不幸な私はやめにします~継母と義妹に虐げられた日々にもう我慢の限界!家出して見つけたのは、優しい王子様との甘い生活でした~
夜明け前の冷気が肌を刺す頃、リリシアはいつも薄暗い厨房の片隅で目を覚ます。
硬い木の床に敷かれた薄い毛布一枚では、その寒さをしのぎようもなかった。
のろのろと身を起こし、古びて擦り切れたワンピースに袖を通す。
今日もまた、息の詰まるような一日が始まるのだ。
実母を早くに亡くしてから、リリシアの日々は灰色に塗りつぶされてしまった。
父の後妻としてやってきた継母マグダと、その連れ子である義妹クララは、リリシアをまるで召使いのように扱った。
屋敷中の掃除、洗濯、大量の料理の下ごしらえ。食事はいつも厨房の隅で、残り物を立ったまま口に押し込むだけ。
「この薄汚い穀潰しが!」
「あんたみたいなのがいるだけで、家の空気が淀むわ!」
そんな罵詈雑言は日常茶飯事で、リリシアの心はとっくに麻痺してしまっていた。
窓の外に広がる美しい庭園を眺めては、彼女はひとり涙ぐむ。
「どうして私だけこんな運命なの……。きっと私は、生まれながらに不幸な星の下にいるんだわ」
運命を呪い、ただ耐えることしかできない自分を、リリシアは静かに嘆いていた。
それでも、彼女の心には、か細いながらも一本の光が差し込んでいた。
それは、幼い頃に親同士が決めた婚約者、子爵家の次男であるエドガー様の存在。
彼は時折、この息の詰まる屋敷を訪れては、リリシアにだけ優しい言葉をかけてくれた。
「リリシア、辛いだろうがもう少しの辛抱だ。いつか必ず、私が君をここから連れ出してみせる」
その言葉を、彼女は心の奥底で大切に、大切に握りしめていた。
エドガー様だけが、私をこの灰色の世界から救い出してくれる。
彼との未来を夢見ることだけが、リリシアが日々をやり過ごすための、唯一の支えだったのだ。
その日、リリシアは朝から胸騒ぎを覚えていた。
継母マグダが珍しく上機嫌で、義妹クララは朝から新しいドレスを身に纏い、そわそわと落ち着かない様子だったからだ。
昼過ぎ、玄関のベルが鳴り、メイドが「エドガー様がお見えになりました」と告げた。
リリシアの心臓が、とくん、と大きく跳ねる。
ついに、あの方が約束を果たしに来てくださったのだわ……!
ほのかな期待に胸を膨らませ、彼女は継母に呼ばれるまま、恐る恐る応接間へと向かった。
しかし、そこにいたエドガーの表情は、リリシアが夢見ていたものとは程遠かった。
彼はリリシアを一瞥すると、冷たく言い放った。
「リリシア、残念だが君との婚約は破棄させてもらう」
その言葉は、まるで氷の刃のようにリリシアの胸を貫いた。
「君のような娘では、私の将来に釣り合わないのだよ」
彼は悪びれる様子もなく続ける。
リリシアは言葉を失い、ただ震える唇を噛みしめることしかできなかった。
そこへ、勝ち誇ったような笑みを浮かべたクララが、エドガーの腕にそっと自分の手を絡ませた。
その仕草は、リリシアの目の前で残酷な真実を見せつけるかのようだった。
「そして、エドガー様は、この私と新たに婚約を結ばれることになったの。お姉様、残念でしたわね?」
クララの甲高い声が、リリシアの耳の中で不快に響く。
「賢く美しいクララ嬢こそ、私の未来にふさわしいのだよ。彼女の父君……いや、今や私の義父となられるお方の力添えもあって、私の道は大きく開かれるだろう」
エドガーは、もはやリリシアのことなど眼中にないかのように、クララを愛おしげに見つめてそう言った。
信じていた人からの裏切り。
そして、自分を虐げてきた義妹の高笑い。
リリシアの心の中で、最後の希望の糸が、ぷつりと音を立てて切れた。
ああ、やっぱり私は不幸なんだわ……。
誰からも愛されず、誰からも必要とされない、ただ惨めなだけの存在なのだ。
熱い涙が頬を伝い、彼女はその場に崩れ落ちそうになるのを、必死で耐えていた。
エドガーとクララが嘲笑を残して応接間から去った後も、リリシアはしばらくその場から動けなかった。
魂が抜け殻になったように、何も感じられない。何も考えられない。
ふらふらとした足取りで、彼女は自分のねぐらである屋根裏部屋へと戻った。
そこへ、追い打ちをかけるように義妹のクララがやってきた。
その手には、リリシアが実母から受け継いだ、唯一の形見である小さな花の刺繍が施された古いハンカチが握られていた。
それは、リリシアが心の奥底で、誰にも汚されぬよう大切に守ってきた宝物だった。
「あら、お姉様? まだこんな薄汚い部屋にいたの? エドガー様も、あんなみすぼらしい婚約者がいなくてせいせいしたって仰ってたわよ」
クララはリリシアの目の前で、そのハンカチをひらひらと見せびらかした。
「こんな古いハンカチ……いつまで大事に持っているのかしら。でもまあ、お姉様にぴったりね。ああ、でも、ちょっと汚れちゃってるみたい」
そう言うと、クララはわざとハンカチを床に落とし、ヒールの踵で無慈悲に踏みつけた。
泥と埃にまみれ、無残に引き裂かれそうになる母の形見。
その瞬間、リリシアの中で、何かが激しく燃え上がった。
それは、絶望の底から湧き上がる、生まれて初めて感じるような熱い怒りだった。
彼女は汚れたハンカチをひったくるように拾い上げ、震える手でそれを握りしめた。
そして、顔を上げ、クララを真っ直ぐに見据える。
その瞳には、もはや涙はなく、まるで鋼のような強い光が宿っていた。
「もう、たくさんよ……!」
絞り出すような、けれど芯の通った声が、リリシアの唇からほとばしる。
「もう、泣いてばかりいるのは終わりにするわ! 人に裏切られ、踏みにじられ、ただ不幸だと嘆くだけの私なんて……!」
リリシアは大きく息を吸い込み、そして、はっきりと宣言した。
「今日で、今この瞬間で、やめにする! 私の幸せは、他の誰かに与えられるものじゃない。この私が、この手で掴み取ってみせるわ!」
その言葉は、屋根裏部屋の埃っぽい空気を震わせた。
クララは、見たこともないリリシアの気迫に一瞬怯んだが、すぐに嘲りの笑みを浮かべた。
「なんですって? あんたに何ができるっていうのよ!」
しかし、リリシアはもうクララの言葉など聞いていなかった。
彼女の心は、固く決まっていた。
その夜、リリシアは僅かなパンと水、そして泥を丁寧に洗い流した母のハンカチだけを胸に抱き、誰にも気づかれずに、あの息の詰まる屋敷を永遠に抜け出したのだった。
◆
屋敷中の誰もが寝静まった深夜、リリシアは息を殺して自室の屋根裏部屋を抜け出した。
ギシ、と床板の軋む小さな音にさえ、心臓が飛び跳ねそうになる。
手には、昼間洗い清めた母のハンカチと、厨房からこっそり持ち出した僅かなパンと水を入れた小さな布袋だけ。
それ以外には、何も持たなかった。
あの家にあるものは、もはや何一つとして彼女にとって大切なものではなかったからだ。
月明かりだけが頼りの薄暗い廊下を、リリシアはまるで影のように進む。
一歩一歩が、これまでの自分との決別であり、未知の未来への踏み出しだった。
恐怖がなかったと言えば嘘になる。
この屋敷の外には、どんな危険が待っているのだろう。
たった一人で、どうやって生きていけばいいのだろう。
不安が黒い霧のように胸に立ち込める。
けれど、それ以上に強い光が、彼女の心の中には灯っていた。
「不幸な私をやめるんだ……!」
昼間の決意を何度も胸の中で繰り返す。
あの言葉が、震える膝に力を与え、凍える指先を温めてくれるようだった。
裏口の重い扉を、リリシアは渾身の力を込めてゆっくりと開ける。
冷たい夜気が頬を撫で、自由の香りがした。
振り返ることなく、彼女は暗い庭を横切り、そして、固く閉ざされていたはずの小さな通用門から、音もなく外の世界へと滑り出した。
もう、誰の言いなりにもならない。
自分の足で、自分の人生を歩き出すのだ。
リリシアは、星の見えない夜空を見上げ、小さく、しかし力強く頷いた。
屋敷を抜け出したリリシアは、ただひたすらに、隣国へと続くという深い森を目指して歩いた。
人に見つからないように、夜は森の茂みに隠れ、昼は人気のない獣道を選んで進む。
最初のうちは、解放感と、未来への微かな希望が彼女を支えていた。
鳥のさえずり、木々の緑、土の匂い。その全てが、あの息の詰まる屋敷では感じることのできなかった、生きている証のように思えた。
しかし、森は優しくもあり、そして厳しくもあった。
三日が過ぎる頃には、持ってきたパンも水も底をつき、空腹が容赦なく彼女を襲う。
夜は獣の遠吠えに怯え、雨に打たれて体温を奪われ、木の根を枕に眠る日々。
慣れない森歩きで足は傷つき、服は泥と朝露で汚れきっていた。
あれほど強く抱いた決意も、体力の消耗と共に、少しずつ弱々しいものへと変わっていくのを感じる。
「もう……だめ……」
五日目の夕暮れ時、リリシアはついに力尽き、大きな樫の木の根元にずるずると座り込んだ。
空腹と疲労で、指一本動かすのも億劫だった。
こんなところで、誰にも知られずに死んでいくのだろうか。
結局、私は不幸な運命から逃れることなんてできなかったんだわ……。
諦めの色が、再び彼女の心を覆い尽くそうとしていた。
薄れゆく意識の中で、リリシアは母のハンカチを固く握りしめる。
その時だった。
カサリ、と近くの茂みが揺れる音。
続いて、凛とした、けれど優しい声が鼓膜を震わせた。
「そこに誰かいるのか……?」
リリシアは最後の力を振り絞って、かろうじて顔を上げた。
夕闇が迫る森の薄明りの中、そこに立っていたのは、狩りの装束を纏った一人の青年だった。
夕日に照らされたその髪は柔らかな金の光を放ち、切れ長の瞳は深い森の湖のような静けさと理知的な輝きを宿していた。
まるで物語の中から抜け出してきたかのような、息をのむほど美しい青年。
彼は、地面に倒れ込んでいるリリシアの姿を認めると、驚いたように目を見開き、そしてすぐに心配そうな表情で駆け寄ってきた。
「大丈夫か! しっかりしろ!」
青年はリリシアのそばに膝をつき、その額にそっと手を当てる。
その手の温かさに、リリシアの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。
それは、絶望の中で差し伸べられた、あまりにも温かい救いの手だった。
彼の深い青色の瞳に見つめられながら、リリシアの意識は、安堵感と共に静かに遠のいていった。
◆
リリシアが次に目を覚ましたのは、柔らかな寝台の上だった。
窓からは優しい朝の光が差し込み、小鳥のさえずりが聞こえてくる。
身体を覆うのは、ふかふかとした上質な毛布。そして、部屋には微かに薬草と、温かいスープのいい匂いが漂っていた。
ぼんやりとした頭で状況を思い出そうとしていると、静かに扉が開いた。
「気がついたか。気分はどうだ?」
入ってきたのは、森で彼女を助けてくれたあの美しい青年――アルフォンスだった。
彼は手にした木製の盆をサイドテーブルに置くと、リリシアの額にそっと手を当てた。
「まだ少し熱があるな。無理はするなよ」
その自然な気遣いに、リリシアの胸が小さく温かくなる。
それから数日間、リリシアはアルフォンスの献身的な介抱を受けた。
彼が住んでいるらしきその狩猟小屋は、質素ではあったが隅々まで手入れが行き届いており、暖炉にはいつも温かな火が燃えていた。
アルフォンスは、リリシアのために滋養のあるスープや、森で採れた果物を用意してくれ、時には怪我の手当てのために薬草を煎じてくれた。
彼は多くを語らなかったが、その行動の端々から、リリシアを心から心配し、労わっているのが伝わってきた。
生まれて初めて受ける、見返りを求めない純粋な優しさ。
リリシアは、凍てついていた心が少しずつ溶けていくのを感じていた。
警戒心はいつしか感謝へと変わり、そして、この見ず知らずの青年に、不思議な安らぎを覚えるようになっていた。
リリシアの体力が少しずつ回復してきたある夜のこと。
暖炉の火がぱちぱちと音を立てる静かな小屋の中で、アルフォンスはリリシアに優しく問いかけた。
「もし、話せるのならでいい。君がなぜあんな森の奥で倒れていたのか、教えてはもらえないだろうか」
彼の真摯な眼差しに、リリシアはもう隠し事をすることはできないと感じた。
そして、ぽつり、ぽつりと、自分の辛い過去を語り始めた。
継母と義妹からの長年の虐待。唯一の希望だった婚約者からの裏切り。そして、全てに絶望し、「不幸な私をやめる」と決意して家を飛び出してきたこと……。
話しているうちに、堪えきれなくなった涙が次々と頬を伝い落ちた。
アルフォンスは、黙ってリリシアの話に耳を傾けていた。
その美しい顔には、次第に深い同情と、そしてリリシアを虐げた者たちへの静かな怒りの色が浮かんでくる。
リリシアが全てを語り終え、しゃくり上げるのを必死でこらえていると、アルフォンスはそっと彼女の震える肩に手を置いた。
「……辛かったな。よく、一人で耐えてきた」
その声は、いつもの落ち着いたトーンとは違い、感情の揺らぎが感じられた。
「君は何も悪くない。君のその勇気と、どんな状況でも失われなかった心の美しさを、私は素晴らしいと思うよ」
彼は力強く言った。
「これからは私が君を守る。君を決して不幸にはさせない。このアルフォンスが、必ずだ」
その言葉は、まるで騎士の誓いのように、リリシアの心の奥深くに響いた。
彼女は顔を上げ、涙に濡れた瞳で彼を見つめる。そこにいたのは、ただ優しいだけでなく、頼もしく、そして何よりも信頼できる男性の姿だった。
数日後、リリシアの体調が完全に回復したのを見計らって、アルフォンスは彼女に告げた。
「君にはもっと安全で、温かい場所が必要だ。私と共に来てほしい」
彼に連れられて向かった先は、壮麗な王都。そして、その中心にそびえ立つ壮大な王宮だった。
リリシアが息をのむほど美しいその場所で、アルフォンスは静かに自分の正体を明かした。
「私は、アレクシオス・フォン・エルツハウゼン。この国の第二王子だ。森ではアルフォンスと名乗っていたが、それは……まあ、色々とな」
少し照れたように言う彼に、リリシアは驚きのあまり言葉も出なかった。
目の前の優しい人が、まさか一国の王子様だったなんて。
リリシアは恐縮し、身を固くしたが、アレクシオス王子はそんな彼女に優しく微笑んだ。
「私の前では、身分など気にせず、ただのリリシアでいてほしい。君が安心して過ごせるよう、離宮に部屋を用意させた」
王宮の離宮は、まるでおとぎ話に出てくるお城のように美しく、そこでリリシアは夢のような日々を過ごすことになった。
侍女たちが彼女にかしずき、毎日美しいドレスが用意され、美味しい食事が運ばれてくる。
そして何よりも、アレクシオス王子が毎日彼女の元を訪れ、共に庭を散策したり、図書室で本を読んだり、穏やかで優しい時間を過ごした。
彼はリリシアを心から大切にし、彼女が些細なことで笑うと、自分も嬉しそうに目を細めるのだった。
リリシアは、アレクシオス王子の深い愛情に包まれ、生まれて初めて「大切にされる」ことの喜びを知った。
彼の誠実さ、優しさ、そして時折見せる少年のような無邪気な笑顔に、日に日に強く惹かれていく自分を感じる。
けれど、相手は王子様。自分はただの元貴族の娘で、しかも不幸な過去を背負っている。
この幸せは、いつか消えてしまう泡のようなものなのではないか……。
そんな不安と、彼への抑えきれない恋心との間で、リリシアの心は揺れ動くのだった。
アレクシオスもまた、リリシアの純粋さ、健気さ、そして彼女が時折見せる芯の強さに、ますます愛情を深めていく。彼女の笑顔を見るたびに、この笑顔を永遠に守りたいという想いが、彼の胸を熱くするのだった。
◆
リリシアが王宮の離宮で穏やかな日々を過ごし始めてから、しばらく経ったある日のこと。
アレクシオス王子が、少し改まった表情で彼女の部屋を訪れた。
「リリシア、君を苦しめていた者たちのことだが……もう心配はいらない」
彼の言葉に、リリシアは息を呑む。
アレクシオスは静かに語り始めた。
彼の命を受けた者たちの調査により、継母マグダと義妹クララの長年にわたるリリシアへの虐待行為、そして元婚約者エドガーの裏切りと、クララとの婚約の裏にあった金銭的な取引や野心などが、全て明るみに出たという。
それらの事実は国王陛下にも報告され、陛下は大変お怒りになったそうだ。
「マグダとクララは、貴族の地位を剥奪され、全財産を没収の上、辺鄙な地の修道院へ送られることになった。二度と誰かを虐げることのないよう、厳しい監視の下で生涯を送ることになるだろう。そして、エドガーという男だが……彼はクララとの婚約も当然破談となり、その不誠実な行動と野心は騎士団内にも知れ渡り、全ての信用を失った。もはや騎士としての道も、貴族社会での未来も閉ざされたも同然だ。聞けば、彼は君が今、私の庇護下にあると知り、自分の愚かな選択を激しく後悔しているらしいが……自業自得というものだ」
アレクシオスの言葉を聞きながら、リリシアの胸には様々な感情が去来した。
長年苦しめられてきた相手の末路に、わずかな憐憫の情も湧かないわけではなかったが、それ以上に、ようやく過去の悪夢から完全に解放されたという安堵感が大きかった。
もう、あの者たちのことで心を痛める必要はないのだ。
アレクシオス王子が、その全ての鎖を断ち切ってくれた。
「ありがとう、ございます……アレクシオス様……」
リリシアは、感謝の気持ちで胸がいっぱいになり、そっと涙を拭った。
その夜は、美しい満月が王宮の庭園を銀色に照らし出していた。
アレクシオスはリリシアを誘い、月明かりの下、芳しい夜花の咲き誇るテラスを二人で歩いていた。
心地よい夜風が、リリシアの髪を優しく揺らす。
不意に、アレクシオスが立ち止まり、リリシアに向き直った。
その真剣な眼差しに、リリシアの心臓が小さく跳ねる。
「リリシア」
アレクシオスは彼女の手を優しく取り、そのアイスブルーの瞳で真っ直ぐに見つめた。
「君と出会ってから、私の世界は色鮮やかに変わった。君の強さ、優しさ、そしてその美しい心に、私はどうしようもなく惹かれたのだ」
彼の言葉の一つ一つが、リリシアの心に温かく染み込んでいく。
「身分など、私にとっては些細なことだ。私が欲しいのは、飾らない、ありのままの君だ。私の隣で、永遠に微笑んでいてほしい」
そう言うと、アレクシオスはそっと片膝をつき、小さなベルベットの箱を取り出した。
箱の中には、月の光を受けて清らかに輝く、美しい指輪が収められていた。
「どうか、私の妃になってくれないか。リリシア」
それは、リリシアがかつて夢見ることもできなかった、あまりにも甘く、そして誠実なプロポーズだった。
喜びと感動で胸がいっぱいになり、彼女の瞳からは大粒の涙がとめどなく溢れ出す。
「はい……! 喜んで……アレクシオス様……!」
震える声で、しかしはっきりと彼女は答えた。
「私も、あなたを心から愛しています。もう私は……不幸ではありません。あなたと共に、幸せを掴みました……!」
アレクシオスは安堵と歓喜の微笑みを浮かべると、指輪をリリシアの薬指にそっとはめ、そして立ち上がって彼女を優しく抱きしめた。
月明かりの下、二つの影は固く結ばれ、永遠の愛を誓い合うのだった。
それから数ヵ月後、王宮の大聖堂では、アレクシオス第二王子とリリシアの盛大な結婚式が執り行われた。
純白のウェディングドレスを身にまとったリリシアは、まるで朝露に濡れて輝く白い花のようだった。
その隣には、誇らしげに微笑むアレクシオス王子。
かつて運命を呪い、自分の不幸を嘆いていた少女の面影は、そこにはもうない。
彼女の瞳は自信と幸福に満ち溢れ、その笑顔は周囲の全てを明るく照らすかのようだった。
祭壇の前で愛を誓い合う二人を、国王夫妻をはじめ、多くの人々が温かく祝福した。
リリシアは、アレクシオスの手を取りながら、心の中でそっと呟いた。
(不幸な私は、あの日に置いてきた。そして、勇気を出して踏み出したあの一歩が、こんなにも温かくて、甘くて、幸せな未来に繋がっていたなんて……)
彼女の幸せは、誰かに与えられたものではない。
自らの意志で選び取り、そして愛する人と共に築き上げた、かけがえのない宝物だった。
アレクシオス妃となったリリシアの、優しくも強い心根と、彼女が生み出す温かな雰囲気は、やがて王宮だけでなく、国全体にも良い影響を与えていくことになるだろう。
そして彼女は、愛する夫と共に、その手で掴んだ幸福を、これからも大切に育んでいくのだった。
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パンを焼いてただけなのに~お忍びで来た冷酷王子の胃袋を掴んだ結果、なぜか過保護に溺愛されています~
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