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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
81/125

【1】第八幕:卒業の季節に。





「さて…何から話そうか」


遂にこの時が来てしまったか、と思う。

でもこの話は絶対に必要な事だろう。私にも、アインルーガ様にも。








学園夜会が終わった後、私は皇城へと招かれていた。いや、保護と言えばいいだろうか。

そしてレオニダスとミレイユ嬢も同じく保護されていたが、各々バラバラに行動し保護したと悟られないようにやってきた。


もう分かっていた事だが…闇の魔力が2人から検出された。私からも残滓に近いレベルだったが検出され、3人は皇帝陛下へと拝謁した。

拝謁というより闇の魔力を取り除くために皇帝陛下のお力が必要だったのだ。皇帝陛下は光の魔法を使い、3人に巣食っていた闇の魔力を消し去った。

光の魔力は皇族の方々が代々適性を持ちやすい魔力なのだが、他にもいない訳ではなく他にも光魔法使いは極少数ではあるものの存在している。しかしその魔力の強さで言えば皇帝陛下はダントツだ。

アインルーガ様もだからこそ皇城に来るよう言ったのだろう。


レオニダスはとにかく、ミレイユ嬢は酷い状況だった。たった半日近く闇の魔力に侵食されていた影響で完璧にノイローゼになっていたのだ。経験した側から言うと確かにそうなってもしょうがないと思う。心の奥から湧いてくる自己否定、自己嫌悪は心を病み、元々弱気であった彼女には多大な負荷になっていたのだろう。

今彼女はロンギヌス様に付き添われ皇城にて療養しているが、具合は良くないらしい。私も一度見舞いに行ったのだが、面会すら出来なかった。


私やレオニダスは、闇の魔力の調査に協力する形で皇城に残っていた。お父様やお母様、ガルフィースも面会に訪れ、使用人もいたし何不自由する事もなかったのだが、まもなく年末が近い。

年末年始は皇族の方々はもちろん皇城全体が忙しく、襲撃された事を鑑み護衛をつけて2人は解放…という話が出た矢先。


私はアインルーガ様に呼ばれて皇城の一室に来ていた。









「ようこそ、メイルーン」

「お呼び立てて頂きありがとうございます、アインルーガ様」


皇城の一室、至る所に黄金に輝く調度品が飾られた応接間だろうか。案内されれば広いベランダのテラススペースにお茶やお菓子の用意がされており、いかにも皇室といった豪華な数々が並べられていた。

座ると完璧に把握されている私好みの紅茶がメイドの方によって淹れられていた。無駄のない動きにどこか機械らしさすら感じてしまうが心がない訳ではない。私がお礼を言うとどこかメイド達がほんの少しだが騒ついたのが分かった。

最近この反応がシドレ家でもあった気がする。その時もそうなのだが最近周りの方々が慣れて来たので、ああそういえばメイルーンは去年まで…と今になって思う。

逆に言ってしまえば、変わった私が周りの方々に完全に受け入れられている証拠だと思うのだけれど。


「ふふ、さすが皇城御用達…素晴らしい紅茶ですわ」

「それは良かった」


ミルクやレモン、他の何も淹れずに茶葉の旨味だけが口に広がって、途轍もなく幸せな味だ。お菓子も種類が様々用意され見ているだけで楽しめてしまう。


「最近は大人相手に話す事も多くてな…こんなに穏やかなのは久々な気がする」

「今、皇城は様々な方々がいらっしゃいますものね」

「聖夜祭が終わったおかげでまだマシだが、少し前はこれより人が多くてな…」




しばらくは他愛もないお喋りが続いたがいつの間にか、テラススペースには私とアインルーガ様しか居なくなっていた。メイドの方々は姿も見えず、応接室にはカーテンが引かれ見えないようになっているから、そこに待機しているのかも。

アインルーガ様が夜会の時にも使った魔法道具をテーブルの上に置き起動し、周りに魔法障壁なものが浮かび上がって消えた。

そして…冒頭のセリフである。






「確かに…改まってとなると、色々話したい事がございますね」


苦笑いしてしまうがアインルーガ様も同意であるらしく、同じく笑った。


「では、」

「先に、よろしいでしょうか」


アインルーガ様の言葉を遮れば、良いという風に頷かれた。


「私は誰かと…お聞きになられましたよね」

「ああ」

「アインルーガ様は何者だと思っていますか?」


アインルーガ様の目を真っ直ぐ見つめる。少し考え、切り出した。


「…まず、貴族ではないだろう。君の立ち振る舞いは公爵令嬢であり幼い事から誰も口出ししないだけで不可解な事が多過ぎる。分野によって教養の差が広すぎる」


確かに、ゲーム本編の知識から引っ張り出してきた魔法や学園の知識に関してはそこら辺の人間より詳しい自信はある。高等部の校内図と初等部の校内図が若干違うせいで間違えたりしたが。

そして貴族的な観点。立ち振る舞い、マナー、礼儀作法や話術。これらは全て私が苦手とするものだったりする。メイルーンの地頭の良さで体裁を取り繕えているが、本来貴族令嬢とは調和を求めるもの。

不可解な相手の意見であっても礼儀を払い、自分の感情を抑制できる者こそ信頼される。

…でもそれらについてはゲームではかなり緩かったと思うのだが…。


「当たりだろうか」

「…取り繕っても、目で見えてしまっているのですから否定の意味はないですね」

「では次はこちらか。君は婚約の事をどう思っていた?率直に聞かせて欲しい」

()()()()ですか?」

「どちらも」

「メイルーンは、ただ国母となる事が…いえ、強大な権力を持つ事が目的でしたわ。

私は…正直、まだ良いとも悪いとも思ってません」


アインルーガ様の本当の人となりは1年しか見れていない。信頼に足る方だとは断言していいが、恋や愛を抱いている訳ではない。

…いや、恋愛を考える時点で私は貴族令嬢ではないのだろう。普通の令嬢ならば情より家の為に嫁ぐのだから。




「今度はこちらから失礼致します。

貴族ではないと仰いましたが、では平民であると?別人だとお考えですか?」

「いや、平民でもない。皆の大半は帝国民である事を誇りにするものだが…君は少し違うようだ」

「……」

「私は別人だと思っている。同一人物とするには余りに君は違い過ぎる」


帝国民である誇り…は、今のところ正直薄いと思う、指摘は正解だ。現代で生きていた私は民主主義であり貴族の習慣や価値観に全く合っていない。


「君は私との婚約が何故結ばれたか知っているか」

「はい、お母様と皇妃様の友情が故…ですわよね」

「そうだな。表はファクトヒルデ家の権力の拡大と言われているが、本当はそうだ…親同士の友情で、子の将来の一部を決めてしまっている。しかも恩恵を受けていたのはこちらばかりだ」


こう聞いていると、アインルーガ様も皇族の考え方ではないなと思う。アインルーガは情が深く、優しすぎる。平民出身の皇妃様の薫陶のおかげだろうが、現時点で唯一私と違う事は帝国民である事を誇りに思っている事だろうか。

故に民を思い、民と共に在ろうとする。


「だからこそ、今までのメイルーンとは違うのなら巻き込めない。これから皇室問題は更に苛烈となる」

「…それが、私との婚約破棄に至った理由ですの?」

「派閥争いや後継者問題…その矢頭立つのは同等の貴族同士となる。その時は…」


アインルーガ様は額に手を当てるようにして黙り込んだ。頭の中に最悪のパターンである政権戦争がよぎり、彼もそうなのだろうと思う。そして更に悪化した暁に待つのは…国を二分しての内戦、だろうか。






そして…今わかった。


アインルーガ様は【メイルーン】を嫌っていたと思っていたが違う。

アインルーガ様にとって彼女は帝国民の1人でしかなかったのだろう。自分が護るべきと定めた人々の内の1人であり、好き嫌い以前に特別な感情を抱く1人ではなかった。

でも良い人間と言ってくれたように【私】は友人になれたようだ。真摯に考えてくれるくらいには感情を持ってくれて、だからこそ婚約破棄したのだろう。


「っふふ…」

「どうした…?」

「いえ…アインルーガ様は身内に優し過ぎます」

「……」

「友人である【私】が皇室問題や権力闘争に巻き込まれる前に、逃してくれようとしているのですね」


母親同士の友情から発生した婚約話。そこから発生してしまった貴族の激しい争いに良い人間が巻き込まれないように。

今であればファクトヒルデ家の後ろ盾がなくとも、アインルーガ様や皇妃様を護る方々がいる。

レオニダスにはわがままと言ったそうだが…確かに私の意思も聞かず、自分1人で決めて実行した事だ。だがなんと尊く、優しいわがままだろうか。




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