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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第2章
98/125

【3】





『…どの案も捨てがいという事で、全てやろうという事になりました』

「…えっ?」

「あら…」


副学園長が苦々しく言い、にこやかに笑う学園長と、苦笑いしている先生方の対比が面白いかったが、そんな事言っている暇はなかった。






周囲の視線に耐えながらも昼食を食べ、先生達の指示で運動場へと移動した。

そこで去年の林間学習でも使った時計端末を渡され宿泊研修のしおりと書かれた小冊子は早々に役目を終えるかと思ったが、今回は概要などの書類関係の機能がロックされているらしい。初の催しだかららしいが、単純にレクリエーション中に運営上での利用しか出来ないという。

端末が配られ宿泊研修の開始が宣言され、冒頭のセリフである。




『では、まず1つ目のレクリエーションを始めていきます』


ざわつく生徒達を置き去りに副学園長はマジックボードへと映像を映し出した。

運動場を使った競技のようだが、合わせて何故か着ぐるみが映し出される。


『クラス全員参加、仮装競争です』


察した。もう題名が全てだ。





「…という事で、汗をかくのが嫌な方も諦めてください、全員参加となります」


クラス全員が揃う中、ブレイ委員長がため息と共に言う。全員も諦めたようにため息を吐いた。

競技の内容は至って単純、クジを引いて書かれた仮装をして障害を越え、バトン代わりのタスキを次の走者に渡していく。

各クラス全員参加で、全4チームだ。


「順番決めましょうか…」


速い人は最初、いや最後の方だろうと議論しながら選手欄を埋めていく。だが途中から重要な所と希望がある人以外は名前の順番で良いだろうと適当になっていったのは誰のせいだろうか。

宿泊研修は基本的に服装が自由でみんな私服だ。動きやすい服装にしておいて良かったと思う。

主に一部の貴族達は不満を零していたが、参加するのは皇太子2人が了承したからだろうか。




『それでは、走者は順番にスタート地点に来てください』


私達のクラスの第一走者は委員長だ。みんなが嫌がったからしょうがなくこの順番になったのだが、このレースの詳細が分からないためみんな注目している。

副学園長から変わって司会の先生がマイクを持ち、競技の説明を始める。


『魔法はなしです。

走者以外の生徒は手出し禁止で、バトンの代わりであるタスキは肩からかけても手で持っても大丈夫です。

まずクジを引いて書かれている仮装にあちらのスペースで着替えて貰います』


着替えスペースは4つあり、魔法のカーテンで仕切られて中身は見えないようにしている。

着ぐるみもあれば衣装もあるらしく、当たりもあれば外れもあるという。


「その仮装のまま障害物を乗り越えて頂きます。平均台、網潜り、的当ての三種です』


障害物は特段難しいものはないが、それこそ大型の着ぐるみなどになれば難易度は格段に高くなるだろう。


『そしてこれからは特殊ルールです。チームの代表は一度だけ走者の仮装を変える事が出来ます。

ただし変えられる仮装は自チームが引いたクジの仮装のみとなりますが、当たりの仮装を自チームの走者に着せる事も出来ますし、外れの仮装を他チームに着せる事も出来ます。

ただしクジの前に変更してしまうと着替える手間がなくなり時間の短縮になりますから注意してください』

「…これ、魔法競技大会の種目みたいね」

「私も思いました。レクリエーションというより体育の延長みたいですよね」


スタート地点の近くにレイサ先生がいるのでレイサ先生に変える仮装のクジを持って誰を変えるのか申告する事で変更出来るらしい。

走っている最中でも強制的に着せる事が出来るが申告から変更まで若干タイムラグが発生するため事前に申告しておくことも可能だという。


「これ、第一走者当たりだよな」

「え?」

「途中で強制的に仮装変わらないから安心だろ。後半に行くほど…それこそ、アンカーとかその前辺りに使うのが普通じゃね?」


渋い顔をしているレオニダスの言葉に確かに、と思い急いで順番を確認する。

私はだいぶ後半の方であり嫌な予感がするが、それよりアインルーガ様が3番目で少し安心する。

最後の方にいるレオニダスと、アンカーのロンギヌス様が心配ではあるけど。




『それでは、よーい…スタート!』


笛が鳴り響き、全員が一斉にスタートする。最初は足の速い人ばかりでインテリ系と言える委員長は少し遅れ気味だ。

応援に声を張り上げながらも、順番を待っているアインルーガ様に下手な仮装が行かないように願う。

クジを引いた人から着替えスペースへと入っていき、委員長も遅れて入っていく。だが出て来たのは委員長が1番早かった。


「きゃああ!」

「女装か!?」

「いいぞ委員長ー!」


出て来た委員長は長く白いカツラに白い浴衣を身につけていた。身につけてというか羽織って腰帯を結んでいるだけで着てるとは言い難い。いいのかしらあれで?


『仮装アイテムを全部身につけてるのでオッケーです』

「ええっ!?」


他クラスの人達は不満を漏らしているが、確かに着替えると言われたがちゃんと着なければいけないとは言われてない。それに浴衣なんてちゃんと着るのは1人では難しいだろう。というか、


「…浴衣なんて帝国にあったんだ…」

「メイルーン?」

「ううん、何でもない」


帝国に和風な文化はなかった…気がする。

浴衣でさえ、私はこの世界に来て初めて見た。

だが障害物をクリアして走ることに支障ないようでスルスルと進んでいく。他のチームは着ぐるみであったり着るのに苦労するような貴族の服などで遅れていき、とりあえず委員長は次の走者に難なくタスキを渡していた。

返ってきた委員長の近くに寄る。浴衣を脱いで先生に渡した後を見計らって労いつつ、浴衣について聞く。


「それ、良く着方…というか身につけ方が分かりましたわね」

「着替えスペースの中に着方が書いてあったんだよ。裾がヒラヒラして走りにくかったけど、それ以外は楽だったかな」


なるほど、と思い一応聞くが委員長も初めて触れたそうだ。

となるとお題にした先生が誰なのか気になる所だが、お題は白女だったらしい。白女というか雪女だと思ったのだけど。


「お、まだトップだね。次はアインルーガ様じゃない?」

「そうだった!お疲れ様、委員長!」




委員長から離れてネアシェの隣へ。ちょうどアインルーガ様にタスキが手渡される所だった。

アインルーガ様はタスキを素早く肩にかけ、軽いながらも速いスピードで走り出す。


「アインルーガ様、頑張ってください!」

「ファイトです、アインルーガ様!」


お昼に同席したから、もう気兼ねなく応援出来る。というかもう諦めたというか。ネアシェと共に声をかけ、アインルーガ様はクジを引いて着替えスペースへと入っていく。


「変な仮装じゃありませんように…!」

「引いた時驚いたような顔してましたから、心配ですね…」


祈りにも近い念を込めつつ願うが、確かにクジを見た時少し目を見開いていた。親しい者にしかわからないような違いだろうけど、嫌な予感がする。

しばらくしてカーテンが開かれ…て…?




「き、着ぐるみ…!」


きゃああ、と女子の黄色い声が響いて運動場が揺れる。

アインルーガ様の仮装は大きいネコの着ぐるみであり、ブサカワとでも形容すればいいのか微妙なデフォルメ感がなんとも愛らしい。

アインルーガ様のご尊顔は全く見えないが、面白く可愛い着ぐるみの所作は丁寧で気品があり、更に笑いを誘われてしまう。


「っ…く、」

「メイルーン…」


真顔になり笑いを堪える私をネアシェが若干呆れたように笑った。






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