275 四天王への布陣、仲間という宝
珍しくアーク視点のみです<(_ _)>
ガリュウが胸に手を当て、視線を落とした。自分の中に眠るバロンと向き合おうとしている。
その姿に頷き、正面に目を向けて白亜の会堂を見据える。ライデンさんが言ったとおり、見た目は荘厳だが、わずかに胡散臭さを感じた。
十王の遺跡の最奥――探索の終着点。四天王を討伐すれば、そこで目的は達成される。
――だが、本当に終わりだろうか。かすかに不安がよぎる。
あくまで勘だ。不確定要素に心を乱されるわけにはいかない。俺は天使の力を解放し、魔力と重ねた。
背中には十二枚の白銀翼が現れる。その翼を見つめ、自分の変化に思考を巡らす。
フォルテやサラから告げられた『神性体』と『真の一体化』――この二つの言葉がずっと頭の中から離れなかった。
そして、ガリュウが十王の討伐を諦めると言ったとき、彼の仲間を案じる想いを悟り、自らの力不足――不甲斐なさに怒りが込み上げてきた。
その二つが重なった瞬間、俺の中で何かが弾け、『神性体』への変化が始まった。まだ少しだけだが、確実に人間の肉体ではなくなりつつある。
俺も自らの胸に手を当て、心臓の鼓動を感じ、その隣にある新たな臓器――魔核の存在を確かめた。
魔核とは魔族しか持ち得ない臓器だ。魔力を生み、溜めていく器――。
この臓器のおかげで、生まれたときに魔力が固定される人間とは違い、魔族は肉体の成長が止まるまで、魔力も増幅し続ける。
家族の中で最も魔力が少なかった俺だが、皮肉なことに人間をやめたことで、公爵家に相応しい魔力を得ようとしている。
思わず苦笑いを浮かべると、スカイが声をかけた。
「おい、アーク。それで誰が、どの四天王と謁見するんだ? みんな、それなりの準備と覚悟が必要だと思うが……」
スカイはそこで言葉を切り、ライデンさんに視線を向けた。
「そういえば、ライデンさんは四天王――四体の魔物の正体を知っているんですか?」
スカイが問いかけると、ライデンさんは肩をすくめ、首を横に振る。
「悪いが、不死鳥も知らないらしい。だが、四天王と呼ばれているが、厳然たる序列が存在する。まぁ、察しの通り、十王が一番強く、九王がそれに続く」
冗談めいた口調だが、ライデンさんの目は真剣そのものだ。誰がどの王を討伐するのか――思考の海に潜る。そのとき、フォルテが声をかけた。
「アーク、私から提案です。まず十王にはアークとスカイ。九王は私、八王はサラ。そして、最後の七王はライデンさんとガリュウでどうでしょうか?」
顔を上げると、彼女は漆黒の十翼をはためかせ、笑顔を浮かべていた。その姿に天使長だったころに俺の補佐――天使参謀を務めていたサタナルが重なる。
何か理由があるのだろう。俺はまっすぐに彼女を見つめて尋ねると、彼女はわずかに頬を染めながら答えた。
「……まず、序列が一番低い七王には、まだ本当の力が目覚めるか分からないガリュウと、不死鳥のおかげで万全になったとはいえ、一度は死にかけたライデンさん――不安要素が残る二人がいいと思います」
理屈は分かる。論理的な説明に俺は頷き、続きを促す。
「そして、四天王最強の十王には、私たちのパーティーの最高戦力であるアークとスカイを当てます」
フォルテは俺とスカイを交互に見て微笑みかけると、スカイは表情を引き締めて頷いた。俺はサラに視線を移し、最後の質問を投げかけた。
「それで、なぜフォルテが九王で、八王の相手はサラにしたんだ?」
その言葉にサラは眉をひそめた。やはり納得していないようだ。そんな彼女を見ながら、フォルテは笑みを深めた。
「理由は簡単です。単に実力で決めました」
そう静かに告げて、フォルテは漆黒の翼を広げる。艶やかな十翼が純白の大理石に映り、白亜の会堂をわずかに黒く染める。
白と黒――幻想的な風景に目を奪われると、彼女はくるりと背を向けた。黒く光る羽が無数に舞い、さらに白の領域を夜の色彩へと塗り替えていく。
次の瞬間、目を大きく見開く。十枚の翼を広げるフォルテの背中に、さらに小さな翼が生えていた。
十翼だと思っていた漆黒の翼は二枚が加わり、俺と同じく十二翼となっていた。誰も気づいていなかったのか、その姿に息を呑む。
「ふふふ、『真の一体化』のおかげでしょうか。私も少し成長したようです。アークには敵いませんが、それでも十二枚の翼を得ました。サラと同じく本来の力は半分程度ですが、十翼と十二翼――その差で討伐する相手を決めました」
俺だけではなく、フォルテも、また変わろうとしていた。その事実を目の前にして呆然と立ち尽くし、ただ漆黒の十二翼を見つめることしかできない。
何も言えなくなった俺の頭をライデンさんが軽く小突いた。
「ぼうっとするんじゃない、アーク。それでどうするんだ? 俺はフォルテの提案に賛成だ。というか、魔界の王の言葉に反論する勇気はない」
頭を擦りながら振り返ると、ライデンさんは眉を下げ、肩をすくめていた。やはり俺には指揮官は無理のようだ。
とっさに助け舟を出したライデンさんに礼を述べ、全員を見渡して告げた。
「フォルテの案を採用する。ライデンさんとガリュウが七王。八王にサラ、九王はフォルテで頼む。そして、スカイと俺は十王に挑む。
それでいいかな、ガリュウ?」
突然、言葉を振られて驚くガリュウ。だが、すぐに真剣な表情を浮かべ、全員の顔を一人ひとりしっかりと見据える。
「ああ、それでいい、アーク。本当は俺が十王を相手しないといけないが、まだ力不足のようだ――魔界の王が言うんだから、間違いないだろう」
冗談めいた言い草だが、眼差しから覚悟がはっきりと伝わる。
「……それでも、俺は十王を討伐したい。これは俺の夢だ。だが、今は夢よりも大事なものができた。それはお前たち――仲間だ。お前たちに比べれば、十王討伐なんて、おまけみたいなもんだ。この探索で得た経験とお前たちこそが俺の宝だ」
ガリュウはもう一度、一人ひとりの顔を見つめ、深々と頭を下げた。
「本当にありがとう。頼むから、絶対に死なないでくれ。夢よりも大事なものができたんだ。それを失うような悲しい思いをさせないでくれ――」
頭を下げ続けるガリュウ。その視線の先では、白亜の床に落ちた涙が、まるで宝石のようにその場に点在していた。
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