269 揺れる灯と神性体の予感
深夜、六王の間で見張りを続ける中、フォルテから『真の一体化』を最初に果たした存在が自分だと知らされた。
驚愕しながらも、ルキフェルの記憶を探ったが、そのような事実はなかった。だが、俺がミゲイルに誅されてから生まれた技術だと言っていた――。
知らないのは当然かもしれない。しかし、別の存在になった自覚はない。
肉体も人間のままだ。神気が扱えるようになってから気にしなくなったが、魔力は今も依然、人並み程度で高くはない。
――特別な存在と言われても、納得ができない。
そんな俺を見て、フォルテは笑顔で告げる。
「ふふ、そんな困った顔をしないでください。神があなたの罪を許し、転生させたとき、その御力で人間の肉体を与え、『真の一体化』を施したんです。
私たちも最近になって気づきました。ちょうど、あなたがミザリーと魔界に向かった直後ぐらいです」
フォルテから説明され、思わず自らの掌を見つめる。彼女が魔界の門を維持するために魂を消耗し続け、限界を迎え、倒れたとき、俺の中で何かが弾けた。
天使でも悪魔でも――どんな存在になってでも救ってみせる。そう決意したときだった。ルキフェルの魂と重なり、ひとつになった自覚はあった。
だが、それは精神や魂の統合もしくは融合であって、肉体に変化はなかった。ならば『真の一体化』とは何なのか。
それにフォルテやサラは、『真の一体化』をせずとも十分に魔神気や神気を使いこなし、規格外の力を扱えている。
困惑を深める俺に、サラが優しく語りかける。
「天使の体は、実体を持たない星幽体なのは知っているでしょ。私たちが普段行っている一体化は、精神を同調させて肉体を貸しているだけ。アッくんのように自らの意思で神気は扱えないの」
そこで言葉を切り、サラは肩をすくめる。その表情はどこか自嘲めいていた。思わず眉を曇らせる俺に、サラは言葉を続けた。
「アッくんは自覚がないと思うけど、肉体が成長のピークを迎えたとき、不老不死となり、星幽体と肉体は完全に統合されて『神性体』に変化するわ。おそらく二十五歳前後――それまでに私たちも『真の一体化』を成してみせるわ」
『神性体』――新たな言葉に、もはや考えが追いつかない。いろいろと疑問は残り、何も理解できていない。
だが、とりあえず今は遺跡探索に集中し、獣王の試練を乗り越える。そのあとで詳しく教えてほしいと二人に約束させた。
俺が気持ちを整理するために口を閉ざすと、六王の間は静寂に包まれる。そんな中、ランタンの炎だけが煌々と揺らめいていた。
じっとその炎を見つめると、微細な空気が熱によって弾ける「チリ、チリ」という極小の破裂音が耳に届く。
ふと視線を上げると、いつの間にかスカイとガリュウが現れ、見張りの交代を告げた。
◆
ガリュウと二人で見張りをしていると、アークがテントから出てきた。まだ朝には早い。
「どうした、アーク。眠れないのか?」
ガリュウが立ち上がり、ぐっと背中を伸ばしながら尋ねると、アークはわずかに眉を下げた。
「ちょっと、スカイに聞きたいことがあるんだ」
アークの思い詰めた表情に首を傾げる。ガリュウに視線を向けると、同じく訝しげな顔をしていた。
「どうしたんだ、アーク? 何か悩みでもあるのか?」
心配そうに問いかける俺を見て、アークは苦笑いを浮かべた。その姿を見たガリュウは、俺に目配せし、この場から離れようとした。
「大丈夫だよ、ガリュウ。君にも聞いてほしい」
アークはガリュウを呼び止め、俺たちの正面に腰を下ろした。ランタンの炎が俺たち三人を優しく照らす。
しばらく沈黙が続き、自然とランタンに三人の視線が集まる。やがて炎が大きく揺れ、アークの影が足元にかかった。ふと視線を落としたとき、声が届く。
「スカイ、君は俺が『真の一体化』をしていたことは知っていたかい?」
その言葉に目を見開く。何度目の転生だったか覚えていないが、かつて人界の見回りに来ていた天使から、『真の一体化』という技術を熾天使ラージルが生み出したと聞いた。
だから、その内容は把握していたが、アークが『真の一体化』を成しているとは思ってもみなかった。
「いや、知らなかった。というより、本当に『真の一体化』を成しているのか? どう見ても、普通の人間にしか見えないが」
天使の力――神気を使えるので普通ではないが、それでも肉体は人間と変わらず、天使や悪魔と比べると儚く脆く見えた。
「……フォルテが言うには、やがて肉体は不老不死となり、『神性体』になるらしい。それも我が主が施した結果で、何かお考えがあるのかもしれない」
その言葉に頷き、思考を巡らす。
たしかに我が主から許され、転生したアークだったが、何か役目があるのかもしれない。
でなければ、わざわざ人間として生まれさせ、その人生を経験させる意味はない。加えて、ルキフェルの記憶の蘇り方も、手が込み過ぎている。
あいつの妹――ミゲイルをサラの守護神霊に据えてアークに接触させ、少しずつ記憶と神気を呼び戻した。
そして、ケビエルも同じようにミザリーの守護に就かせ、差し向けた。
不敬とは思いつつ、我が主の考えに疑問を抱いてしまう。そのとき、アークが立ち上がり、俺をじっと見た。
「スカイが知らないなら、それでいいんだ。『神性体』になっても、俺は俺だから。ただ、不老不死になったら、人界にはいれないかもしれないね」
少し悲しげに笑うアークを見て、俺は気づく。
俺にも時間はないが、アークにも人間として過ごす時間は少ないかもしれないと――。
これからのことに不安を覚える俺とアークは口を閉ざした。そんな俺たちを、ガリュウは黙って見つめ、弱まりかけたランタンに魔石をくべた。
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