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転生忍者は忍べない ~今度はひっそりと生きたのですが、王女や聖女が許してくれません~  作者: 黒鍵


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229 偽りの草原、空に走るヒビ

繁忙期って嫌いだ。

 俺たちは交代で番をして仮眠を取ったが、遺跡の王と戦ったサラとフォルテは見張りに加えず、ゆっくり休ませた。


 十分に休息をとり、テントを出ると、焚き火の前でライデンとアークが話をしていた。


「それで、スカイはライデンさんの後継になりそうですか?」

「まぁな、まだ経験は足りないが、卒業して正式に入団すれば、三年も経てば譲るつもりだ。そうすれば俺は隠居して、マリアに食べさせてもらうよ」


 ライデンは火をくべながら、おどけて答えると、アークはくすりと笑い、満足げに頷く。ただ、俺はその内容に言葉を失う。


 麒麟児と呼ばれたライデンですら、師団長になったのは二十五歳――昨年だ。長い間、副師団長を務め、実績と信頼を積み上げ、ようやくなったはずだ。


 それでも当時は、最年少で師団長に就任したと世間では騒がれた。ただ、ちょうどアークが武導王となった時期と重なり、話題は多少薄まってしまったが。


 だが、スカイはそれよりも四年も早い二十一歳で師団長になると、ライデンははっきりと言った。


 才能があることは知っていたが、まだライデンやアークと比べると、足りない部分が多い。本人も理解しており、この探索でも必死で学ぼうとしている。


 わずかな時間しか見ていないが、成長という一点だけなら、アークを上回っているかもしれない。驚異的な成長速度を感じる。


 ――人間とは思えないほどだ。少しだけ背筋が冷たくなり、頭の獣耳がかすかに垂れる。


 完成されているアークと未完成なスカイ。相反する二人だが、実力は折り紙付きだ。


 さっき見せた螺突赫殲(らとつかくせん)――螺突は互いの力が拮抗していないと成し得ない技だ。


 激しく反発しながらも、一つに紡がれる――見ていて不思議な気持ちになった。威力は全然可愛くなかったが。


 自然と口角が上がる。俺も負けていられない。この試練で王としての器を示し、十王すべてを倒すことで父を超え、獣王国最強と認めさせる。


 ――次の三王は俺が単独で倒す。あの人(・・・)のためにも。


 そう心に誓いを立てると、静かに二人のもとへ歩き出した。





 二王の間の扉を開き、三王へと続く遺跡へ出る。突然、目に飛び込んできた光景に圧倒される。見渡す限り草原が広がっていた。


 ――ここは本当に遺跡の中なのか。


 言葉を失い、見つめていると、アークが声をかける。


「ライデンさん、ここは斥候する必要はないですね。あと少し調査したいのですが、いいですか?」


 どこまでも冷静なアークに肩の力が抜ける。まだ十七歳のくせに、どうしてそんなに冷静でいられるのか――。


 だが、頼りになることには変わりない。ガリュウが団長なら、アークは参謀もしくは副団長といった役割を果たしている。


 スカイには、この探索で二人から多くを学んでほしい。


 ガリュウが見せる理屈よりも感情を優先し、予想以上の結果を出す決断力と、あえて身を引くことで全員の推進力を高めるアークの献身。


 組織の上に立ち率いる者にとって、かけがえのない能力。身につけるには天性の素質が必要だ。


 だが、スカイにはそれがある。不思議なヤツだ。奔放そうに見えて、繊細なところもある。何度か一緒に任務に連れていき、確信した。


 加えて、スカイは動物に好かれる。斉天大聖に敬われ、神龍バハムートに主と認められるのも、納得させられる不思議な魅力があった。


 実力も上がってきている。SSS級冒険者のアークに追いつく勢いだ。


 ――アークには二十一歳までには団長を譲るといったが、もう少し早くなるかもしれない。


 一面に広がる緑の絨毯に目を輝かせるスカイを見て、自然と口角が上がる。連れてきて、本当によかった。


 そのとき、アークが魔法で空高く飛び上がった。ぐんぐんと上昇していくと、一定の距離まで来ると止まった。


 手を掲げて調べるような素振りを見せると、背に携えた柄だけの剣を持つ。はっきりとは見えないが、かすかに柄の先が揺らいだように見えた。


 次の瞬間、上空に向かって振り上げた。ガキンッと音が響き、水色の空にヒビが入った。


 一瞬、息を呑む。だが、すぐにここが密閉された空間だと察した。誰の趣味なのか分からないが、天井に青空を描くとは、いい趣味だ。


 笑みを深めると、魔法を解除して落下してくるアークを見やる。着地の瞬間、上昇気流を発生させ、ふわりと立つ。


「どうやら、ここも遺跡の中ですね。いままでと違って、少し緊張感に欠けますが」


 埃を叩き落として周囲を見渡すと、苦笑いを浮かべるアーク。たしかにその通りだ。日は差すが熱を感じない。


 思わず笑みを返すと、地鳴りが靴底を叩き、遥か先に土煙を捉える。


 それは次第に大きくなり、正体を現した。まだ距離はあるが、はっきりと見えた。猛然とこちらへ突き進む魔獣たちの群れを――。





 無限に広がる草原を見つめていると、蹄の連打が鼓膜を撫でた。


 ライデンさんとアークの視線をたどると、その先にはバイコーンやスレイプニル、さらにケルピーまでもいた。


 正確にはケルピーの亜種だ。たてがみの代わりに背びれが生え、体毛の隙間から鱗がのぞく。バイコーンも角が三本あり、こちらも派生形だ。


 加えて、ひときわ目立つ中央の赤く巨大なスレイプニル。周りには数えるのが馬鹿らしくなるほどの数が、ひしめき合い疾走している。


 そして、群れの多くは異形。共通するのはすべてが魔馬だということだ。そのための広大な遺跡だと悟る。


 どこか人工的な草の匂いが鼻をかすめる中、指示を仰ごうとライデンさんに視線を向けかけたとき、鋭い声が届く。


「ガリュウとアークは、サラとフォルテを連れて、あの丘まで走れ! 俺とスカイで、あの馬どもは何とかする!」


 すぐに従ったのはアークだった。瞬時に空気の壁を地面すれすれに展開し、サラとフォルテを乗せると、丘を目がけて飛び立った。


 ひとり残ったガリュウは、鞄から魔力回復ポーションを二本取り出し、放り投げた。ライデンさんは受け取り、一本を俺に手渡しながら告げた。


「スカイ、急いでさっき使った油をくれ! 俺に考えがある」


 考える間もなく差し出すと、ライデンさんは迷わずつかみ取り、中身をのぞき、小さくうなずいた。


 大地の揺れを感じ、反射的に振り返った。そこにはすでに、咆哮する風のように、馬群が俺たちを飲み込まんと迫っていた。

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