こんにちは
パチ、と音がなるほどの勢いで目を覚ませば沈んでいた意識が急浮上したことにより体が冷や汗を流しながら冷えていく。
視線を横に流せば分厚いカーテンからは太陽の光が零れている様子もない、恐らくまだ日の出前なのだろう。
深くため息を吐き出し汗で濡れひっついて鬱陶しい髪を後ろに流す、そのままぐぐっと腕を頭上に伸ばせば固まっていた体がぱき、という音と共に伸びた。
己の機嫌は現在絶不調である、そりゃそうだ気持ちよく眠っていたのに無理矢理叩き起こされたようなものなのだから。
ベッドサイドに置いてあったサングラスを手に取り顔に掛ければ先ほどまで色に溢れていた世界が暗い色を纏い、再度深い深いため息を吐き出す。
嗚呼、このままベッドに潜り込んで寝てしまいたい。でも今はこの汗まみれの体をどうにかしたい。それに、今またベッドに潜ってもいい気持ちで眠れる気がしなかった。
本当に人間の体っていうのは面倒だ、ベッドから起き上がり素足のままカーペットの上を歩く。
こんなところを見つかってしまえば同業の誰かからもっとこの屋敷の執事として自覚を持て、なんて口煩く言われてしまうだろうな、ああめんどくさい。
くあり、と大きな欠伸を零しぼんやりと天井を見上げる。
「あー……、朝なんてこなけりゃいいのに。」
ま、そんなこと無理だけどね。
ふんふん、と鼻歌を歌いながら庭にこれでもかっていう程に咲いている花たちに水を撒く。
太陽の光を浴びてきっとこの花たちも水滴をきらきらを輝かせているだろう。
___なんて、それっぽいことを言ってみたが花が綺麗に咲いてようが輝いてようがどうでもいいのである。
俺はただ他の雑用を任されたくなくて簡単な仕事に名乗りを上げたのだ、ふふんこの巧妙なしごにげテクニック(仕事から逃げるテクニック)には誰も気付かないだろう。
あー、でも執事長とか他のメイドちゃんたちから蔑むような目で見られたからもしかしたらバレてるかもなー、どっちでもいいけど。
鼻腔を擽る花粉に「っくし!」と嚏が出る、眉間に皺を寄せ手袋で鼻水を拭っていれば背後から気配を感じてホースを持ったまま振り返る。
ばしゃん!!という激しい音と共に小さな影が尻餅をついているのが見えた。
なんだ、とホースを止めて改めて確認すれば歩き出したばかりだろう人間が大きな目をぱちくりと瞬かせながら己を見上げている。
その綺麗な瞳が水面のように揺れ白く膨らんだ頬を濡らしていく、あ、やばい。なんて頭の中で感じたものの自分の置かれた状況とあまりにびしょ濡れの小さな姿の人間が面白くて口端がふるふると震える、もう無理、限界。
「あっははははははは!!!!!」
「うぇあああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ!!!!!」
2人分の大声が中庭に響き渡るのと同時に誰かの怒号が追加されるのはあと数秒後の話。