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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第2章
95/125

【6】


土産話を楽しみに、と言ったものの。

やはり初の試みだけあって、学園側も対応に困るのか情報のやりとりが少し遅れていた。

こちらで考えたレクリエーションの内容などを提案したものの、数日後にダメ出しされて却下されるというのを何度か繰り返しているのだ。




「…と、いうことで。この提案は危険性が高いとの事で承認しかねるそうです」


またかよ、という声がざわざわとした中で響き全員が頷く。


「委員長、これは何案目だったろうか」

「6案目ですね」


委員長、と呼ばれた男子。メガネをかけた知的な風貌でいかにも生真面目そうなところはレイサ先生を思い出させる。

彼はブレイ・エクトリアという名前で、我がクラスの代表を務めている。この皇太子2人に加えて公爵位の令嬢が何人もいるクラスで5年生の時から務めているかわいそ…優秀な人物であり、アインルーガ様もロンギヌス様も認めている。

委員長、と呼ばれているのは紛れもなく私のせいであり代表の事をぽろっとそう呼んでしまったのだ。もちろん現代の影響だったがクラスメイト達はしっくり来たらしくみんな委員長と呼ぶようになってしまった。


「6案目ですね、じゃないだろう!ちゃんと抗議はしたのか!?」

「しましたよ、ですが…」

「その結果却下されれば意味がない!」


ロンギヌス様は少し前まで落ち着いていた気性の荒さが再発してない?と思うくらい食ってかかる。

まあ今回の案は急いでいて精査が甘かったから、と理由は思い至る。そして食ってかかる理由も思い至ってしまう。


「もう却下されてしまいましたから。……という事で、決定してしまいました」


代表補佐の女子がプリントを皆に見えるように開く。




「我がクラスの提案するレクリエーションは、肝試しになりました」


ええええ、と叫ぶ声が教室を震わせた。








そう、軽い気持ちで案を出した肝試しが承認されてしまったのだ。

少し前のこと、何度も話し合いをして疲れ果てた結果とりあえず案を提出してみようと数案を先生に渡したのだ。そしたら何と肝試しだけ案が通り、他は却下。

肝試しとか闇の魔力が影響しちゃうんじゃ、とか。子どもなのに夜の行事は、とか。色々自分達が出した案なのに抵抗したけれど結局承認されたのはその案だけ。つまり肝試しの他に案が承認されなければ必然的に肝試しをする事になってしまう。

なのでクラスメイト総出で色々意見を出したのだが惨敗。

そして今日が案の最終締め切りだった。


「はい、皆さん。嘆いてますけど案出すの賛成したのは皆さんですよ」


淡々と静かにさせた委員長は本当に肝が座っている。多分お化けとか怖くないタイプなんだろうな…。

肝試しごとき余裕だろ、とか言ってるそこの男子。膝が笑ってるの見えてますわよ。


「本当に実行するかどうかは学園側の判断になりますから、意見は先生に言うように。それではこれでクラス会議を終了します。資料を配りますので、受け取って解散で」


はーい、と声が揃いこれにて今日の話し合いは終了だ。代表補佐の女子がプリントを取り出しクラスメイトに配られる。


「やると思います、肝試し?」

「どうかしら…夜の行事は流石にやらないと思うけれど学園側が最終決定だもの」


そうですよね、とネアシェも頷く。

レクリエーションの案は各クラスから提出され、先生が運営する形で実行する事となった。まあ当たり前だが先生達が運営する以上成績が関わってくると予測されていて参加しないという選択肢はなくなる。

でも肝試し…誰が提案したのだろう。匿名で応募した案であったため、本当に誰が言ったのかわからない。




夜の学園、肝試し…ちょっと怖い気もする。何というか学園にも七不思議があるし、怖い噂もあるし、夜の学園自体が雰囲気があって現代でも苦手だった。

後夜祭や夜会などで夜に学園にいた事はあるが、イベント特有の賑やかさがあって恐怖を感じる事なんてなかったのに。


「メイルーン、今日はこのままお帰りです?」

「ええ、そのつもり」

「良かったら久しぶりに練習場に行きませんか?」

「本当?嬉しいわ、もちろん!」


練習場とは運動場とは違って屋内にある魔法の修練場だ。ネアシェと何度も行った場所だが最近は色々あった影響でご無沙汰だった。

最近魔法を使うとしたら体育の授業くらいしかなく腕が鈍らないようにそろそろ行こうと思っていたので丁度良かった。


「ユゥイさん、ララさんも誘います?」

「そうね、2人が良ければ…」

「メイルーン様!」


ミレイユ嬢がこちらに寄って来て、その後ろではロンギヌス様やスレイヴ様が何か言いたそうな顔をしていた。

帰りはいつも彼らと一緒だった彼女だが、時々こういう場面を見かける。


「練習場に行かれるのなら、私もご一緒したいです!」

「…ええ、良ければどうぞ」


男爵令嬢から声をかけ、あまつさえ誘われてもいないのに行きたいと言う。…少し、図々しい気もする。

最近顕著なのだが、私とネアシェが一緒にいる場についてこようとする事が多く、何がしたいのか薄々感づいてしまうのはメイルーンの聡い頭脳のおかげか。




多分、ミレイユ嬢は私とネアシェが仲良くする事を阻もうとしている。

私を孤立させたいのか、ネアシェと仲良くなりたいのかわからないが…あいにく、私もネアシェも馬鹿ではない。

そして思惑が透けて見える令嬢より滑稽なものはない。


「ユゥイさんとララさんも誘って行きましょうか」

「ええ」

「お2人の魔法が間近で見れるの楽しみです!」

「あら、ありがとうございます」


私が先日抱いた違和感の正体も分かった。

ほぼ会話した事がないネアシェや周りの人々におどおどせずに話す彼女は去年までの彼女とあまりに差異があったのだ。

そして何より貼り付けたような笑顔。






ーーーそう、まるで中身が変わったかのように。














「で、これが俺のクラスの提出案です」

「へえ、肝試し!面白そうだね」


リンドウは学園長へとプリントを差し出す。目を通した学園長は子どものように目をキラキラさせ、後ろに控えていたレイサはため息を吐く。


「全く…承認したのも学園長でしょう。

夜の行事という時点で避けるべきです」

「はは、まあね。闇の魔力は性質上やっぱり夜がお好みみたいだから」


学園長の軽い返答にレイサはもちろん、リンドウも疲れたように息を吐く。

学園も闇の魔力への対処に協力し皇帝陛下と協力関係にあり、その代わりという形でもぎ取った宿泊研修は学園の防衛機能を表明する場とも言える。

学園の気合の入りようは生徒達の知らぬところでかなり高く、綿密な警護体制を計画している。


「うん…いけるかな」


学園長はプリントをひらひらと動かしてレイサに向かって笑いかける。


「レイサ、これでリハビリといこうか」

「…学園長の仰ってる意味がわかりません」

「ふふ、レイサの言っている通り夜の学園を歩き回るのは危ないからね。でも逆に言えば歩き回らなればいいんだよ」

「は?」

「君たちのクラスの子が基礎的なアイディアをくれたからね」


学園長のデスクの上には「コースターの保管方法」と書かれた紙が載せられていた。





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