021 マーベラス対ジン
アーク君の後を追って試合場に行くと、マーベラス先輩と同級生のジン君が戦っていた。
二人とも宮廷魔導士を目指しているだけあって魔法が得意だ。今も激しい魔法の撃ち合いをしている。
マーベラス先輩の方が押しているようだが、魔法防御が得意なのだろうか。ジン君の魔法は確実に先輩に当たっているが、首飾りの魔石はどれも傷ついていない。
やがて中級魔法では先輩の魔法防御が崩せないと判断したジン君は、上級の水魔法の詠唱に入った。
ジン君が詠唱に入ると先輩もすぐに最上級の風魔法の詠唱に入るが、どう見てもジン君の方が早く詠唱が終わる。
上級と言えどジン君の水魔法なら魔法防御の魔石を三つとも破壊することは可能だ。
いくら先輩の魔法防御が強固とはいえ詠唱中に攻撃を受ければ、ただでは済まないと思う。
けれど、先輩は余裕の笑みを浮かべている。……正直、かなり気持ち悪い。
先輩の笑顔に嫌悪感を抱き、ジン君に視線を向けると、詠唱は完了し魔法を発動した。
「水の竜槍 (ウォーターランス)」
ジン君の前に巨大な竜を模した水の槍が現れて、先輩に向かって猛スピードで突っ込んでいく。
だが、いまだ詠唱を続ける先輩は避ける気配がない。想像を絶する水の槍が先輩に襲いかかる様子に、会場の生徒たちはジン君の勝利を確信する。
もの凄い速さで発射された水の槍は魔法防御の壁に激突し、大音を立てて宙に霧散した。
その結果現れた濃い霧に試合場全体が包まれる。そんな中でも先輩の詠唱は続いていた。
勝利を確信していたジン君は、詠唱を続ける先輩に驚き固まる。すると、先輩の最上級の風魔法が放たれる。
「暴狂乱風 (サイクロン)」
突如、ジン君を中心に暴風の渦が現れて、試合場を包んでいた霧を一気に吹き飛ばすと、あっという間にジン君の魔石を全て破壊した。
勝負は決したにも関わらず、魔法は展開されたまま暴風は吹き荒れ、ジン君を空高く突き上げる。
ようやく暴風が止むと、空高く放り出されたジン君が落ちてくる。誰もが意識を失ったジン君が、そのまま地面に激突すると思った。
――その時、誰かが試合場に飛び込み、落下する彼を受け止めた。
いまだ収まらない風に揺られる白銀の髪。そこから覗く星空のような瞳が印象的だった。
――そこには、私のアーク君が、ジン君を抱えて立っていた。
明らかにやり過ぎた先輩を批判するように睨む鋭い眼差しも、凛々しくてス・テ・キ♡
その視線を受けるマーベラス先輩に嫉妬していると、先輩が詰め寄りアーク君を怒鳴りつけた。
「おい、一年坊主! 試合中に乱入するとはどういうことだ?」
先輩がアーク君の襟首を掴み、顔を近づけて凄んでみせる。けれど、アーク君は物怖じせずに、まっすぐ先輩を見つめ、厳しい口調で言い放つ。
「マーベラス先輩、なぜ勝負はついていたのにジン先輩の攻撃を止めなかったんですか? それに落ちてくる先輩を助けようともしない、何故ですか!」
「さっきも言ったが、最上級魔法は調整や制御が難しいんだ。それに戦いの最中にそんな余裕はなかったし、俺もいくつもの魔法を使って助ける体力なんて残って無かったんだ。そんな事も分からないか!」
マーベラス先輩はさらに顔を近づけ、唾を飛ばしながらアーク君に叫んだ。アーク君は、唾をかけられようが気にせず先輩を睨む。
一触即発の雰囲気に審判の先生が、2人の間に入り引き離すと、先輩の勝利を宣言して場を収めた。
舌打ち混じりに悪態をつきながら、マーベラス先輩が試合場を後にする。アーク君もジン君を医療班の生徒に渡すと、同じくその場を去っていった。
今も少しだけ怒りに唇を噛み締めるアークを見て、私は誓った。
――うん、マーベラスは殺そう♪
◆
ジン先輩を医療班の生徒に託して試合場を下りると、サラ先輩が駆け寄ってきた。
「アーク君、大丈夫? 怖くなかった、マーベラス先輩に凄まれてたようだけど」
「えぇ、俺は大丈夫です。ただ、マーベラス先輩のあの態度は許せませんが……」
俺が会場を去るヤツを睨みつけると、心配そうにサラ先輩が見つめる。あまり感情を表に出すのはよくないと思い、サラ先輩に笑いかける。
すると、サラ先輩も安心したのか笑顔を返して、いきなり浄化魔法を展開した。
「清やかな聖風 (キュアウィンド)」
突然の魔法に驚く俺。サラ先輩は笑いながら、悪戯っぽく告げた。
「マーベラス先輩の唾でアーク君が病気になったら嫌じゃない?」
サラ先輩の冗談に思わず笑ってしまう。けれど、おかげで気持ちは落ち着いてきた。
――いよいよヤツと戦うことになる。
前世では、戦いに私情を持ち込むことは無かった。しかし、今の俺は大事な人たちのために生きると決めている。
マーベラス先輩――ヤツとの戦いでは、私情を優先して徹底的にやってやると誓った。
◆
サラはアークに何か魔法をかけると笑いながら話し始めた。
同じ生徒会の仲間だからといっても少し馴れ馴れしい。本当にいけ好かない。さっきもジンを再起不能にできたのに邪魔して、俺を批判しやがった。
いかにも自分が正しいかのような物言いに思わず、頭に血が上り怒鳴ってしまった。
そういえば弟のマイクがヤツの妹を好きだったことを思い出す。あんなヤツの妹だが、確かに容姿が良く魔力も多い。
それに成績も優秀らしいが、かなり兄であるヤツを慕っているようだ。
何かにつけて兄を褒めるので、弟が嫉妬して魔力が少ない能無しと、馬鹿にしたら完全に嫌われたらしい。
弟も馬鹿だと思うが、ヤツが魔力が少ない能無しであることも事実。そこまで批判されるようなことは言ってないはずだ。
――まあ、決勝で無様に負けるヤツの姿を見れば、弟が正しかったと誰もが分かるだろう。
俺のサラと親し気に話すヤツを睨む。その姿を風魔法で切り刻む光景を思い浮かべ溜飲を下げた。
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