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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
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【3】



「ご機嫌麗しゅう、ヤクト様」

「久しぶりだね、メイルーン嬢。まともに話すのは病院以来かな?」

「はい、お怪我は大事なかったようで何よりでございます」

「さっきの話聞いてただろう?そういえば君も、闇の魔力を受けたんだっけ」


礼をするがヤクト様は気にせず話し続ける。思わずピクリと反応してしまった。




「ねえ、精神干渉を受けた感想は?」

「…関わらないで生きたい、でしょうか」


精神干渉への感想だ、決して今ヤクト様に対して思っている事ではない。


「ふふ、それは大変だったね」

「ええ、それはもう」


決して大変だと思っていなさそうな口ぶりにイラッとするが、従者の1人がヤクト様に耳打ちし廊下の先へと消えて行った。


「それでは、僕も暇ではないから失礼するよ。次会えるとしたら卒業式かな」

「ええ、貴重なお時間を頂きありがとうございました。卒業されるのは寂しく思いますが…心から、お祝いしますわ」


心からを強調し礼をすれば、ヤクト様は何が面白いのか笑いながら去って行った。従者の方もポカンとしていたが、ヤクト様の後を追うように急いでついていき廊下には私が残された。厳密にはもう1人。隠れていたメイドを確認するとしゃがみこみ、手で口を抑えていた。


「今の事は知らぬ存ぜぬ、ですよ?」


口に指を当てて告げれば、若いメイドはこくこくと何度も首を上下に揺らした。

闇の魔力の話題をヤクト様は驚きもしていなかった。やはり一部にはとうに情報は渡っていて、帝国で広まるのも時間の問題。


「…嫌な空気ですわ」










部屋に戻る道筋にレオニダスが見えた。どうやら貴族の方と話しているらしい。思ったよりにこやかに話していて意外だった。

軽く挨拶を済ませて別れた後に私がいる事に気がついたようだ。


「あら、レオニダスさん。あの後、体調はいかがかしら?」

「特に何もねえよ。お前こそ、あっちから来たけどなんかあったのか?」

「ええ、今ちょうどアインルーガ様とお話してきた所でしたの」

「…へえ」


にっこりと笑えばレオニダスは察したらしく、近くにあったレオニダスの部屋へと共に行った。若いメイドにはもう大丈夫と伝え戻って頂いた。


「で、結局どうなったんだよ?」

「恐らく近日中に婚約破棄になるかと」


サラッと言えるくらいで良かった。レオニダスも私のあっさり加減に呆れつつ、お前らしいなと笑った。

そういえば、アインルーガ様からこの男について聞いたのだった。


「そういえばレオニダスさん。貴族に成り上がるの辞めたって本当ですの?」

「げほっ!?」


変な所に空気が入ったらしく、レオニダスは激しく咳き込んだ。


「そ、それっ…アインルーガが言ったのか…?」

「皇室護衛官を目指すのですよね?」

「…まあな」


ゴホンと咳払いをして目を逸らす。顔が赤いのは息苦しさからか恥ずかしいからか。

どこか居心地悪そうなレオニダスにこちらが首を傾げてしまう。


「何を動揺してますの?良い事だと思いますけれど」


というか動揺してるのはこちらである。将来四大貴族のアリヴァ家に養子となる彼が貴族を目指さない。

これはもしかしなくとも、私のせいではないと。林間学習の夜に会話した際に私は向いてないと言ってしまっている。

本心だった訳だがこうも早く自分の発言のツケが回ってきたかと冷や汗が流れ続けている訳で。未来を知っているという利用価値がいきなり薄れそうなのだから。


「アインルーガのやつ…ペラペラ話しやがって。人の夢なんざ口出して面白いか?」

「面白い面白くない以前に…いきなり変わったんですわね、という純粋な興味ですわ」

「変わってねえよ」


レオニダスはようやく落ち着いて息を吐く。


「アインルーガを護るという前提は変わってねえ」

「…確かに、そうですわね」


確かにそうなのだけど。これは…大々的な変換点になるかもしれない。レオニダスは隠し攻略キャラであり、メインストーリーにとことん絡んでいた。この変換点がどう影響してくるか…悩ましい事が増えてしまった。

だがアインルーガ様に忠義を尽くす同士としては喜ばしい事なのだろう。




ふと見れば、サイドチェストに私が聖夜祭用に選んだオルゴールが置かれている。


「…あれ、使ってくれてますのね」

「お前が選んだ事以外はいい品だからな」

「私が選んだから、と言って欲しいですわ。箱は開きました?」

「?、中は装飾だけだろ?」

「あら、じゃあ気付いてないんですわね」


貸してと言えば素直に差し出してくれたので箱を閉じてゼンマイを回す。回らなくなるほど巻き切って離せば、オルゴール独特の弁を弾く音が響く。

それをテーブルの上に置き装飾を撫でてから箱の蓋を開く。


「…!」

「ゼンマイを巻き切って装飾を撫で箱を開いておけば…いつでも楽しめます」


魔法道具によるカラクリ仕立てであるオルゴールは天井へと光を放っている。無数の煌めきが広がるそこは、正に満天の星空を映し出していた。

雑貨店のお婆さんが教えてくれた仕掛けで、この箱はカラクリ箱なのだ。魔法的な仕掛けではなく技術のみで造られた純正のカラクリが仕込まれている。魔法ならば造詣が深いレオニダスも技術のみの物は知らないらしい。


「今は明るいですからそう目立ちませんが…夜に見ると迫力ありますわよ」

「へえ…」


カラクリの仕掛けなどを話していれば、日も暮れていくのだった。













「けほっこほっ!」

「ミレイユ!」


寝台へと横たわり激しく咳き込むミレイユの顔色は土気色と言えるほど色味がなく、呼吸は荒く表情は苦しげに歪められている。

サイドチェアに居たロンギヌスはミレイユの手を取り、見上げる目を合わせた。


「ロンギヌス…さま…」

「ミレイユ、俺はここにいるぞ」

「暗くて…冷たいの…たす、け…」

「くそっ…!」


ロンギヌスは側で魔法を唱える皇室付きの医務官を睨みつける。


「本当に父様は闇の魔力を消し去ったのか!?」

「陛下の魔法は完璧です、闇は…」

「ならば何故ミレイユはこんなに苦しんでいる!」

「闇の魔法は魂へと侵食します、ミレイユ嬢はフラッシュバックを起こしていて、」

「くそっ!!」


ロンギヌスは光の魔力をミレイユと注ぎ込み、ほんの少しだが表情が和らぐ。

医務官が顔を歪めているのを見る事はなかった。






「…はあ…」


医務官は医療用のゴム手袋とマスクを外し、ゴミ箱へと叩きつけるように捨てた。

その荒々しさを見て同僚らしい男性が声をかける。


「ロンギヌス様を諌める役目、ご苦労さん」

「ふざけんなよ…あの皇太子様、こっちの話を聞きゃしねえ。何度同じ質問してくるか」

「二言目にはミレイユは〜ってうるさいもんなあ」

「ここ数日で聴覚が弱くなった気がするぜ」

「ははは!」


医務官2人はゲラゲラと笑いながら帰り支度をしていると、扉がノックされる音が響く。


「誰だ?」

「俺が出るよ」


同僚の男性が扉を開き、



「え」

「なん…」





廊下から濁流のように溢れた暗黒に包まれた。











「皇室も簡単だなあ、容易く侵入出来た」

「来てみれば随分と人同士の諍いが起きてるじゃないか」

「帝国も弱ったものだ」

「もう種は撒いてある」

「さあ、始めるぞ」




闇はすぐ其所に在る(シャルーア・ダウラ)

「「「我らと共に(ユガ・ダウラ)」」」





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