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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第2章
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【5】



「はい、そこアウトですよ!」


えー、と言う声を上げながら女子が立ち去っていく。わらわらと何人かが走り回り、小さな杖で魔法を発動させている。




「…ドッチボールみたいなものかしら」


今は運動場での体育授業中だ。

だがのんびりと観察している私は暇でしょうがない。

今やっているのは授業はメジャーな内容らしい魔法訓練と運動を組み合わせたものだ。2つのチームに別れ魔法の球が1つから2つほど空間を飛び交う。ようは球に当たらないようにしなければいけないのだが魔法の使用が許可されているため、まあまあ激しいスポーツと化す。

擬似的な戦闘フィールドが展開されており、球に当たったらフィールドの外へ、そして先にフィールド内にいなくなったチームの負け。

呟いたように魔法ありのドッチボールと言ったところか。魔法ありの部分がもう違和感なく言える辺り、1年でもう慣れたものだと思う。


「メイルーン、退屈そうですわね」

「もう出番は終わりましたから」


私のチームはもう競技を終えているのだが対して苦労もせず勝利したので不完全燃焼と言える。

私は度々ネアシェと共に修練を行い、基礎レベルはクラスメイトと同じくらいまで上がっている。ネアシェも同様だ。

元々高い水の適性を持っていたから基礎レベルさえ上がれば水魔法は格段に強くなる。初等部で水の魔法使いと言えば弟であるガルフィースなのだが、制御に関しては私の方が上だと言われている。

競っていないし競う気もないのでどちらが上とか知らないのだけど。


「球を水で操作して全員に当ててしまうんですもの、勝てないのも当たり前です」


どこか楽しそうなネアシェに苦笑し、先程の対戦を思い出す。全員使用が必須な小さな杖を使って水を鞭のように操り球を操作すれば、私にとっては簡単な競技になってしまった。今行われている試合こそが本来の競技なのだろう。

ぼうっとしていると爆発音が後ろから聞こえた。


「…男子はなんだったかしら」

「確か的当てだったような?」

「ああ…」


思わず気の抜けた声を出してしまったが、多分爆発音の原因はレオニダスだろう。火柱と煙が立ち上り、男子達はもちろん女子達も試合を止めてざわざわと騒いでいる。女子達のざわめきは主に黄色い声と言えるけど。やっぱり女子は強い男子に憧れるらしい。火力は随一だけれど目立ちすぎなのよね。


「全く…暖かくなってきたのを通り越して、暑苦しくなってしまいますわ」

「ふふ、去年よりもっと頼もしくなってますものね」

「ネアシェ、話聞いてました?」

「はい。気温が上がるくらい強くて素晴らしいって言いたいんですよね?」

「聞いてませんわね?」






先日行われた魔力検査。

私にとっては1つの始まりと言えた去年とは違って、至って平和なものだった。

私は変わらず水と無属性の適性を持っていて魔力の測定値が基礎レベルの上昇に伴い飛躍的に伸びただけだ。

レオニダスの有り得ないほどの魔力もまだまだ伸び続けているらしく近年稀に見る天才児だと更に話題となった。

去年まで乱暴で口が悪く粗野だと言われていたようだが、最近では平民ながらもアインルーガ様の側近と言える働きで手助けしているらしく性格も落ち着いてきたと言われ、更に1番の親友という肩書きも影響していて女子達の人気も上がっている。

貴族という身分を持ちながら実力主義を掲げる貴族もいるから分からないものだ。蝶よ花よと育てられた令嬢は危険な香りがする刺激的な出来事でも楽しみたいのだろう。


「まあ、皆さん少しでも娯楽に興じたいのだと思います」

「…そうね、こうなってしまうと…」






今年の林間学習は中止となった。


理由としては情勢を鑑みて、学園の外で生徒1人1人の安全を確実に確保する事が難しいという事。

5年生の時に行ったエルスヴァティの森も水質汚染により利用不可となった事も影響し今年は残念ながら、と発表されたのは少し前の事だ。





だがその代わりと言っては何だが、初等部6年生限定で学園での宿泊研修というものに変わった。学園に一泊するだけの簡単な行事。

参加は自由となったが案外人気で、とりあえず私達のクラスは皇太子2人以外は全員参加だと聞いている。ただ2人も参加を希望していて押し通そうとしてるとか何とか…。

宿泊研修、と銘打ってはいるものの本当に泊まれるだけで課題ややらなければならない事などはない。


「宿泊研修って学園で初なのよね?」

「宿泊研修自体は中等部以降に林間学習の代わりとして毎年あるそうですよ。ただ学園に泊まるという行事は創立以来初だそうです」


初等部6年生限定というのも思い出がないと卒業文集などに関わるから、という学園側の配慮で企画されたものらしい。

限定、創立初という響きにクラスメイト達は惹かれたらしく参加多数となったわけだ。まあ私も惹かれた1人であるから人の事は言えないのだけど。

初の試みであるためその内容は一旦私達に委ねられていて、最近は毎日のようにクラス会議を重ねている。


「明日の会議までに1人1案以上レクリエーションを考えろって…中々無茶言いますわね」

「ふふ、初めてすぎてだいぶ手さぐりですもの。先生方もどういった案が出されるか楽しみにしてるんですよ」

「余裕そうですわね、ネアシェ。もう案が出てますの?」

「いえ…全くなんです」

「むしろこの授業を提案してしまえば?」


魔法ありドッチボールは女子しか行っていないが、男子も混じればもっと大規模に出来るだろうと思う。


「ふふ、燃えて終わりな気もしますが」

「ああ…」


本日二回目の気の抜けた返事をしてしまった。原因が1人の男子なのが腹立たしい。











「そんな手さぐり状態で研修と言えるのですか?」

「まあ研修ではないわね。でも楽しいわよ?」

「全く…そんなにお気楽にしていて良いんですか?」

「もうガルフィース、せっかくの行事だもの…そんなに風に言っては駄目よ」


夜、食事の場にはお母様とガルフィースが席を共にしていた。


「でも課題ではなく、レクリエーションなのね」

「参加自体が強制ではないので課題ではないだろうと。ただ行事であるため、一定の目に見える物が必要らしいのです」

「だから一泊二日分の日程を生徒達に考えさせるなんて、学園も思い切りましたね」

「メイルーン達の年代は期待値が高いからかもしれないわね」

「期待値…ですか?」


なんとなく意味はわかるが、私達の年代がそのように言われているのは初耳だ。


「皇太子殿下のお2人や公爵子息令嬢、他にも天才と言われている子…中々ネームバリューに富んでいるもの」


言われてたしかに、と納得する。私を始めネアシェやユーグリッド嬢は公爵令嬢だし、それこそレオニダスは話題の的だろう。言われて気付くのは距離が近い故の弊害か。

去年の6年生、ヤクト様方がいた時はその方々が注目されていたし初等部での最上級生というのはそういうものなのかもしれない。


「でも…本当に大丈夫?学園の独自性は信じているけれどこの情勢ではね…」


お母様は心配そうにこちらを見てくる。

今ここにいないお父様は、皇城で闇の魔力に関する会議に出席するためにいないので、それも相まってお母様も心配しているのだろう。

学園は闇の魔力の目撃が相次いでいる帝都にあり、去年の年末には侵入を許している。


「でも年末からここ数ヶ月、学園に侵入された事例はないそうですよ」


帝都で突発的に起きた闇の魔力による変異した魔物が襲ってきた情報やそもそもの目撃情報は学園では報告されていない。

学園なら安全を確保出来る…という名目で宿泊研修を行うため、学園側もかなり気合を入れているのが分かっているし。


「大丈夫…とは安易に言えませんが、学園の協力もありますし。

創立初の出来事なんですもの、土産話を楽しみにしていて下さいな」


お母様は少し不安そうに、ガルフィースは諦めたように笑った。






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