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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第2章
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【1】第二幕:学園で泊まります。




宿泊研修は、連休を利用して開催された。

通常であれば休日でも学園は自由に使えるのだが初等部の教室がある棟や運動場、食堂などの宿泊研修で理由する場所は参加者以外立ち入り禁止とし、学園を守る結界の内側にもう一つ結界があるような状態。


他の学年の先生方もサポートで入っており、かなり先生方の人数が多かった。

何となくだが学園の気合の入り具合がわかってしまって、少し苦笑いしたのは秘密だ。




『昼食までは自由行動です。荷物を部屋に置いて学食へと集合してください』


放送を使って指示が出され、集まった6年生達はバラバラと動き出す。

手元にある宿泊研修のしおり、と可愛くデザインされた小冊子を見る。昼食は12時からだからそれまで2時間くらいフリータイムという事だ。


「メイルーン、行きましょうか」

「ええ」


ローラーのついた大きなカバン、キャリーバッグに似た魔法道具を引きながら学園内へと入る。

林間学習の時とは違い事前に荷物の預かりがないので当日持ち込むしかなく、女子…それも令嬢はみんな荷物が多めだ。

私もこの空間を拡張する魔法がかかっている荷物でなければ大型キャリーバッグ3つくらいにはなっていただろう。準備してくれたナタリーはまだ必要なものが…と荷物を増やそうとしていたが遠慮した。


「あら、レオニダスさん」

「よう」

「あなた荷物はそれだけ?」


黒い髪が目立つレオニダスを見つけ、ネアシェが声をかける。少し大きめなバックを肩からかけて持つレオニダスはそうだけど、と目を細めた。


「お前、女子のくせに荷物それだけかよ?」

「お生憎様、空間拡張の魔法道具だからご心配なく」

「そいつは悪かった、貴族様の荷物の多さは大変そうだからな」


ちらっと目を向けたのはロンギヌス様のだった。彼は取り巻きに何個も荷物を持たせ、本人は手ぶらで歩いていた。…荷物、何個あるのかしら。


「メイルーン、あれ」


ネアシェが更に見たのはロンギヌス様の隣にいるミレイユ嬢。彼女も手ぶらで、その後ろにいる令嬢達が数個の荷物を抱えていた。


「…て、えっ…?」

「気付きました?彼女…自分の爵位より上の子に持たせてます」


男爵令嬢という立場ながら子爵令嬢、そして侯爵令嬢すらいた。これは相当異常な光景である。

令嬢達も屈辱に染まった顔でミレイユ嬢を睨みつけているが、彼女はロンギヌス様とにこやかに話をしていた。周りの貴族達もざわざわと噂しているのに耳を澄ませば、最近ミレイユ嬢が自分の取り巻きのように扱っていると聞こえ思わず耳を疑う。


「…あいつ、最近変わったよな」

「あいつって、ミレイユ嬢の事かしら?」

「ああ。去年まで話した事すらなかったんだが、最近しつこいんだよな」


嫌悪感を隠そうともせずレオニダスはイライラしながら腕を組む。


「こないだ帰る時まで付きまとってきて、フォーチュンまで来そうになった時はさすがに焦った」

「それはいけませんね」


フォーチュンはレオニダスのお母様が務める場所であり、アインルーガ様にとっても重要な場所の1つだ。ちなみにネアシェにもフォーチュンの存在は伝えている。

そこに別の派閥の人間であり寵愛を受けている彼女を連れて行けばややこしい事態になりかねない。


「…気をつけろよ」

「わかってます。彼女が私やネアシェ、あなたに近づく目的なんて1つしか思い至りません」

「今年になっていきなりですし…どうもロンギヌス様の指示でもないみたいみたいですね」

「みたいだな。女1人制御出来ない姿は見てる分には面白いんだが」

「こちらに被害が出る可能性があるのだから、面白がらないでください」


狙うはアインルーガ様派閥の軋轢、だろうか。

けれどそれを鑑みても彼女の最近の行動には疑問が残る。何か違う思惑すら感じてしまって、それも違和感に拍車をかけているのだ。


「…この警護体制の中、何か起こさなければいいのだけど」









荷物を置くため宿泊場所をしおりを見ながら進み、教室を見つける。


「この教室ですね」

「入りましょうか」


ノックするが返答がなく、仕方がなくそうっと開ける。


「…まあ、本当に教室から変わってないですね」

「カーテンで仕切っただけですわね」


入ってすぐ見えたのはベッドが4つ並んでいる光景であり、カーテンと衝立で仕切られ、あるのは簡易ベッドとキャビネットと机と椅子。

広めの病室?という感想だ。


「どいてくださる?」

「あら、ユーグリッド嬢。失礼しましたわ」


後ろから声をかけて来たのはユーグリッド嬢。そう、彼女もこの部屋なのだ。

教室内に入るユーグリッド嬢の後ろからぞろぞろと荷物を持った令嬢達が入ってくる。そしてすぐさまベッドのシーツやマットレスを剥ぎ取り交換していくのをぼうっと見ていた。

寝具一式持って来れば、あんな大荷物になるのも当たり前か。


「…私達も荷物を置きましょうか」

「そうですね。メイルーンはどこのベッドにします?」

「この1番近いのにしようかしら」

「では私はその隣で」


ネアシェは奥のベッド、ユーグリッド嬢の反対側のベッドへと進む。多分これがマシな配置だろう、派閥を抜けたとはいえユーグリッド嬢はメイルーン自体が気にくわないのか声をかけられる事はない。気にくわないだけで嫌われてはいないと思うけれど。

これで3つのベッドが決まり、残り1つ。

先に来たからと決めてしまったけれど大丈夫かしら。


「4人目は来ませんので、どうぞお好きにご利用なされば?」

「あら、そうなんです?理由をお伺いしても?」

「この顔触れを見ればわかるでしょう」


私とネアシェ、ユーグリッド嬢。6年生公爵令嬢メンバーだ。確かに4人目は侯爵家の子だったので、居心地の悪さは随一かもしれない。恐らく行事参加を欠席する事にしたか、別の部屋に移ったのだろう。

ユーグリッド嬢は取り巻き達に準備を終えさせると部屋から追い出し、3人だけになると静かなものだった。


「これはワザとなのかしら?」

「恐らく。というよりこの一室だけ少し豪華なのでしょう」


他の教室を見たらしいユーグリッド嬢が意外にも答えてくれた。他はベッドとキャビネットのみ、仕切りはカーテンのみで本当に病室のようだったらしい。


「気兼ねしない爵位のためでしょう。関係性を全く気にしないところはリンドウ先生らしいと言えばらしいですが…」

「ふふ、そうですね」

「クラス毎とはいえ、私達をまとめるんですものね」


たかだか一泊だが、されど一泊だ。

こうして一緒の部屋になったのも何かの縁、色々話したり聞いたりしたいところだが。

その時突然、扉を叩く音が響く。





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