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それもじんせい




「お前、何をした?」

「…えー?藪から棒ー」




中庭で隠れて昼寝をしていれば、頭上に影が差し込む。

気配を殺しもせずに近づいてきたのだから、わざと俺に気付いてほしかったのだろう。

なんですか、仕事はちゃんとしたよ、他のメイドちゃんたちがね。

ん?俺?え、俺はちょっと時間空いたから休憩中デース。

そんな事を考えながら頑なに目を瞑り続けていれば聞こえてきた声に思わず反応してしまった、いやそりゃ急にそんなこと言われたら誰でも反応するわ。


よっ、と短く声を出しながら寝ころんでいた芝生から体を起こし声の主に視線を向ければ同僚の一人のメイドちゃんだった。

このメイドちゃん、真面目ちゃん過ぎるんだよねー冗談とか一切通じないし。俺が不真面目だから隣にいると少し息苦しくてついつい逃げ出してしまうのだが、もしかして今日の仕事を押し付けたことを咎めに来たのだろうか、なんて引き攣った笑みを浮かべながら考えていればさも当たり前だと言わんばかりに腰に手を充て淡々とした声でメイドちゃんは続ける。


「わかっているだろう、坊ちゃんのことだ」

「…へ?」


予想外の言葉にぱちり、と瞬きを落とす。

坊ちゃん、坊ちゃんね。そういや最近あんまり絡んでないかもなあ。


「あの日、お前が坊ちゃんと二人で話していたのを私は知っているんだ」

「うわあ、ねえそれ知ってる?ストーカーっていうんだよ」

「ふざけるな、貴様に興味はない」

「はは、きっつー」


カラカラと乾いた笑みを零し冗談を言うもメイドちゃんの表情はミリも変わらない。

俺はほかの生き物について詳しくはないけど、こんなに表情筋が働いてないことあんの?このメイドちゃんが笑ってるところなんて坊ちゃんと話してる時しか見たことないんだけど。



「あの日から、坊ちゃんは変わった」


さら、と頬を撫でる風に瞳を細める。変わった、と聞いてそういえば屋敷の中でメイド達が話していたのを聞いた気がする。

なんでも、あの泣き虫で感情豊かな坊ちゃんがあまり笑わなくなったし、護身術を習い始めたり、反抗的な態度を取るようになったらしい。

反抗的な態度と言っても物を壊すとか、暴力を振るうとかではなく屋敷を抜け出したりお説教されても反省の色を見せないとかいう可愛いものだが。

人間っていうのは反抗期というものがあるらしいし、その時期になっただけなんじゃないかとも思っていたが、それでも坊ちゃんを蝶よ花よと可愛がっていた屋敷の連中は衝撃を受けていた。


「坊ちゃんも人として成長してるってことでしょ、いいことじゃ-ん」

「…私にはただ藻掻いているように見える、坊ちゃんは旦那様に似て責任感が強いお方だ。あまり無理をしないで欲しいのだが、とにかく…」

「坊ちゃんと旦那様は似てないよ」


メイドちゃんの話を遮るように声を被せれば、普段仮面でも被っているような顔が驚いたような表情を見せていた。


「何処からどう見てもそっくりな親子だと思うが」

「それ、見た目の話でしょ。そりゃ血が繋がってんだもん。遺伝子的に見た目は同じになるだろうけど、見た目が似てる=同じになるわけ?きっっしょいね」

「…貴様の地雷はよくわからん。」

「地雷なんてないデース、俺が言いたいのは坊ちゃんは坊ちゃんデショって意味。どんなに容姿が似てようが、坊ちゃんが旦那様になれる事は無いんだから力まずそのままでいればいいのに」


何を焦ってるんだか、と鼻を鳴らしてそっぽを向けばメイドちゃんは呆れたのか深々と溜息を吐き出している。

人間ってのは面倒な生き物なのだ、息子だから、あの人の血を引いてるから、そんな理由で勝手に期待されて、責任を負わされて。少しでも失敗すれば落胆される。

"あの人のように"、"あの人と同じように"。この言葉がどれだけ面倒で自分自身を追い詰めるのか、俺は知っている。…嗚呼、そう思えば面倒なのは他の生き物も同じか。


「お前が坊ちゃんに好意を寄せているのは分かった」

「あは、前から思ってたケド、メイドちゃんって本当に話し聞いてないよね」

「お前もそろそろちゃんと前を向いて墓に顔を出したらどうだ」




_______そろそろ、旦那様の命日だろう。



そう続けられた言葉に双眸を丸めたものの、すぐに弧を描くようにゆがめる。






「俺、他の生き物に興味ないんだァ。死んだ奴なら尚更、ネ」










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