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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第2章
91/125

【2】


見知った顔だ、アインルーガ様派閥の令嬢達。令嬢だけじゃなく平民も多くいる。

前までメイルーンに恐怖し、アインルーガ様派閥と言えど近づく事さえ出来ていなかった彼女たちは今、集団で私を囲んでいる。

学園の裏手にベタな展開で呼び出しを受けた私は素直に行ってあげた。




「どういう事ですか!?」


この子は確か1つ年下のナディア・ヨレイス。ヨレイス侯爵の娘で、アインルーガ様の派閥の中では目立つ貴族の1つであるが、家督といい年齢といい私につめ寄れるような立場ではない。


「どういう事も何も…知っての通りだと思うけれど」

「なっ…殿下を見捨てるのですか!?」


思わずくすりと笑ってしまう。


「なっ…!」

「ああ、ごめんなさい…あなたに笑ったのではないわ。でも…見捨てるだなんて、余りにも不敬だと思うけれど。

アインルーガ様は私の権力がないと力不足だとでも言うのかしら」

「ち、違います!わたしはただ…!」


顔を赤くして反論する彼女はあまりに直情的だ。1つ年下であればガルフィースと同年代だが弟がいかに大人びているのかが分かる。

多分だけど、ナディア嬢はアインルーガ様が好きなのだろう。だから感情を表に出して私に対して怒っている。むしろ可愛らしいわねと言って差し上げたい。




ーーーそれに比べて、なんとまあ胸糞悪い事。

口調が汚くなっていけないと思うがナディア嬢の後ろでこちらを見ている女子。

派閥内の令嬢で私の次点と言えるウェンディ公爵のご令嬢、シャーロット・ウェンディ。

恐らくだが彼女の差し金だろう。彼女が先導して人を集めながら、問い詰めるのは別の人間に任せたのか。林間学習でのユーグリッド嬢といい、頭の回る性根の悪い女子は後ろから見るのが好きね。


「婚約破棄の理由はアインルーガ様が仰って下さったでしょう?」






『皆も知っていると思うが、昨今帝国内では闇の魔力が蔓延している。

そして現時点で帝都を中心に闇の魔法使いの存在を検知しており、慎重にならざるを得ない。

何かあってからでは遅い、少しでも異変を感じたら私に報告して欲しい。軍にでも構わない』


派閥が集められたつい先日。アインルーガ様は狙われているのは帝都、ひいては皇族だろうと言い放った。

そしてその会合は婚約破棄を発表したすぐ後の日取りだったため勿論その事についても話が上がった。


『今回の婚約破棄は2人で話し決めた事だ、幼い婚約者は標的にされかねない。

どこぞの者が噂しているような彼女の不貞などではない、余計な詮索はしないように』


アインルーガ様はお父様と共に年の始めから根回しをしていたらしく、信頼のおける貴族と会合や密会を重ねていたようだ。

大抵の疑いや噂の出所は意外とも言えるが派閥内からだ。いや…意外でもないかもしれない、派閥は一枚岩でなく、婚約者を擁していたファクトヒルデ家を疎ましく思う存在も隙あらば取って代わろうとする存在もある。

まあ、この話題を出した貴族は根回しのされていない…信頼されていない家の者だ。


皇太子ではなく令嬢に疑いがかけられるのは貴族の習性とも言えるから仕方がない。

メイルーンであれば確実に怒り狂って暴れていただろうが、私は大人しくしていた。

この変わりようが噂の原因でもあるようだが、今までのような人間ではないと広まっているのだから構わないでしょう。




「アインルーガ様の聡明な御心で私を危険から遠ざけて下さったの」

「今こそお力を貸すのが務めではないのですか!?」

「勿論四大貴族のファクトヒルデ家として協力を要請されていますもの、今後は皇帝陛下を支援いたしますわ」

「…私達は、次期皇后陛下となるつもりのない方の言うことを聞かされていたのですか!」


今ので彼女の本心が透けて見えた。アインルーガ様の事など持ち出さず、初めから今までわがままで残酷なメイルーンに振り回されていたのが許せないと言えばいいだろうに。




「今までの所業は悔い改め、謝るわ」


頭を軽くではあるが下げた私に女子達が大いにざわつく。


「でも」


ぴたっとざわつきが止まった。私の気迫に、呑まれたかのように。

頭を上げにっこりと微笑んであげる。




「こういう時だけアインルーガ様を理由にする、その心根は軽蔑するわ」


アインルーガ様のために私を糾弾する、彼女たちの態度は表面上そうなっている。最初のこちらに非がある口ぶりといい、根回しされていないだけあるわ。

私がじゃあ派閥に戻るわと言ったらどうするつもりなのかしら?






「シャーロット嬢」


青ざめたシャーロット嬢が呼ばれて体を震わせる。


「私を除けば貴方が1番家督が高い令嬢だもの、この子達をコントロールしなければならないわよね?」


前へと歩みだせば、前を陣取っていたナディア嬢は怯えた表情で横へと避ける。


彼女の横で立ち止まり、目を向けずに話しかける。


「派閥令嬢のコントロール、思ったより大変だから死ぬ気で頑張って?」

「ひ…っ」


耳元で囁くように忠告してあげれば恐怖したように顔を歪めて後ずさる。

ここで言い返してくるくらいだったら任せて大丈夫だと思うけれど、これは望み薄いかしら。















「メイルーン様」


教室へと戻る途中、廊下で声をかけられる。


「ミレイユ嬢!」


栗色の髪を揺らしてこちらに来るミレイユ・アーバハン。

蒼海の奏者主人公である彼女は諸事情で年明けから学園を休学していたが、無事6年生になっていた。

お見舞いにも行けず心配していたのだが、顔色も良くこちらに微笑んでいる。


「普通に話すのは夜会の時以来かしら」

「はい、あの時はお世話になりました」

「元気になって良かったわ」

「おかげさまで、この通りです!」


ニコニコと笑顔のままの彼女と共に教室へと戻る。


「お見舞いに行けなかったから、色々贈らせて貰ったのだけど…迷惑だったかしら?」

「そんな事ないです!高価な物ばかりで、とても嬉しかったです」


その言葉に引っかかりを覚える。今の彼女は発言は高価な物だったから嬉しかったともとれる。

確かに公爵家からの見舞い品なのだから、値はそれなりなのは当たり前だ。


「…そう、良かったわ」

「そうだ、メイルーン様。良かったらお昼ご飯一緒に食べましょう?」


良かったら、の言葉が添えられているが、ほぼ強制に聞こえる。

ーーーロンギヌス様派閥に誘おうとしてる…訳でもなさそうなのよね。


「お誘いは嬉しいのだけど、先約があって…」

「あ、もしかしてネアシェ様ですか?なら私もご一緒したいです!」

「いきなりはちょっとね。聞いておくから、今度ご一緒しましょう」

「残念です…では今度、期待してますね!」

「ええ、また今度」


手を振ってミレイユ嬢と別れ、別方向へと歩き出した。

背を向けて自嘲の笑みを浮かべる。


「期待…ね」


仲が良くても、男爵令嬢が公爵令嬢に使う言葉ではない。







歩き方も姿形も変わっていない。なのにーーー


彼女は、あんな口調だったろうか。

彼女は、あんな風に笑う子だったろうか。





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