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Alice in...  作者: 秋田 友
第一章:鏡の国のアリス

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第一章:鏡の国のアリス01

■第一章あらすじ


その一手は、世界の夢を壊すために。


鏡写しの部屋から始まる、アリシア最初の冒険。白ウサギのピーターと辿り着いた〈鏡の国〉は、盤上の規則と盤外の混沌がせめぎ合う世界だった。赤の女王に罪人として連れ去られたピーターを救うため、アリシアは赤の女王が盤上を支配するチェスに身を投じるが、恐怖から盤を逃げ出し追われる身となる。記憶さえ揺らぐ森を越え、夢のように歪む国の真実へと辿り着く。勝利か、救済か、あるいは破壊か。選んだ一手が、鏡の国の終わりを告げる。

 扉を抜けたアリシアは思わず固まった。

「ピーター、アンタ騙したわね?」

「違うよぉ、誤解だよぉ」

 頬を片手で挟んで問い詰めるがピーターは情けない声を出すばかりだった。

 アリシアがそう思うのも無理はなかった。というのも、目の前にはアリシアの部屋と瓜二つの部屋があったから。

「アンタ、アタシを連れ戻してさっさと鍵を返してもらおうって魂胆じゃないでしょうね」

「だから誤解だってばぁ。僕だってわからないんだよぉ。ここ、本当にアリシアの部屋なのぉ?」

 そう言われると確かに違和感がある。使っている家具も机の上に乗っている本の色も同じだ。

 アリシアはピーターから手を離す。掴まれた跡が残ったピーターは両の前脚で頬を揉みしだいて元に戻そうとしている。

「よく見れば、違うのかも」

 でもその違和感の正体がアリシアにはわからない。だから机の上を物色する。

 本やノートの散らばり方まで似ているとなると本当によくわからなくなる。アリシアは一冊の本を開いてページを捲る。流し見していく中で、ふとあることに気づいてアリシアは手を止めた。

「ピーター、見て」

「なに?」

「ここ、違うでしょう?」

 アリシアの指差したものは文字だった。

「僕はアリシアの国の文字なんてわからないんだけど」

「んもう、使えないわね。この本、文字が鏡写しになっているのよ。それでわかったの。この部屋全体も鏡写しになっているってね。だからここはアタシの部屋じゃないんだわ」

 アリシアは初めての異国に目を輝かせる。

「面白い。ねえ、どうしてここはアタシの部屋とよく似ているのかしら」

「さあね。国なんて数えきれないほどあるんだからそういうことだってあるんじゃないのかな」

 アリシアは本棚に数冊ある本を手に取る。

「惜しいわね。鏡を持っていたらこの物語も読めたかもしれないのに」

「きみ、物語が好きなの?」

「面白い物語は好きよ」

 頑張れば読めるのでは、とアリシアは試しに一ページ読んでみようとするが読みづらさが勝って早々に諦めた。

「読めないならどうしようもないわ。見覚えのあるものしかないし、さっさと外を見て回りましょ」

 ドアノブに手を掛けたアリシアの脚をピーターは慌てて捕まえる。

「待って待って。急に出ていこうとしないで。ここが危ない場所だったらどうするつもりなのさ」

「何言ってるのよ。アタシの部屋によく似た場所なんだからそんな危険があるわけないじゃない」

「それはきみの暮らしていた国での常識だろう。何もかも違うかもしれないし、そうじゃないかもしれない。初めて訪れた国では慎重になるべきだ」

「堅苦しいわね。いいじゃない、行くわよ」

「だから待ってって」

 ピーターは扉を開けたアリシアの後を慌てて追いかける。

「きみが早く冒険したいのはわかったから。歩きながらでもいいからとにかく聞いてよ。大事なことなんだ」

 扉の先には開けた小道が通っていた。道を横断すればその先は畑が広がっていて、地平線の手前には木々が生い茂る森が見えた。

「はいはい、わかったわ。それでなに?」

 アリシアは自分の国とはまったく異なる景色に心を奪われている。

 じゃあ手短に、とピーターは話を始める。

「これから訪れるどの国にも必ず、”アリス”と呼ばれる存在がいる。僕の故郷にも、もちろんきみの故郷にも。その国を象徴する存在だ。人かもしれないし、そうじゃないかもしれない。自分がアリスであることを知っているかどうかもその国次第だ」

「ふうん? そのアリスがなんだっていうの?」

 アリシアはとりあえず右手側の方へ歩き始め、ピーターも一歩後ろからそれを追いかける。

「彼らを損なうことだけは何があっても防いでほしい」

「どうして?」

 アリシアは道端の見慣れない草に興味を持ったようで、途中でしゃがみ込んで葉をつまんでいる。ピーターも足を止めてそれを眺める。

「アリスを失った国は、なくなってしまうから」

 ビュウッと強い風が吹いた。

 アリシアもピーターも思わず目を閉じて顔を腕で庇う。

「誰がアリスかわからないのなら、どうしようもないじゃない」

 アリシアは再び歩き出す。

「そうだけど、そうじゃなくて。だから慎重にならないといけないって話」

「わかったわよ。それより見なさいよピーター。あそこから急に景色が変わっているわ」

 アリシアが指さしたのは進行方向の先にある境界線のような場所だった。特別何かが建っているわけでもないにもかかわらず、それまでの畑ばかりの景色が一変して森になっている。

「もしかしたらこの国は盤の目みたいに土地が区切られた国なのかもね」

 ピーターはあたりを見渡す。遠くに見える街並みも、高い木も、もしかしたらそういう風に区切られている別区画のものなのではないかとピーターは思った。よく見ればすべての景色はある場所を境に直線を境にして切り替わっているようにも見える。

「だとしたら差し詰めアタシたちは駒ってこと? 面白いことを言うのね」

 何を言っても今のアリシアは聞く耳を持たなそうだと判断したピーターは黙ってアリシアについていく。

 アリシアの進もうとした先には森がある。しかし歩けば歩くほどに目の前の森は遠ざかっていく。

「どういうこと?」

 しばらく歩いた頃にようやくアリシアも何が起こっているのかを理解した。

「わからない。でもどこかに向かって進んではいるんだと思う。景色は変わっているわけだし」

「じゃあどうすればあの森に入れるっていうの?」

「知らないよ。僕だってこの国を訪れるのは初めてなんだ」

 ピーターはもう一度あたりを見回す。背後には花畑が広がっていた。

「アリシア見て」

 アリシアが振り向く。先ほどまでこんな風景はなかった。どういうことか理解できなくてアリシアは再び森の方を見る。

 いつの間にか先ほど出てきた家も通り過ぎていて、ふたりが進もうとしていた方向に見える。

「本当に、どういうこと?」

「わからないよ。でも、たぶんこういうことなんじゃないかな」

 ピーターは石ころを拾うと前方に向かって放る。しかし石はなぜか弧を描いて後方に向かって飛んでいく。

「そんなことある?」

「さっき言ったじゃないか」

 アリシアはそういうことね、と呟く。

「じゃあ、行きたい方向と反対に向かって歩けばあの森に行けるってことかしら」

「そうかもしれない。現に花畑の方には近づいているわけだし」

「試してみましょうか」

 アリシアが花畑の方に体を向ける。一歩を踏み出すと花畑は遠ざかった。

「ピーターの言っていることが正しいみたい。このまま歩けば森の方へ行けるわ」

 ピーターも花畑の方に向かって一歩進み、アリシアと並びを整える。

「じゃあ森の方を向いて後ろ向きに歩けば森の方に進んでいるってことになるのかな」

「ややこしいわ」

「でもずっと進みたい方向を見ないで歩くのも厳しいんじゃない? もしかしたら足元に大きな石とか水たまりがあるかもしれないんだよ。急に切り立った崖になっていることだってあるかもしれない」

「崖はともかく、石も水たまりもあまり危なくはないでしょう」

「きみにとってはね」

 ふたりは森の方を向いてうしろに向かって足を踏み出す。慣れない歩き方にアリシアは転びそうになり、ピーターもどの脚を踏み出していけばいいのか混乱気味だ。それでもなんとか歩いている。


 少しずつ慣れてきた頃、森の方から後ろ向きにこちらに近づいてくる一団があった。赤い服を着て馬に乗った女性がひとりと、それを囲む鎧を着た兵隊たちが数人。

「ひとりだけ馬に乗っているってことは、少しだけ偉い人なのかしら」

 道幅いっぱいに広がって歩く彼らは進行方向にまったく目を向けていない。このままではぶつかってしまう。アリシアとピーターは道の端に避けて彼らが過ぎていくのを待つことにした。

「見つけた」

 すれ違いざま、馬上の人がそう呟くとその一団は一斉に足を止めた。その声は低い温度を伴っている。

「ようやく見つけました。愚かなる罪人め。拘束しなさい」

 立ち止まると彼女は腰につけていた剣を抜いてピーターに向ける。それを合図に鎧を着た数名がピーターを取り囲んで彼女と同じように剣を向ける。

「ちょっと待ちなさいよ」

 看過できない状況にアリシアも声を上げる。

「アタシたちはこの国に来たばかりなのよ。どうしてピーターが罪人なんかになるっていうの」

「黙れ小娘。誰が発言を許した」

 鎧の兵隊が口を挟む。

「誰の許しがなくてもアタシは喋るわよ。だって理不尽じゃない。せめて理由を説明しなさいよ」

「この白ウサギはハンプティ・ダンプティを誘拐した罪に問われています」

「知らないって言っているでしょう。それは冤罪だわ。白ウサギなんてどこにでもいるんだから人違い、いいえ、ウサギ違いよ」

「無礼者。この方をどなたと心得る。赤の女王様であるぞ。不敬な物言いはやめるのだ」

 構わぬ、と赤の女王は鎧の兵隊を制する。

「いいえ、この白ウサギで間違いありません。この国に服を着た白ウサギは存在しないのですから。外からやってきたあなたこそが犯人でしょう。さあ言いなさい、ハンプティ・ダンプティをどこへやったのですか」

 ピーターは耳を伏せて押し黙り、弁明を口にしようともしない。だからアリシアが代わりに答える。

「知らないって言っているでしょう」

「ならば口を割るまで拘束させてもらいましょう。連れて行きなさい」

 鎧の兵隊たちは縄でピーターの四つ脚を縛り上げる。

「不当だわ。勝手に連れて行くなんて違法よ」

「この国の法は私が決めるものです。私が判断したのだからその正当性は私にあるのです」

「横暴だわ」

「アリシア、僕は大丈夫だから」

「ピーターも身に覚えがないならきちんと否定しなさいよ」

 ピーターは俯き口を閉ざす。

「そこの娘。この白ウサギの無実を証明したければ城へ参りなさい。城の前でチェスをして、あなたが勝てばあなたの言い分を聞き入れ、この白ウサギを無実として釈放しましょう」

「ふざけないで。ピーターを連れて行くことは許さないわ」

「許す許さないは私が決めることなのです。どちらにせよ、勝負を受けないと言うならこの白ウサギは罪人として処罰するだけですから、好きにするといいでしょう。選ぶ自由をあなたに与えます」

 赤の女王はそう言い捨てると剣を鞘に納めて馬を操る。

 アリシアはふざけるなと喉元まで出かかった衝動をなんとか抑えて拳を握りしめる。

 ピーターは鎧の兵隊のひとりに担ぎ上げられてそのまま連れられて行く。赤の女王たちが歩き始めたとき、ピーターが小さな声で告げた一言はアリシアにだけ届いた。

「絶対に助けに来てね」

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