番外編 散歩と思考
空碧く雲一つない中、俺は淀んだ雰囲気に溺れていた。
「上を向いて歩くと、気持ちが楽になるよ。」
そんな事を誰か説いていた気がするが一向に楽にならない。アレは迷信だったようだ。
アスファルトの道は延々と続いている。その上を何の目的もなくプラプラ歩く。
ふと気づけばビル街にいた。思えばビルと言う人工物は高さを競い合っている生物の様だ。
高くただ高くなる事ばかり考えて中身が虚ろになっている事も気付きやしない。
俺は裏路地を歩いた。何も目的がないのなら寄り道も簡単な事。
しかし…人は毎日を生きていくのに必死で、時間を無駄にしない様に合理的になりすぎている。
そのせいか簡単な(そう例えばこの裏路地の様に)発見というモノが出来なくなっている。
セレンディピティ……というのだろうか。
そういう偶然も最近では捕まえる事が出来てないと思っている。
裏路地はやはり暗く生活ゴミの臭いが充満していた。
室外機の上で野良猫が丸くなって眠っている。
この忙しい日々も人が過ごしていく中、猫には時間がゆっくりと感じているのだろうか。
「いいなぁ、お前は呑気で。」
そう呟いたが改めて考えてみるとこの猫もまた必死に生きているのだ。
自分が恥ずかしい。
裏路地を歩いていくと、光が見えてきた。
出口のようなのでそこへ向かっていくと、またビル街だった。
…結局のところここには冒険心をくすぐる物は何もない。ただ全てが必死になって動いていた。
「…帰るか。」
そうして俺は淀んだ雰囲気の中帰路につくのだった。