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愛のラ・カンパネラ

作者: 星川亮司

どうも、はじめまして、星川亮司と申します。いつもは、戦国時代を舞台にした魂入れ替わり物を書いていますが、アザとーさんのone day企画に参加して、久しぶりに現代を舞台にしたおとぎ話を書いて見ました。よろしくお願いします。

 明日、五十歳になる佐藤由紀は、同行支援の仕事で訪れた白亜の豪邸の扉の前で、コンパクトの鏡に自分を映した。

(私、若く見えるかしら……)

 由紀の派遣先は、神戸の百万ドルの夜景が見える丘の上に建っている。裕福な家の盲目の二十歳の青年、西宮にしのみや陽斗はるとの外出支援と身の回りの世話だ。

 この新しい派遣先に来てから、由紀にはある心の変化が生まれた。

「おい、由紀。また、鏡を見てるのか? 五十歳のおばさんなんて、誰も相手にしないぞ。さっさと支度して車に乗れ!たまごのタイムセールに遅れるぞ!!」

 夫の敬之のりゆきは、下膨れのおたふくのような顔をしたブ男だが歌が上手い。若いころ一発当てて莫大な貯金と印税で暮らしているミュージシャンだ。

「うえ~ん。お母さん、チョコが噛んだ~」

 小学四年生の娘、愛菜まなは、由紀が四十歳の高齢出産で生んだ。子供を諦めて買った愛犬のチョコとは兄妹のように育ち仲が良い。

 由紀は、裕福ではないが、マイホームもマイカー、子供に愛犬があり、夫婦で働けば生活に困ることはない。

 しかし、由紀はなんだか心が満たされていない。

 ♪ティロリロリ ティロリロリ♪

 この白亜の豪邸から聴こえてくるピアノの音色を聞くとなんだか心トキメク。

「由紀さん、僕は由紀さんが好きなんです。この目を手術する決心がつきました」

「陽斗くん、私はもうおばさんよ。目が治って私を見たら、きっと、がっかりするわ」

 由紀は、陽斗の気持ちは、良くモテた若い頃の気持ちが蘇るようで、飛び上がらんばかりに嬉しい。だが、もう寄る年波も知る五十歳。言わば、この陽斗の告白は、女としての嬉しさ半分、それが元で割のイイ仕事を失いかねないリスクを考えると迷惑が半分だ。

「僕は、見えるようになったら、いつもテラスの真上を飛ぶ飛行機。空を走る飛行機雲を、由紀さんと一緒に見たいんだ」

「空へ憧れか……」

 どこまでも陽斗の気持ちは純粋で美しい。由紀は、陽斗といれば若くなる。いつまでも彼の傍にいたくなる。

 チリンチリン!

「由紀ちゃん、仕事かえりだからって、ボンヤリ歩いてるとタイムセール買い逃すわよ! 今なら千円買ったら一パック一円よ!!」

 近所の世話焼きおばさんが、自転車で追い抜いて行く。

「私の世界はこっちよねえ……」

 由紀は、大きなため息をついて、スーパーへ走った。


 由紀は、陽斗の同行支援で、未来の万博公園や、映画をモチーフにしたアトラクション。夏は海、冬はゲレンデと、若い恋人同士がするようにどこにでも行けた。

「由紀くん、キミにはとても陽斗がよくしてもらったが、手術が成功すれば、色々と陽斗から聞いてはいるが、大人の選択をして身を引いて欲しい」

 陽斗の父から、きっぱりと解雇の予告をされた。

 由紀ももちろん、若い陽斗の言葉を真に受けてはいない。目が見えるようになれば、陽斗の気持ちもきっと変わるはず。ならば、陽斗の気持ちのように美しく別れたい――。

「陽斗くん、今日の帰りに、あなたのピアノを聴かせてくれない?」

「なんだい、そんなことなら、今日だけじゃなく、明日も、明後日も、毎日だって聞かせるさ」

 陽斗のピアノの旋律は、由紀の心を掴んで離さない。気づいたら、涙があふれていた。

 静かになった由紀に、陽斗が優しく声をかけた。それは、どこまでも澄んだ声で、どこまでも愛おしい声だった。

「由紀さん、僕と結婚してください」

 それが、由紀と陽斗の別れの言葉だった。


 ―了―

いかがでしたか? 仕上げるまで作者は気づきませんでしたが、即視感があって凡庸な仕上がりになってしまいました。また、機会があれば、拙作をよろしくお願いいたします。

また、会いましょう。ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作品の内容を邪魔しないシンプルな文章。 [一言] 悲しく、美しい悲恋の物語でした。プロポーズの言葉が二人を割く最大の別れの言葉となったのは、なんという皮肉でしょうか。 綺麗な終わり方でし…
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