いっしょに(終)
雲一つない綺麗な青空。
太陽はきらきらと輝きながら照らしていて、水を撒いたばかりの花たちがその光を浴びて輝いている
。
頬を撫でる風は心地よく、すっかり伸びた髪を靡かせ遊んでいる。
「いやぁ~!今日は本当にいい天気だねぇ、坊ちゃん」
「…。」
フンフン、と鼻歌を歌いながら意気揚々に坊ちゃんの隣を歩く。
話しかけた坊ちゃんはというと、それはもう、すっっっごく、良い感じに鬱陶しがっている顔をしている。
まさに"苦虫を噛みしめた顔"って感じ、あのよちよちしてたチビちゃんがこんなに大きくなるなんて、人間の成長は早いねぇ。
「…なんでついてくるんだ」
「え~、なんとなく?」
嫌そうに問いかけてくる坊ちゃんに、緩く首を傾げながら答えれば益々しかめっ面になってしまった。
あーあ、折角の可愛い顔が台無しじゃん。
なんて思ってもいないことを考えながらしかめっ面をしている坊ちゃんの顔を覗き込む。
「ねえ、坊ちゃん。________________俺と一緒に逃げちゃおっか。」
そんなことを問いかければ、大きな瞳が更に見開かれ綺麗な漆黒の瞳が波打つ。
それは本当に一瞬の出来事で、すぐに反らされてしまった。
俺は知ってる、そんなこと、こんな言葉坊ちゃんが望んでいることじゃないってことを。
だからこそ、俺は口にするのだ。
___嗚呼、こんなの旦那様にバレたら怒られちゃうかもなあ、なんて。
「…、……そんなこと、思ってもない癖に。」
「あっは」
小さく呟かれた言葉に思わず笑みを零せば俺を置いて先を急ぐように早歩きしだす坊ちゃんに歩幅を広げながら後に続く。
再び空を見上げれば、やっぱり雲一つない空は輝いていて、サングラス越しでも濃い青が見えてくるようだった。
「今日は何処いこっか、最近新しく出来たケーキ屋?それとも新しい服でも見に行っちゃう?ほら、メイド長ちゃんも身だしなみに五月蠅いしさあ、それともちょっと遠出して海とか行っちゃう?汽車っていうの?俺乗ったことないし~、あ!逆に山もありなんじゃね?暑そうだけど坊ちゃん体力ないし、修行とでも思えばいいんじゃない?」
「…。」
どれだけ場所を提案しても無視なんて、今に始まったことじゃないけれど少しだけ寂しいような気持ちにはなる、俺さびしんぼうだし。
「いっぱい遊んで、いっぱい汗かいてさあ、…その後は、俺も一緒に屋敷に帰ってあげる」
籠の扉は空いているのに、自分の意志で逃げることが出来ない可哀想なコ。
逃げる事が、重荷になってる哀れなコ。
本当に、人間って生き物は馬鹿みたいだ。
それに付き合ってやってる、俺も馬鹿みたいだけど。
今はその馬鹿みたいな生きづらそうな思考を無視して、俺も付き合ってあげる。
だからさ、
俺を、"飽き"させないでね。
「今日も良い日になりそ~」
約束だよ、坊ちゃん。