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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第2章
92/125

【3】



生徒で賑わう廊下を通り抜け、周囲を確認してコンコンと扉をノックする。




「メイルーンです」

「ああ、どうぞ」


扉を開ければ、正面に輝く金髪がさらりと揺れたのが見えた。




「お邪魔しますわ」

「ようこそ。片付いてなくてすまないな」


迎え入れてくれたのは、元婚約者となったアインルーガ様だ。

生徒会長となった彼は昼休みも忙しそうにしている。座っているデスクの上には書類が山積みになっているし、テーブルの上にも書類が雑多に積み上げられている。


「お手伝いしますわ、テーブルの上の書類は見ても?」


アインルーガ様が困ったような顔で「…頼む」と言ったので、相当参っているらしい。

手には学食で買ったサンドイッチセットと飲み物が握られていて、テーブルの上の空いているスペースへと静かに置く。




「日付が新しいものから種別毎に纏める、でよろしいですか?」

「ああ。……いや、確か生徒会顧問の署名があるものが混ざっていたはず。それは避けてくれるか」

「はい」


広いテーブルを埋める書類を一旦ひとまとめにして仕分けして行く。こんな風にバラバラに置いておくアインルーガ様でないから、別の人間がやったのだろう。

この生徒会室は生徒会役員が業務を行う場であり会議を開催する場でもある。

役員用のデスクが複数と会議用の大きなテーブルが1つあるが、書類が積まれているのは会長机とテーブルの上のみだ。


「…放課後までに少なくしようと?」

「放課後はあまり書類整理に割ける時間が少なくてな…6年生になってから、業務の多さに目を回している」


ふう、と息を吐くアインルーガ様は疲れているようだが書類を処理する手並みは淀みなく動いている。

ほんの数ヶ月前からこうしていたのだろうと考えると、手伝っていなかった事を申し訳なく思う。5年生の頃は前生徒会長であるティナシア様が手伝っていたらしいし引き継ぎやらで人の出入りが多かったので基本関わっていなかった。




「他の役員の方々は?」

「流石に付き合わせられない。私が処理しなければ進まない書類もあるしな」


抱え込んでますわねえ、と思った時、扉から鈍い音が響いた。返答を聞かずに扉が開く。


「よ、飯持って来たぜ」

「お帰り。ありがとう、レオニダス」


入って来たのは両手に包みを持ったレオニダス。

体で押すように開けたらしく、ノック出来ないのは分かるが返答くらい待てないのだろうか。

レオニダスはこちらを見てニヤリと笑う。


「よう、元婚約者様じゃねえか」

「レ、オ、ニ、ダ、ス、さ、ん?」


にっこりと笑うとおお怖、と呟いて空いたテーブルに包みを下ろした。

衝撃で書類が数枚落ち、ちょっと!と言うが気にせずソファへと座り込む彼にイラッとする。


「書類整理出来ないんですから、せめて邪魔しないでくださる?」

「はっ、適材適所ってな」


落ちた書類をひらひらと振って適当に置く彼は整理する気がない。天才児だろうが、書類整理というのが性に合わないらしい。

曰くストレスしか溜まらないから必要な時以外はしない、らしい。適当に置かれた書類を元の位置に戻す。


「飯持って来たし、先に食べようぜ」

「ああ…だがもう少しで山がなくなるから、」

「ほら、昼飯食えなくなるだろ」


レオニダスは立ち上がってアインルーガ様の手を無理矢理止めさせようとしている。

…確かに時間的にちょっと無理があるものね、と思い私もテーブルの上の書類を端へと避ける。

アインルーガ様も諦めたようで、レオニダスに連れられてテーブルの方にやってきてソファに座り込んだ。


「よし、ほら」

「ありがとう」

「あら、飲み物は?」

「少し前にネアシェに頼んでいる」

「遅いと思ったら、そうだったのですね」


話題が出た時に丁度良く扉が弱くノックされ、ネアシェですと伝えられたのでアインルーガ様が扉を開けに行く。

レオニダスに開けに行けと目線を送ったが素知らぬ顔をしていたので男子として最悪だと思う。


「すまないな、重かっただろう」

「このくらい平気ですよ」


ネアシェは小さなお盆の上にコップと紙ナプキン、片手にポッド式の魔法道具を持っていた。

片手で無理矢理ノックしたから音が弱かったのだろう。アインルーガ様がポッドを受け取り、中へと案内する。

私とレオニダスに気付いてフワリと笑って挨拶する彼女はやはり可憐だ。

ーーー比べると、やはり先ほどの彼女は…。


「メイルーン、どうかしました?」

「…いいえ、なんでもないわ。はい、ネアシェの分」

「ありがとう」

「でも私が持って来た飲み物いらなかったわね?」

「合わせて丁度いいくらいですよ」


アインルーガ様とレオニダスは包みを開け飲み物の準備もしていた。

レオニダスが持って来たものは私のサンドイッチセットとは別で、大きなお弁当箱に入ったちゃんとしたお弁当だ。

スープなどもついていて温かく、食べ盛りにはぴったりらしい。




「さすが、お弁当も美味しいですわ」

「大抵学食で食べてましたけれど、こうして落ち着いて食べる方が私は好きかもしれません」


ベーコンとレタス、トマトが挟まったサンドイッチを口に含むとしょっぱさとさっぱりした味が抜群の相性で思わず頬が緩む。

学食だと人の往来も多く落ち着いて食べれないから、こういうのもいい。お弁当と言えど買ったばかりだからまだ温冷はバッチリだ。


「うん、このお弁当箱はいいな。開ける楽しみがある」

「全部日替わりだしな。お、今日はタマゴスープだ」


サンドイッチの具やおかずなど日替わりで変わるセットを買って来たので、開くまで分からないのは子供の好奇心を大いに刺激してくれる。

苦手なものが入っている事もあるが、そこは日替わりの醍醐味というやつだ。子供舌に戻ったけれど野菜の美味しさが分かる年齢を一度経験してるので基本好き嫌いはないのだけど。


「生徒会室で食事するのは少し気後れしますね」

「会長様が許可してんだから良いだろ」

「まあ中々都合が良いからな」


アインルーガ様はソファに座った段階で防音の魔法道具を使っていた。

この生徒会室に集まった理由はただ1つ。


「鍵は?」

「ネアシェが入った後締めた」


他人の目を気にする必要もなく、秘密の話をするのに丁度いいからだ。









6年生になり、様々な関係性も変わったがそれは悪い方向にだけではない。

むしろ今の距離感が丁度良く、心地良い気がする。婚約者が多少の重荷だったのは事実だったようだ。勿論重荷だけではなかったけれど。




「正直、夜会から闇の魔法使いなど動きはない。むしろ厳戒体制だから動けないと言っていいだろうな」

「けれど魔物の異質化は起きてますわよね?」

「恐らくだが、以前からいたんだろう。調査が本格化して表面化しただけだと思う」

「なんでそう思うんだ?」

「調査していく上で分かった事なんだが…」


闇の魔力は魂や精神へと侵食し魔力を奪い、穢れた魔力を使い更に侵食していくという循環とも言える構造で侵食を進めていくらしい。

故に時間が経てば経つほど、闇の魔力の侵食は濃く深くなっていく。


「異質化が判明した魔物はこれまでに7体。どれも種はバラバラだが侵食度合いは同じくらいだった」


異質化とは闇の魔力の侵食を受け変化、変形した事の総称として使われている。

ゼッセンジャー…新種だ何だと新個体名がついたが撤回され、異質化したものだと説明された。

異質化は様々な形で現れるらしく、ストルプやゼッセンジャーは体躯が大きくなったが、体躯は変わらないが魔法を使うようになったなど、知能方面の異質化も確認されている。


「ゴブリンシャーマン…でしたっけ」

「ああ、軍が相当手を焼いたらしい」


少し前に新聞に載っていたゴブリン型の魔物。

知能が比較的高いゴブリンが更に知能をつけ、上位魔法を使える種が現れたと騒がれた。

それも異質化の一種であったと討伐に当たった軍が報告しまた騒がれたのは頭の痛い問題だ。






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