274 白銀の翼、白亜の会堂へ
ガリュウが十王の討伐を諦めると告げたとき、俺は思わず眉を上げた。せっかくここまで来たのだ。遺跡を攻略せずに帰るなんて考えられなかった。
それにようやく記憶が戻り始め、神竜バハムートとの息も合ってきた。もう一度、強敵と戦えば、昔の力を取り戻せそうな予感があった。
俺が探索の続行を主張しようと口を開きかけたとき、アークが立ち上がり、白銀の翼を広げた。
その輝きに目を見開く。神界にいたころの純白でも、堕天したときの漆黒でもなかった。
眩い白銀の光を見た瞬間、『真の一体化』を成したアークは、さらに別の存在に生まれ変わろうとしている――そう実感した。
アークも俺と同じく、人間として生きられる時間はあまり残されていないらしい。新たな力に目覚めようとしている親友を見て、複雑な気持ちになる。
完全なる『神性体』になったとき、アークは神界に戻るのか、それとも人界に留まり、サラやフォルテと暮らすのか――。
天使や堕天使を超える別の存在になりつつあるアークと、それを見つめるサラとフォルテに視線をやり、俺は眉を曇らせる。
気づくと、俺も天使の力を解放し、深紅の翼を広げていた。
いつの間にか、青き雄牛――牛頭天王のゴズが、神槍と化したバハムートを咥えて立っていた。
つぶらな瞳で見つめるゴズの頭を撫で、神槍バハムートを握りしめる。その瞬間、大量の神気が流れ込み、全身に力が漲った。
「どうやら、スカイもかなり力を取り戻してきたようだね。これなら大丈夫かな?」
神槍を見つめる俺にアークが声をかけた。どこか悲しげな表情は、おそらく人としての人生が残りわずかだと知っているからだろう。
俺は何も言わず、静かに首を縦に振ると、アークはサラとフォルテを見やる。
「サラ、フォルテ。二人に聞きたい。どの程度、ミゲイルとサタナルの力を使える?」
優しくも厳しさが滲む声色にルキフェルの面影がよぎり、かすかに懐かしさが胸に込み上がる。
「そうですね、私は半分ぐらいでしょうか。神銃アクケルテは手に馴染んできましたが、万物変化魔法はまだ完璧ではありません」
俺がアークを見つめていると、フォルテがホルスターに収まる神銃を撫でながら答えた。自然とサラへと視線が移る。
「私も同じぐらい。ミゲイルの神気は扱えるけど、剣術のほうは、まだまだかな。とはいっても私は聖女だから、剣で戦うのはなるべく避けたいけどね」
サラは苦笑いを浮かべ、肩をすくめると、手を掲げた。その瞬間、神剣レーヴァテインが現れ、その手に収まる。
漆黒の銃士と黄金の剣士――二人を見つめ、アークは頷く。
「……本来の力の半分か。なら十分だな。ここで最後だ。全力で挑め。そうすればお前たちに勝てる存在など――この地上にいない」
力強く言い放つアークの姿は、かつて『暁の明星』と呼ばれた最高の天使――ルキフェルそのものだった。
サラとフォルテは頬を染め、熱い視線を向ける。だが、アークはそれを無視して俺に視線を向け、じっと見つめる。
「……そうだな、スカイはまだ本来の力の三割も戻ってないようだ。少し心許ない。俺がサポートに入るから、二人で挑むぞ」
有無を言わせぬ態度に頷くしかなかった。最後にアークはライデンさんとガリュウを見ながら告げた。
「すみませんが、二人で組んで戦ってもらっていいですか? ライデンさんには不死鳥がついています。それにガリュウ、君にはまだ強大な力が眠っている。この戦いで覚醒してみせろ」
その言葉にガリュウは目を見開き、口を開こうとした。だが、アークは手を上げ、それを制した。
「悪いが、俺からは何も言えない。自分で考えてほしい。ガリュウの中に眠る聖獣バロン――彼とちゃんと向き合え」
ガリュウのことを信じているからこそ、あえて突き放すアーク。その姿は、多くの天使から慕われていたルキフェルを思い出させる。
突然、雰囲気が変わったアークは、全員を見渡して白銀の翼をはためかせた。
その瞬間、六王の間に銀の鱗粉を散らしたような光の風が吹き抜け、俺たちは戦う覚悟を決めた。
◆
俺とライデンを先頭に、四天王がいる玉座の間へと続く回廊を歩いている。後ろを振り返ると、翼が消え、普段の姿に戻ったアークの姿が目に入った。
白銀の翼を広げた瞬間、アークの気配が一変した。サラやフォルテ、スカイに接する態度は、友人というより指揮官に近かった。
俺やライデンには辛うじて普段通り話しかけたが、最後に俺たちに向けた言葉には、もの言わせぬ雰囲気があった。
俺の中にいる聖獣バロンは、神獣や天使に仕える存在だ。もしかしたら、アークはバロンのことを知っているかもしれない。
思わず視線を下げて胸元を見つめると、そこがじわりと熱くなり、バロンの気配をはっきりと感じる。
――何か伝えようとしている。そう確信するほどの熱気が伝わってきた。
アークの言葉に間違いはないと確信し、拳を握りしめる。久方ぶりにバロンに問いかけようとしたとき、ライデンが立ち止まった。
ふと視線を上げると巨大な四つの門が並ぶ、果てしなく広大な部屋へと出た。
「ここが四天王に謁見するための控えの間――白亜の会堂だ。見た目は豪奢で荘厳だが、仕掛けられた罠は悪辣で卑劣だ。本当にいい性格をしているよ」
苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて呟くライデンを尻目に、俺は周囲を見渡した。
大理石の床は鏡のごとく磨き抜かれ、これから流れるであろう鮮血の予感すらも拒むように白く、光り輝いている。
思わず息を呑む。緊張が走る中、再びアークが白銀の翼を広げた。その姿を見たとき、俺の中で聖獣バロンと、別の何かが目覚める――そんな予感がよぎった。
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