277 竜人の七王、武人同士の決闘
俺たちが七王の玉座の間に入ると、すぐに背後の門が消えてなくなった。ある程度予想はしていたが、少しだけ緊張感が増す。
息を吐き、肩の力を抜くと、隣を歩くガリュウに声をかける。
「どうやら、閉じ込められたらしいな。まあ、入口に転移する仕掛けがあるぐらいだ。これぐらいの罠は十分に考えられるな。それでだ、あの玉座に座るリザードマンが七王なんだろうな」
真っすぐ前を見据えるガリュウ。その視線の先には、豪奢な玉座に座る紺碧のマントを羽織ったリザードマンの姿があった。
その瞳に知性が宿り、頬杖をついてこちらを見つめている。さすが四天王の一角だ。下級の魔物とは思えない圧力を感じる。
ひゅっと息を吸い込むと、ガリュウが肩をすくめた。
「ライデン、失礼にもほどがあるぞ。あれはリザードマンなんかじゃない。よく見てみろ、頭には角が生えているだろう。あれはドラゴニュート――竜人だ」
さすが獣人だ。視力も俺たち人間よりも遥かに上だ。感心しつつ、ガリュウの言葉に促され、強化魔法を両目に施して見据える。
たしかにその姿は、手足が細くて長いリザードマンとは全然違っていた。鱗に覆われているが、その肉体は筋肉が隆起して鍛えられている。
それに頭から生えた角は鋭く後方に伸び、電気を帯びているようだ。埃に触れるたびに、わずかに火花を散らす。
――たしかに失礼だった。魔物の中でも最上位のドラゴン。それに連なる亜人。リザードマンとは格も強さも、何もかもが違い過ぎる。
「……たしかにな。まさかこんなところに竜人がいるとは思わなかった。ひとつ聞いてもいいか、ガリュウ?」
七王との決戦の前だが、つい以前から気になっていたことを尋ねた。
「竜人は、やはり獣人とは違うのか?」
その言葉にガリュウは眉をひそめた。あまり触れられたくない話なのかもしれない。思わず前言を撤回しようとしたとき、ガリュウが答えた。
「大きく括るなら、同じ種族と言っていい。竜から人に進化したか、獣から人に進化したかの違いはあるが、最終的に人になったんだ」
ガリュウの表情の意味に気づく。同じ『人族』である目の前の竜人と戦わなければならない。そのことに胸を痛めている。
たしかに獣人も人間も、同じ人族だ。竜人もそうなら、俺にとっても同族と戦うことになる。
――よほど強大な魔物の討伐のほうが気持ちが楽だ。舌打ちしそうになり、ぐっと堪えて、どうすべきか考える。
操られているのか、自らの意思なのか――分からないが、四天王の一角だ。戦いは避けられないし、少しでも剣が鈍れば、一気にやられてしまう。
それはガリュウも同じだ。それに人間の俺よりも、竜人に近い獣人であるガリュウのほうが、同情して攻撃を躊躇う可能性がある。
ここは俺が戦い、ガリュウにはサポートに回ってもらう。そう覚悟を決め、口を開こうとしたとき、ガリュウの目つきが変わった。
「ライデン、ここは俺に任せてもらう。一度、伝説の竜人と戦ってみたかったんだ。魔物討伐から武人同士の決闘になっただけだ。むしろ俺にとって好都合だ」
ガリュウは瞳孔を細めて獰猛に笑う。その姿を見て、苦笑いを浮かべた。
――たしかにその通りだ。
同族同士の決闘なら、今まで何度もしてきた。竜覇王虎武闘大会に出場してきたガリュウなら尚更だ。
捉え方や考え方次第だと教えられた。魔物討伐よりも気楽と言い切ったガリュウが頼もしく見える。
俺はガリュウの肩に手を置き、揶揄うように告げた。
「わかった、ガリュウ。ここはお前に譲ってやる。伝説の竜人と、獅子族の若き王の闘いを特等席で見せてもらうぞ」
ガリュウは俺の手を軽く叩き、払いのけると一気に走り出した。そして、七王が座する玉座の前に突っ込む直前、俺に向かって親指を立てた。
◆
七王の玉座に向かって走る途中、後方に控えるライデンをちらりと見て、親指を立てた。俺に任せると言われた。ならば期待に応えるだけだ。
やがて玉座に座する七王の前に着くと、俺は頬杖をついて見下ろす竜人を睨みつけた。
「おい、あんたが七王でいいのか?」
竜人は俺の言葉に反応することなく、ただ見据えている。王といえど、質問には答えるのが礼儀だ。俺はこめかみに青筋を浮かべ、一歩踏み出した。
その瞬間、竜人は面倒くさそうに手を払うと、迅雷が迸り、俺を襲った。手首を動かしただけだが、その威力は凄まじかった。
だが、俺も百獣の王――獅子族の血を引く戦士だ。一気に聖獣神化を成して白銀の獣神に変身すると、迫り来る迅雷を真正面から受けた。
かすかに痺れるが、大したことはない。無傷だ。俺は口角を上げ、何ごともなかったかのように歩を進める。
「なるほど、獅子族の者か。よく俺の一撃を受けきった。褒めて遣わす。貴様の名は?」
「はっ! 名乗るなら、まずは自分から名乗れよ。それに先に俺の質問に答えろ。お前が七王か?」
玉座に座る竜人は笑みを浮かべ、立ち上がった。
「傲岸不遜とは、このことだな。だが、まぁいいだろう。俺が七王だ。そして名はリューハ。それでお前の名は?」
目の前に立つ竜人は思いのほか小さかった。身長は二メートルぐらい。筋肉はあるが、引き締まっていて、無駄に大きくなかった。
注意深く見ている俺に、再び迅雷が襲い、肩に直撃した。その瞬間、リューハは手首を振っていた。ただそれだけで、これほどの威力の雷撃を撃てるとは――。
呆然と見つめる俺に、リューハは睨みつける。
「それで、お前の名は?」
そこで、こちらがまだ名乗っていないことに気づき、頭を下げる。
「すまなかった。俺はガリュウだ。ベストレア獣王国の王太子だ」
名前だけでよかったかもしれないが、なぜか身分や国まで教えてしまった。しかし、その言葉に、わずかに目を見開くリューハ。
その様子に首を傾げると、リューハは玉座が置かれた壇上から下り、俺の目の前で立ち止まった。
「そうか、お前がベストレア王家の末裔か。これは面白いな。久方ぶりに血が滾る。いいだろう、貴様を俺の敵と認めよう。すぐに戦うぞ!」
そう叫び、リューハは紺碧のマントを剥ぎ取り、投げ飛ばした。思わず、その姿に目を見張る。
鎧のように鍛え抜かれた胸板には、七つの星のような傷跡が浮かび、かすかに光を放っていた。
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