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朝のニュース番組の占いは侮るなかれ。

こんばんは。

遅くなりました。

ま、まずい。

名前を聞かれてしまった。

どうすればいいんだ。

悩むことなんてないだろう名前くらいさっさと言えと思った奴はボッチ初心者だ。

トーシロだ。

修行して出直せ。

真のボッチというのは普段誰とも話すことがないため咄嗟(とっさ)に話しかけられても声が出ない。

無理に声を出そうものなら(ども)るか裏返る。

思い返してみると今日最後に声を出したのはいつだったか。

時計の妖精的な何かが出てくる朝の某ニュース番組の占いで、自分の星座が1位だったため大きくガッツポーズをして「よっしゃ」と言った。

おそらくそれが最後だろう。

新しい友人が出来るかもというアナウンサーの台詞に、馬鹿げていると鼻で笑った記憶がある。

ちなみにラッキーポイントは「よく笑う友人」であった。

友人なんて1人も居ないのに、そこにさらに「よく笑う」なんて付けられてしまったものだから難易度がめちゃくちゃ高くなった。

1位なのに心に大きな傷を負ってしまった。

今後、俺のような被害者が出ないよう、是非とも占いのラッキーポイントは人以外の物体にして頂きたいものである。

恋人の持ち物とかそういうのもご勘弁願いたい。

さて、グダグダと脳内で御託を並べたが無視は良くないよな。

無視は。

自分が日頃無視をされているせいか他人の気持ちを推し量ることに関しては人一倍敏感になったと自負している。

つまり自己紹介はしなければならない。

よーし……


「や……山崎、陽介でしゅっ!」


や、やっちまったぁぁぁ!!

「でしゅっ!」って何なんだよ!?

こんなテンプレ的な間違いをするなんて。

穴があったら入りたい気分だ。

そして一生そこで暮らしたい。

つーか、何で何の反応も返ってこないんだ?

もしかして、こんな幸薄そうな根暗陰キャの癖に名前に「陽」がつくなんて信じられない、キモっ。

とでも思われてしまったのだろうか。

だとしたら泣ける。


「山崎くん、でいいのかな?よろしくお願いします。私のことは好きなように呼んでください。」


どうやら「でしゅっ!」の件は不問にして頂いたらしい。

名前と顔面のアンマッチさをキモがる様子もない。

ありがたい。

つーか、本当に顔が整っているな。

近くで見るとよくわかる。

芸能人顔負けの可愛さだ。

こんなに顔が可愛けりゃ、今まで苦労することも多かったのでは無いだろうか。

顔が整っている奴は、根暗陰キャクソぼっちと同じかそれ以上の苦労を経験する。

俺のようなクソ陰キャは、無条件によく知らない相手から嫌悪感を向けられるが、顔が良い奴は無条件に見知らぬ相手から好意を向けられる。

好意なら良いではないかと思うかもしれないが、そうはいかない。

行き過ぎた好意は時として嫌悪感よりも鋭い凶器になる。

分かりやすく例を出すとストーカー被害なんかが一般的だろう。

そして、そういった好意によって何かしらの被害を被ったとしても周りの人間は「しょうがないよ。だって○○顔が良いもん。羨ましいわ。」で済まそうとする。

そんなことを言われて尚自分が受けた被害について訴えても嫌味だととられてしまうであろう。

ま、俺には何の関係もないのだが。


「あの、何か御用ですか?」


しまった。

顔を見すぎてしまったようだ。

キモがられるどころかもしかしたら斬首刑になるかもしれない。

ここは1つ、空を見ていたと言い訳をして誤魔化すことにしよう。


「え、あ、その、空を見てて、それで、あ、綺麗だなぁって。」


正直、母親のお腹の中からやり直したい気分だ。

コミュ障を120パーセント発揮している。

怖くて相手の顔をまともに見ることが出来ない。

今度こそキモがられる。間違いない。


「……確かに、今日空綺麗だものね。ふふっ、山崎くんって面白い人ね。」


面白い、だと?

15年という赤子が思春期に突入するくらいの年月を生きてきて初めて言われた言葉だ。

もしや、「そんなバレバレの言い訳で私の顔を見ていたことを誤魔化そうとするなんて脳みそスカッスカなのかしら、本当に面白いわね。この下等生物が。出荷されろ。」

ということだろうか。

その可能性は十分に有り得るのだが。

相手の反応を伺っていると、再度吉原が口を開いた。


「山崎くん、もし良かったら私とお友達になってくれないかな?」


お友達、だと?

これも15年間生きてきて聞くことの無かった言葉だ。

正直、めちゃくちゃ嬉しい。

でも……


「いや、俺なんかと友達になってもいい事ないよ。俺なんかより、向こうの人達の方がいいんじゃないかな。」


そう言って、俺が指を指したのは所謂(いわゆる)リア充と呼ばれる奴らのグループの方。

吉原を拒絶するつもりは無かったのだが、拒絶しているかのようなセリフを吐いてしまった。

傷付けてしまっただろうか。

でも俺なんかににこやかに話しかけ、友達になろうと言ってくれた、こんな優しい子をこちら側に引き込む訳にはいかない。

俺と吉原は交わるべき存在では無い。

俺が陰を貫くように、彼女のような存在は明るく陽の当たる世界にいることが相応しい。

これから吉原がクラスに馴染むにつれ、俺がクラス内でどんな立ち位置に居るかが分かってくるだろう。

それで吉原が俺を嫌い、軽蔑し、悪者にしても俺は構わない。

今更だ。

今まで通りに生きていくだけ。

どうせあと半年だけの学校生活だ。

いつの間にかSHRは終わっていてクラス内は賑わっていた。

転校生に話しかけたいとこちらを伺っている奴らの視線が痛い。

邪魔だ。退け。

目がそう語っている。

その通りだ。

俺は彼女、吉原と対等に話せる人物では無い。

少し話しただけだが、彼女はとても優しい人間であることがわかった。

曇りのない瞳は、俺が吐いた最低なセリフに戸惑っているのか少し揺らいでいる。

ああ、本当に良い子だ。

だからこそ、俺なんかと居ちゃいけない。


「ほら、早く向こうに行きなよ。皆んなキミと話したがってるよ。何となくわかるだろ?俺、クラスで嫌われてるんだ。俺と居ても損するだけだ。」


自嘲の笑みを浮かべ、自分が出来る精一杯で吉原を突き放す。

これで、終わりだ。

そう思った。

でも、吉原志都は俺が思う以上に強情な人間だったようだ。


「どうして、そういうことを言うの?」


怒りとかそういうんじゃない、真っ直ぐな疑問。

少し悲しそうにも見える。

てっきり直ぐに引き下がると思っていたからびっくりした。


「どうしてって言われても……俺なんかて友達になっても得することなんて無いし。」


「得するか損するかなんて私が決めることだから。私は山崎くんと友達になりたいと思った。山崎くんは私と友達になるのは嫌?」


……なるほど。

どうやら占いというのはなかなか侮れないようだ。


「じゃあ、よろしくお願いします。」


かくして、根暗陰キャクソぼっちの俺は転校生してきた美少女、吉原志都の友達になった。


ブクマ、評価、本当に有難うございます。

励みになります。

渇いた心に染み渡ります。

今ならビームも出せそうです。

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