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ファミリアの旅路

スペクター / イデーの追憶

作者: Aster/蝦夷菊

 スペクター、イデー。俺達の名前は、繋がっているのだと、家系図を見ていて気付いた。

 スペクターは恐怖を表す言葉だが、イデーは概念的存在、神のように崇められることを指していたのだと。つまりは、“神を畏怖せよ”という意味が込められていたのだろう。

 もしくは、死を恐るるべからず、だったかもしれないが。もう確かめようは無い。


 俺達にも、本当の家名はあった。

 俺はウィットロー、イデーはヴィーランド。母親の家名にちなんで、付けられたらしい。

 ビオラと、ウィットロキアナから。


 “スペクター・ウィットロー”。


 “イデー・ヴィーランド”。


 つまり、イデーの兄は“モース・ヴィーランド”だ。


 この名前も気に入っていたが……。今の名前だって、“ファミリアである証”な気がして、いいと思っている。イデーも同じみたいだった。

 いつか、この名を口にすることはあるんだろうか。あったとしたら、それは俺が“私”として、誰かに接する時なんだろう。


 星書庫に居て、交流する機会が増えると、俺は少しずつイデーとの歪な関係を戻して行けているような気がする。

 どうやっても、首の傷は治らないが、それもそのままで良い。何もかもサッパリ消えることなんて、この世に無いんだから。だから、俺はイデーの姉(兄)で居続けるのだ。


 弱かったあの“私”には、もう戻れない。戻らない。


 ごめんなぁ、母さん。義母のフリをして、実の娘である俺の頭を撫ぜることすら出来ずに、死なせてしまって。俺は兄も母さんも、殺す気なんてサラサラ無かったのに。

 魔女よりも魔女らしいよな、俺。人を手にかけたのに、こうしてまだのうのうと生きてるんだ。

 水竜を食ってまで、生きようとした。


 いつか、あいつに謝れるかな。助けてくれてありがとうって、伝えられるかな。竜だって、輪廻転生の輪には入ってるハズなんだ。


 いつまでも、俺は自分をひどく蔑むだろうな。

 今はこの幸せに、微かな棘の刺さるのを感じているのも、贖罪になる。タフなのが俺の唯一の取り柄なんだ。きっと、死ぬまでイデーを守るよ。


 ハナミから貰った黄色のパンジーを、俺は自室に入る度、いつまでも笑みを浮かべて眺めるだろう。


 ※ ※ ※


 僕が一番自分を許せないのは、何も知らぬまま、知らぬが故に姉を傷付けた事だ。兄はとても優しい人だった。私を売ろうだなんて、そんな事と兄を結び付けられる訳が無かった。

 随分と懐いてしまったのが、スペクターを追い詰めた原因の一つになったのだろう。そう思うと、今すぐにでも過去の自分の顔を引っぺがして、角を全て砕いてしまいたくなる。きっと、スペクターは止めるだろう。


 姉は兄になろうとして、まず見た目から似せた。高いところで結んだのも、兄を真似してだ。

 私が鼻を砕いても、首を切り落としてしまっても、スペクターは怒らなかった。冗談交じりに笑って、僕を抱き締めた。その優しさが兄そっくりで、僕は吐き気がした。


 今思えば、グラグラと重心を失い、僕に手を伸ばせど気付かれない状況に立たされたスペクターは、酷く焦燥感に駆られていた。

 何とかして見られようと、必死で。


 気弱な性格だった。スペクターは。

 まるで病を患った女子のように、僕の手に添える手は震えていて、笑みを浮かべるその眉は、不安そうに垂れ下がっていた。


 僕が姉を捻じ曲げたのだ。


 青のパンジーに、僕は優しく触れてみる。

 「お揃いだな」と、そういったスペクターを見て、僕は罪悪感の裏で幸せに胸を割かれたような気持ちだった。


 死んだって、元に戻るわけじゃない。


 あぁ、アセリア。僕は君の弟の気持ちが、凄く分かった気がするよ。

 何一つ愚痴を垂らさず、痛みをシカトして僕を大切にしようとする姉に、どこか嫌悪と不安を感じてしまうんだ。


 「自分をもっと気遣っても良いのに」ってさ。思うんだ、時々。



 …………きっと、もう離れないから。

 複雑な心情を飛び越えて、僕達は手を繋げるから。何も、心配していないよ。


 随分と、シャローム達に助けられちゃった。……今度は僕達が、助ける番…………だよね?


 ※ ※ ※


 スペクター、イデーは『青・黄のパンジー』(花)と『アメトリン』(宝石)をモチーフにして創られた鬼の人型です。

 優しく誠実な心を持っているスペクターと、不器用なイデー。


 選択者、貴方は。

 二人の絆が、最期まで千切れないと思いますか? 更に強固になった繋がりが、命の灯火が、切れず燃え続けると、信じてくれますか?


 短い追憶で、魔女の内情を知ってください。

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