表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
86/125

【6】



年明けからしばらくして…皇帝陛下は闇の魔力について公表した。

変異した魔物の発生、水質汚染…それらはすべて、外部より侵入した闇の魔法使いによるものだと。

帝都内はもちろん帝国領内でも被害が発生しており、精神干渉を受けた者が存在している事まで伝えられた。

何か情報を持っている者、心身共に不安の感じる者は近くの帝国軍第一師団、帝都管理部まで申し出るようにと通達されたため、そちらは大忙しになるだろう。

お察しの通り民衆は大混乱に陥り帝都の治安は一時的に悪化したが、見越した皇帝陛下が帝国軍を配備していたため比較的すぐに回復した。ただし新聞などは連日記事に困らない状態だ。

名言はしていないものの民衆は帝国への侵略行為だと認識し、犯人は王国だと決めつけている人もいるため、治安が回復したと言っても表面上だけ。

貴族の中にいる反王国派が煽っているという噂もあり、帝国は新年から対応に追われる日々が続いた。











そして今、私は。




『Aクラス卒業生代表、ヤクト・シルフ・テラウィリス』

「はい」


司会呼ばれ立ち上がったヤクト様は講堂の壇上へと上がり、学園長から卒業証書を受け取る。拍手が起きて私も義務のように拍手をすればヤクト様はさっさと壇上より降りていた。


そう、今は卒業式の最中である。


各学年からの代表として数名来ていて、私の隣にはネアシェもいる。

オルガンテ学園は初中高と一貫校であり施設は纏められているが、学舎は離れている。唯一この講堂は全ての学年で利用するらしいが、それ以外はほぼ関連がない。

まあつまりは中等部に上がると会う事はほぼなくなるが、会おうと思えば会えるため、初等部や中等部の卒業式はこじんまりとしている。

逆に高等部の卒業式は帝国闘技場を貸し切って大々的に行われるのだが。


そういえば、魔法競技大会で破壊され帝国闘技場はまもなく営業再開するらしい。防護壁や警備体制、モンスターの取り扱いなども見直してリニューアルオープンをすると大々的に打ち出していた。

確か新年度と同じくらいからオープンするらしい。今年の魔法競技大会はどうするのだろうか。





『以上、証書授与された者をオルガンテ学園初等部、今年度の卒業生として認定します』


拍手を送る。…祝い事だからしょうがないんだろうけどこの作業感どうにかならないだろうか、眠たくてしょうがない。

公爵令嬢として失態は犯さないけど。


『在校生送辞。

アインルーガ・キシュレム・ラ・ソルアルファ』

「はい」


少し前に座っていたアインルーガ様が立ち上がり壇上へと向かう。そう、アインルーガ様は現生徒会長なのだ。

選挙が行われ、ロンギヌス様と争った…争いにさせられたが正しいのだが結果はアインルーガ様の勝利だった。

まあ平民人気がある上にファクトヒルデ家、近年はシドレ家もアインルーガ様寄りだと言われているから、結果は見えていたようなものだ。

これで、アインルーガ様の支持者は更に増えるだろう。正直本人達は気にしていなかったが、周りの貴族達は天国と地獄に分かれたようだった。

ロンギヌス様はミレイユ嬢が気がかりでそれどころではなかった、が正しいらしいが。

考えていれば送辞は終わり、アインルーガ様が拍手されながら壇上より降りて来ていた。




『続いて卒業生答辞。ティナシア・マルローエ』

「はい」


ティナシア様が立ち上がり、壇上へと上がって答辞を述べる。最初は決まった文言が続くのみだ。書類も後半に差し掛かり、ティナシア様が1つ息を吐く。


『…今年度は、学園のみならず帝国にとっても転換点とも言える時期でした。

ここにいる方の中にも関わりの深い方々は多くいると思います』


ティナシア様の言葉に若干ざわつく。

しょうがない事ではあるが答辞にこの話題を入れ込んでくるとは、さすがティナシア様と言わざるを得ない。


『どのような事があろうとも、この学び舎で共に過ごしたという事実は変わらず、共に乗り越えて来た困難も多くあるという事も変わりません。

苦難があっても生徒達1人1人が手を結び、協力する事で良い方に向かうと信じています。

卒業生代表、ティナシア・マルローエ』


ティナシア様が礼をすれば大きな拍手が上がり、彼女は凛としたまま壇上から降りた。


「ティナシア様…やっぱり華麗ですわね」

「闇の魔力で精神的に揺れている人達は少し安心したのではないでしょうか」

「ええ、恐らく」


ティナシア様はどちらの派閥にも属さない中立派で、ご本人の人望も高い。彼女に友人として共に協力しましょうと言われたら、私ならさっさと手を取ってしまう。

ざわつく会場を司会であるレイサ先生が制して卒業式は更に続いて行った。












「…あら?」

「近づけそうにないわね」


卒業式が終わり、ヤクト様は魔法競技大会青チームとして関連したので卒業祝いを伝えようと思ったのだが、すでに多くの女生徒に囲まれていた。

クラス代表者以外は教室でモニター参加だったのだがいつのまにか講堂前は人で溢れかえっていた。

その人だかりの中で顔見知りを見つけて声をかける。


「あら、ワイス卿!」

「メイルーン嬢か」


ワイス・バーミリオ様。ファクトヒルデ家傘下の伯爵家子息で、彼も今年卒業となる。

家同士で付き合いがあり、夏にお茶会をしたくらいだが会えば世間話をするくらいには関わりある。


「ご卒業おめでとうございます」

「あまり実感はないがそのようだ、来月初等部の教室に行ってしまいそうだよ」

「うふふ、私がいる教室でしたらフォロー致しますわ」

「話のタネにされてしまいそうだな」


にこやかに会話していると、ワイス卿に声がかかった。妹のジェシカ嬢だ。ぱたぱたとこちらに駆けて来ていてあらあらと思う。


「メイルーン様!」

「ご機嫌よう、ジェシカ嬢。ですが前にお教えしたでしょう?淑女たる者、なるべく走ってはいけません」


不要不急の時以外は走らない。目を引くし、暴れん坊だと思われてしまう。まあこの学園ではいらない事かもしれないけれど。

ジェシカ嬢はハッとして髪と身なりを整え、私に向かって淑女の礼をする。


「ご機嫌よう、メイルーン様」

「はい、良く出来ました」

「はいっ」

「すっかり懐かれているな、メイルーン嬢」

「喜ばしい事ですわ。ジェシカ嬢、どうかなさいましたの?」

「お兄様とメイルーン様が話しているのが見えて、思わず来てしまいました」


ジェシカ嬢は照れながら言っていて、可愛らしくいじらしいその姿が私は大好きなのだ。

思わず頭を撫でてあげれば、顔を赤くして更に照れていたが手は拒まれなかった。




「…メイルーン嬢、あなたが巻き込まれた事は公爵閣下を通じて教えられた。何かあったらどうか頼って欲しい」

「ええ、ありがとうございますワイス卿」

「…?」

「ジェシカ、お前もメイルーン嬢が困っているようなら力を貸してあげなさい、いいな?」

「は、はい!まだまだ淑女として未熟ですが、何かあればお助けします!」

「ありがとう、ジェシカ嬢。その言葉だけでも嬉しいわ」


また撫でてあげれば照れながらも嬉しそうに微笑んでくれた。お父様の言っていた懇意にしていた家への案内の効果だろう、心強い事だ。

こちらへ来る影が見えて目を向ける。


「ネアシェ、もういいんですの?」

「ええ、こちらは大丈夫よ」


ネアシェはシドレ家と馴染み深い卒業生達に挨拶に行っていた。交友関係が広いシドレ家なので人数は多く大変そうだったが、ワイス卿やジェシカ嬢と随分話し込んでしまったようだ。

ネアシェに2人を紹介すればジェシカ嬢は教えた通りに挨拶出来ていて、どこか誇らしく思う。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ