転校生の登場はラブコメ界においては鉄板である。
よろしくお願いいたします。
今日も今日とてボッチだ。
何ら変わりなくボッチだ。
別にボッチが嫌とかそういうことではない。
恥ずかしいとも思わない。
断じて。
だがしかし、こうも清々しくボッチだと逆に感慨深いものがある。
というか、実の家族ですらも鬱陶しくなる思春期真っ只中の中学三年生という時期に、何故赤の他人であるただのクラスメイトとベタベタ金魚のフンのようにつるみ日々を過ごせるのか。
全くもって理解不能である。
そして周りの大人、特に教師がその理解不能な友達ごっこを推奨することにも疑念をおぼえる。
クラス皆が仲良しなこと、ハブられる奴がいないこと、これが教師としての力量を測るならば、ボッチでありハブられている俺は教師にとっては最低最悪の異分子だろうが、生憎ながら俺は俺の事を嫌いな奴が俺を嫌っている態度をあからさまに出して威嚇してくるのを見るのが大好きであるため、昼休みに担任に職員室に呼び出されて協調性がないと説教されるのも、放課後に誰もやりたがらないような雑務を押し付けられるのも大して嫌ではない。
このままでいい。
どうせあと半年程で終わる中学生活だ。
それまでせいぜい異分子として馬鹿な友達ごっこに興じるクラスメイト達を嘲笑っていてやろう。
人は集団の中に敵を見つけて団結する生き物だから。
1人の敵を作れば、1人を悪者にすれば、人間はそいつだけを悪と定義してまとまる。
それを悪い事だとは夢にも思っていないだろう。
俺も悪者にされている身ではあるが、それを悪い事だとは思わない。
それが人間というどこまでも勝手で救いようのない生き物だから。
そして、俺もそんな人間の1人であるから。
ーよーし席に付けー。出席をとるぞー。
……とまあ、こんな所だろうか。
ヘッドフォンで音楽を聞いてるため朝のHRを告げる担任の声が聞こえない。
聞くためにはヘッドフォンを取らなければならないのだが、そんな気は毛頭ない。
どうせ口煩くて騒ぐ事しか脳のない我がクラスメイト達だって、誰一人として担任の先生の話なんか聞いちゃいないだろう。
だが、俺の考えは尽く覆された。
一瞬のざわめき、息を呑むクラスのヤツら。
直後に訪れた静寂の中、担任に呼ばれて教室に入ってきた女の子が口を開いた。
無意識の内にヘッドフォンを取っていたようで、澄み渡った水のように透明感のある声が耳に入ってくる。
「吉原志都です。もうすぐ卒業ということで短い間ではありますが、よろしくお願いします。」
少し緊張しているのだろう。
まだ真新しいブレザーの袖から覗く手を固く握っている。
黒々とした長い髪の毛は教室の外から太陽の光を取り入れる窓に照らされて艶々と輝いている。
俺は明日からもクラスでは悪者として扱われ、職員室に呼び出され、放課後には雑務を押し付けられるだろう。
だが、もしかしたら何かが変わるかもしれない。
この転校生、吉原志都を見ながら俺は誰にも聞こえないくらい小さなため息をついた。
窓から覗く空が青くて少し眩しかった。
作者もいわゆる陰キャでした。
自分で考えた技、自分の能力や世界線の設定が記されたどす黒い色の表紙のノートがたくさんあります。
たまに呼んで羞恥心で悶え死んでおります。