049 サラに許してもらうために
俺は武闘大会の会場を出ると、そのまま教会に向かった。後ろには手を引かれ付いて来るサラがいる。
レオン陛下に寸止めとはいえ回し蹴りを放ち、何も言わずに頭を下げた軽い謝罪だけをして、その場を後にした。
しかし、目の前にいたサラへの対応の方が重要だった。
それにもしも、サラへの謝罪を間違えれば俺は死ぬことになるので、レオン陛下への非礼を気にしても仕方がない。
もしサラに殺されたら、その死をもって謝罪としてもらう。
俺が悲壮な決意をもって歩いていると、目の前に教会が見えてきた。
サラを連れて教会に入った俺は、すぐに神父に寄付を渡して、しばらく教会を貸切りたいとお願いする。
最初は困惑する神父だったが、突然、天を仰ぎ両手を握り祈りを捧げ始めた。そして、後ろに立つサラに向かって大きく頷き了承してくれた。
人払いされた教会に俺とサラの二人だけになるとサラと向き合い、狐のお面を外して謝罪の言葉を述べる。
「サラ、すまなかった。これで許してくれるとは思わないが、これが俺の気持ちだ」
サラの瞳をまっすぐ見つめ、両膝を地面につけて頭を下げ頸部を晒し出すと、打ち首を待つ罪人の姿勢になる。
もはや何を言ってもサラには言い訳にしか聞こえないと悟った俺は、まず誠意を見せることにした。
たとえこのまま首を落とされても文句を言うつもりはない。
だがやはり、少し怖いのかかすかに震える。もし出来ることなら最後に家族に会って、別れの言葉を伝えたかった。
◆
アッくんの優しさにつけ込んで抱いてもらい、妹思いの性格を利用して婚約を強要しようとしたミザリー先輩。
そんな彼女に、聖属性の超特級魔法:神槍聖剣光弓の神撃を発動しようと魔力を練り上げている途中で、ミザリー先輩のレオン陛下が横槍を入れてきた。
しかも言うに事欠いて、フウマなら婚約を認めるとほざき、アッくんを臆病者と罵りやがった。
それにミザリー先輩も第一夫君がアッくんで、第二夫君がフウマなどと夢のようなプランを打ち上げて、怒りの炎に薪をくべた。
胸の内にある業火のような怒りを力に変えた私は、魔力を最大限に練り込み、ミゲイルの神気も借りて極限にまで構築された神槍聖剣光弓の神撃を放とうとした。
その瞬間、アッくんが私の手を握り会場から連れ出した。
あと少しでベストレア王家一族に甚大なダメージを与えられたのに、アッくんに邪魔をされて頬を膨らませて睨む。
すると、私の手を強く握り締め、教会に行くから付いてきてほしいと言われた。
いきなり結婚式を挙げたいと告げられ動揺した私は、超特級魔法の展開途中で開いたままとなった天界の門を閉じ忘れてしまった。
――――――――――――
教会に着いた私たちはそのまま中に入る。アッくんは二人だけで挙式をしたいと神父に寄付を渡して人払いをお願いする。
だが、午後のミサに影響するのか神父が渋い顔をしたので、ミゲイルに頼み神託を授けて二人だけにしてもらう。
誰もいなくなった教会で私たちはお互いを見つめ合い、アッくんが狐の仮面を外して顔を近づけると愛の言葉を告げた。
「サラ、すまなかった。これで許してくれるとは思わないが、これが俺の気持ちだ」
アッくんはその黒き瞳に億千万の星を輝かせて、じっと私を見つめる。そのまま両膝をつくと聖騎士が聖女に叙勲されるときにする姿勢をとった。
私に愛の言葉を囁き、その身のすべてを捧げると伝えたアッくんの姿に感動して、目に涙が溢れてくる。
そして、彼も同じ気持ちなのかわずかに体が震えている。そっとアッくんの首に触れるとビクッと体を揺らすが、姿勢はそのままだ。
首から手を離して体を起こした私は、背後に現れたミゲイルから赤き神剣を受け取る。すると突然、教会中が金色に輝く神気で満たされる。
ミゲイルのおかげで神聖な空間へと変わり準備が整う。
私は神剣でアッくんの肩を軽く叩くと、アッくんは緊張の限界にきたのか、そのまま倒れて両手を地面についた。
「ふふふ、大丈夫、アッくん? 緊張したかしら? でも、これで私たち二人を神がお認めになり、そして、お許しになったわ。私たちは晴れて一つになったのよ」
私が結婚式と神聖騎士の叙勲式、二つの神聖な儀式が終わったことを告げても、まだ緊張が解けないのか、地面に手をついたままだ。
やはり、アッくんも人間なのだと思い知らされた。
男性にとって結婚式とは、人生を懸けた一大イベント。いくら相思相愛の二人でも、結婚するときに緊張しない方がおかしい。
それに聖騎士を上回る神聖騎士の叙勲式も兼ねているとなると、尚更緊張したのだろう。
蹲り肩で息をするアッくんに特級の治癒魔法をかけて癒してあげた。
◆
サラが首を切り落とすために神剣で肩を叩き狙いを定めている途中――不覚にも死の恐怖に耐えられず、体中の力が抜け膝から崩れ落ちてしまった。
――前世では任務のためとはいえ、恨みも罪もない多くの人間を殺してきたのに本当に情けない。
自分の不甲斐なさと心の弱さに打ちのめされ、拳を握り締め歯を食いしばり耐えていると、なぜかサラが特級の治癒魔法を俺にかけた。
「命王神と生皇神の慈光 (パーフェクトヒール)」
部位欠損すら瞬時に修復する特級の治癒魔法は、体だけではなく心も癒してくれるみたいだ。
さっきまで心を支配していた非難する気持ちも少しだけ和らぎ、冷静に物事を考える余裕を与えてくれた。
目前に迫る死の恐怖ではっきりと聞き取れなかったが、たしかにサラは「神がお許しになった」と言った。
つまり、俺に対する原因不明の怒りも収まっていると思って良いはずだ。
俺は恐る恐る立ち上がり、サラの顔を見つめると、なぜか目に涙を浮かべて微笑んでいた。
とりあえず、サラの顔から怒りの色は見えず、俺のことを許したのだと分かり、安心する。
俺も微笑み返し、ミリーとの用事があることを告げて足早に教会を後にした。
◆
アッくんは私への忠誠を誓って立ち上がると、ようやく緊張から解放されたのか安堵の表情を浮かべ、優しく微笑み返してくれた。
その表情はどこか人生最大の山場を乗り切ったような妙に達成感に満ちた顔をしていた。
それほどまでに私だけの神聖騎士になれたことが嬉しかったのかと思うと、再び感極まり目に涙が溢れてくる。
そして、私の心が愛に満ち溢れると新たな力が生まれるのを感じた。
その力が何か探ろうとしたとき、アッくんがミザリー先輩に別れを告げると言って教会を後にした。
新たに得た力も気になったが、愛する旦那様が、しつこく付きまとうミザリー先輩と決別する。
そのために会いにいこうとする彼の背中を見つめながら、無事に帰って来れるよう神に祈りを捧げた。
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