つ時を迎える。


検証する場所には固定カメラ、人感センサーが配置されている。


2時を告げる時報が鳴った。


心臓の鼓動が、Voyagerに検知されてしまうのではないかと思うほど大きく鳴っていた。


LIVE閲覧者は3,000人を超えていた。

同時に検証を見るため、画面は四分割になっている。リスナーもリケオカと同じ気持ちで画面を見ていた。


サトは仏間にいる。

昼間から妙に空気が重く、何かしらの気配が強く感じられた場所だ。

鳴ったのはこの仏壇のリンのようだ。


いのはリビングにいる。

家族の気配が最も残り、家の中心でもある。

ここでは夜中に、電気が付いたり消えたりすると報告にある。


オカくんは廊下。

オカくんは声まねするヌイグルミ。

喋りかけると同じ言葉を返してくる人形だ。

誰かが歩いている様な音がすると報告がある。

生活する上で動線として、最も人が通る場所。


そして、新兵器Voyagerは仏間を中心に、家全体をカバーすることで死角を補っていた。


この家全体を、一つの“場”として捉えるための配置だ。霊が歩いているのであれば、順番にセンサーが反応するはずだ。

この時点では、まだ何も起きていない。

不思議なほど、静かだった。



第二章 

丑三つの合図


LIVEは続いている。

視聴者は5,000人を超えていた。

深夜2時05分


そろそろ何か動きがあっても‥‥

ピーーー!

ピーーー!


Voyagerが、わずかな反応を示している。

磁場の揺らぎを検知、仏壇の真横で微細な温度低下を確認。

人感センサーの誤検知ではない。

電磁波に一瞬の異常音。

誰も近づいてはいなかった。しかし、確かな反応は見られた。


ほぼ同時だった。


仏壇にあった写真立てが床へ落ちた。

祖父か祖母か、そのどちらかの写真だ。

振り向いた瞬間、リンが鳴った。

リ〜〜〜ン♫♫



サトが動きを止めた。


‥‥誰だ‥‥

(声した?)

(だれってきこえた)


配信のコメント欄は、

凄まじい勢いでスクロールしている。

誰もが目の前の出来事から目を離せないでいた。


しかし、サトは冷静だった。


「最優先は、何が起きているかを正確に」


リビングにも現象が現れた。

キッチンの蛇口から、チョロチョロと水が流れ出した。



いのは耳を済ませている。


『ミスリードや‥‥』

こうなると予想していたかの様な落ち着きに、リスナーたちは驚きを隠しきれなかった。

立ち上がると、水を止めにいく。

『節水せな』


壊すでも、脅かすでもない。

まるで「そこに居る」と知らせるような動き。


廊下では、オカくんのすぐ横を何かが通り過ぎて、センサーライトが順番に付く。

『キャァァァァ』

声マネするオカくんが叫んだ。


誰かの声に反応したのであれば、当然近くで誰かが叫んでいなければ整合性が取れない。

(まじか‥‥)

(逃げた方がよくないか)

リスナーはただ見守る事しか出来なかった。


サトは耳を澄まし分析を続ける。

リビングの方から水の流れる音。

廊下の方からオカくんの叫び声。

サトの思考はフル回転していた。


これは、明らかにこちらを見ている。

逆にうちらを検証しているとでも言いたげな‥

まさか、こちらの反応を見るために、一周したとでもいうのか‥‥



仏間、リビング、廊下、すべてに共通している事象がある。

どの現象も敵意を感じないのだ。

昼間に感じたものと同じだ。



第三章 

視界と霊界の狭間


サトは、自分の視線に違和感を覚えていた。

何か変だ。見えてはいないが何かがいる。

説明が難しい。攻殻機動隊の光学迷彩を思わせる感覚。見ようとすればするほど霞んでしまう。

気配が一番強い場所から焦点を外す。

見たいものを視界の真ん中からずらして見る。


ほんの少しズラすことで、霞んでいたものがくっきりと浮き上がる。


Voyagerの映像も同じだった。

正面には何も映らない。

だが、視界の端だけが歪みノイズを残している。

Voyagerの電磁波測定器に異常が見られた。

反応数値が振り切れて、聞いたことの無い高い音がけたたましく鳴る。


サトは、はっきりと理解した。


霊は――

視界の中心に来るようにすると映らない。


見ようとすることで、消える。

見ないことで、そこに現れる。


サトは小さく息を吐いた。


「‥なるほどな」


無線越しに、いのへ伝える。


「焦点を合わせるな。見ようとしないで、誘え」


「せやかて、サト‥‥」

(平次みたく言うな)

(バーローww)

コメント欄がざわつく。


いのは理解した。


認識のズレが 次元を歪めてるんやろか

なら 視界を固定せず わずかに外す


視界と霊界の間

その“狭間”は自分たちで作るもんなんか


ほんまや 見えるな


視界いう漢字は 最初からその意味を

含んどったんかもしれへんな


いのは、サトのいる仏間へ向かった。


入ると違和感を感じる。

部屋が先程より散らかっているのだ。


「サトさん、こんな散らかし方したらあかんで」


「違うって。勝手に落ちてきたんだ」


「ほんまに次元が歪んでるように見えるなぁ」


「いのさんも来たし、リケオカのターンと行きますか」


――目に見えないものを、見えないからと切り捨てるのは、いつの時代の話なのか――

入学式での学長の言葉と重なる。



この先に本体がいる。


2人は幽界へと足を踏み入れた。

一歩、足を踏み入れると場の空気は一気に重くなった。

耳鳴りが激しさを増している。

しかし、辺りは静まり返っている。


「いのさん‥‥」

「あぁ、そこにおるな」


異様な黒いモヤは人影のように揺れている。

敵意こそ感じられないが、歓迎されていないことは十分に感じられた。


「汝等、ここに何しに来た」

喋った‥‥が声ではない。脳に直接語りかけているようだ。

いのにも声は届いている。

聞きたいのはこちらも同じ。

「是非、こちらの質問にも答えてもらいたいな」


黒いモヤが人影を成した、その瞬間だった。

背後で、空気が“軋んだ”。

パキパキ!


「……来るぞ」

サトが低く告げる。



振り返る間もなく、視界の端を何かが横切った。

人の形を保っていない、歪んだ影。

感情だけが剥き出しになったような存在。

ビリビリとつんざくような圧が、凄まじく2人を襲う。


耳鳴りが一気に強まる。鼓膜が破れそうだ。

Voyagerがすべてに反応を示して警告音が止まらない。

頭痛と吐き気が同時に押し寄せた。

配信を見るリスナーのコメントはいっさい動いていなかった。

皆、見入っていた。


『———』


言葉にならないノイズが、直接脳を掻き乱す。


「っ……!」


足が竦む。

逃げ場はない。


その時、黒い霊が一歩、前に出た。


『去れ!』

祖母の霊が叫ぶ。

声ではなく、そう聞こえた感じがした。


後退りする2人。

その“圧”だけで、まわりの空間が震える。


歪んだ影がこちらに飛びかかろうとした瞬間、

いのが短く印を切る。



「急々如律令きゅうきゅうにょりつりょう

いのは叫んだ。

目の前から風が舞い上がり、風の壁が両者を隔てる。

休む間も無く両手を口元にもっていき印を結ぶ。

「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前

(りんぴょうとうしゃかいじんれつざいぜん)」


眩い光が降り注ぎ、時が止まったかのように静まりかえる。


『お前たちは何者だ‥‥』



次の瞬間、歪んだ霊は黒い霧となって霧散した。

消滅ではない。

弾き出されたのだ。

「またすぐに来るやろな」


耳鳴りが、嘘のように引いていく。

静寂。



視線を戻すと弾き出したはずの霊が目の前にいた。


『害なき者に害を成すもの。出て行け!』

霊はそれだけ言うと、先程より強い霊気を放ちながら人影に変化する。

先ほどよりもはっきりと。くっきりと。

祖母の姿がそこにいた。

写真立てにあった顔と認識できるくらいに、霊体とは思えないほど生々しく存在していた。


霊がこちらへ滲むように近づいた瞬間、空気が不自然に鳴った。


「……?」


違和感を、いのも感じ取っていた。

一瞬、周囲を見回す。


霊の動きが僅かに鈍る。


『———』


霊がこちらに触れる前に、何かが先に触れる。


それは光でも、言葉でもない。

ただ、懐かしい匂いだった。


霊は明らかに怯んだ。


「……結界やな」


いのが低く呟く。


だが、ここには結界など張っていない。

張れるはずの者も、いない。


祖母の霊が、ゆっくりと振り向いた。


『……娘のためか』


声に、僅かな揺れがあった。


歪んだ霊が、逃げるように後退する。

見えない“線”を越えられないかのように。


「今の……誰が?」


問うと、祖母の霊は、しばらく黙っていた。


『母親だよ……遺伝はしておらんがのぉ』


そう前置きしてから、続ける。


『だが、知っておった。

境の在り処も、越えてはならぬ線の意味も』


いのが、ため息をつく。


「……生者も死者も護りたい気持ちは同じや」


祖母の霊は、否定しなかった。


『気づかぬふりをして、ずっと見とったな』


その言葉だけで十分だった。


家の中の空気が、わずかに張りつめていた。


幽界との境は保たれている。

だが、完全ではない。


『……これ以上は、邪魔されてはかなわん。

決着をつけるとするかの‥‥』


祖母の霊は静かだが、譲るつもりはなかった。



「どないしよ、サトさん‥‥」


いのの言葉を遮るように、

廊下の奥で、微かな音がした。


「……?」

サトは顔を上げる。


次の瞬間。

ガチャ、と玄関の鍵が回った。


三人とも動きが止まる。


「……え?」


扉が開き、夜気が流れ込む。


「……やっぱり。まだ起きてた」


とみさんだった。

上着を羽織っただけの、いつもの姿。


「なんか眠れなくてさ。

変な感じして寝付けないし。検証は?」


目をこすりながら、家の中を見回す。


「電気、つけっぱー」


その瞬間、

祖母の霊が、はっきりと息を呑んだ。


『……来よったか』


とみの視線が、何もないはずの空間で止まる。


「……何か言った?」


空気が、わずかに歪む。


「ねぇ、そこ……誰か、いる?」


いのは笑みを浮かべる。


「まだ、見えとらんが……感じとるな」


とみさんは首を傾げる。


「分かんないけど……ここ、落ち着かない」


無意識に、お清めと言って母がよく立つ場所に立っていた。 


境の中心。


祖母の霊が、一歩、下がる。


『……やはり』


声に、諦めにも似た色が混じる。


『運命か‥‥戻ってくる子は、戻ってくる』


とみさんが、ぞくりと肩をすくめる。


「寒っ!……暖房、ついてる?」


その一言で、場の緊張がほんの少し緩んだ。


サトがとみの肩に手を置く。


「今日はもう終いだ。検証も終わった」


「え?」


「今夜はな……“境界”が乱れとる」


とみは一瞬、言いかけてやめた。


「……そっか。何かお母さんみたい笑」


そう言って、靴を履き直す。


その背中を見ながら、

祖母の霊が、低く言った。


『……もう、交渉は必要ない』


いのが、ゆっくりと振り向く。


祖母の霊は、とみさんを見たまま答える。


『この子は、“守られる側”をすでに選んどる』


何も知らない顔で、欠伸を噛み殺している。


『……それでええ』


祖母の霊は呟く。


玄関の外から母の呼ぶ声がする。


「……とみちゃん?来てる?」


眠そうな声。


「……とみ?」


「お母さん……」


母は、とみさんの顔を見て、ほんの一瞬だけ目を細めた。

しかし、それ以上は何も聞かなかった。


上着を羽織ったまま、

少しだけ息を整えている。


「やっぱり、ここだったのね」


責める調子ではない。

確かめるような声音。


家の中を一度、見回す。

電気。

窓。

何もない廊下。


——何も、見えない場所。


母は、それで十分だった。


「夜中に出るなら、ひと声かけてよね」


「……ごめん」


母は、首を振る。


「いいの」


そして、ホテルへ戻っていった。




祖母の霊は、もう姿を見せていない。しかし、

居ることは感じられた。


母は、振り返らずに言った。


「夜中に男がいるとこに行くなんて大胆過ぎよ」


「ちょっとお母さん!そんなんじゃ無くて」


「お互いの境界線は超えたらダメよ。

貴方たちも。

今は閉じてるみたいだから良いけど」


最後の言葉。

誰に向けたものでもない。


けれど、確かに——届く相手がいた。


「2人も早く寝なさいね。おやすみ」


そう言って、扉を静かに閉める。


鍵の音。


夜が、完全に終わる。


何時間も経っているかのように感じる。

時計に目をやると、2時半を過ぎた頃だった。



「とみさんのお母さん、知っとったな。

お婆ちゃんがいたこと」


「あぁ。霊の娘だからな。触れないという選択も、護り方の一つなのかも知れないな」




検証は終わった。


祖母の霊らしきものが家の守り神として居る。

そう、とみさんに報告した。

そして、あまり気にしなくていいとも伝えた。

とみさんは笑顔で頷く。

「2人ともありがとう。また遊びに来てよ」


霊の存在意義が2人の中で変わっていく。


「真実は一つとは限らないって事か、いのさん」

「バーローw」

「何だと!」

大爆笑する2人の声が車から聞こえる。



本編を最後まで読んで頂きありがとうございました。


リケオカのお二人、そしてとみさん

お名前をお借りしてすみませんでした。

良い経験ができました。


祖母は何のために何をしていたのか。


とみさん家系は代々霊媒師の家系で、その血は一つ飛ばしで受け継がれるみたいです。

祖母はそのお役目、本当はやりたくなかったようです。

無理矢理やらされ、自分のやりたかった事ができない悲しみがありました。

その気持ちを孫に味合わせたくないと、家にあまり近づかないように現象を起こしたようです。


愛する孫のために。

祖母はリケオカを祓いやと勘違いしていたようです。

お母さんは霊力はなくとも感じてはいました。

母は強しです。

最後あたりはもう配信していることを忘れてしまっておりました。失礼しました。

また次回。

新エピソードか別の物語でお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ