【18】
「おい、メイルーン。アインルーガに言ったか?」
「レオニダスさん。ええ、この後アインルーガ様とお話するわ。…の、前にミレイユ嬢を捕まえなくちゃ」
浮かない顔だった彼女も、闇魔法の影響を受けている可能性が大いにある。そちらのケアをしてから、と思ったのだが。
「…ロンギヌスの側にいねえな?」
「え…まさか、もう帰ったんですの?」
確かにロンギヌス様達が集まっているところを見ればミレイユ嬢はいない。スレイヴ様がまだいるという事は帰ってないと思いたいのだが。
彼らに所在を聞きたくても、ロンギヌス様派閥が周りを固める状況で私がミレイユ嬢の事なんて聞いたら彼女の立場が危うくなりかねない。
「どうしようかしら…」
「まずはアインルーガに相談したら良いんじゃねえの、そしたら弟に言ってくれんだろ」
「メイルーン、レオニダスさん。もう帰ります?」
「ネアシェ、えっと…」
ネアシェはきょとんとしてこちらを見ている。彼女なら…と思ってしまうが、巻き込んでしまうのは忍びない。
だが、アインルーガ様を待たせる訳にもいかない。
「ネアシェ…お願いしてもいいです?」
「ええ、私に出来る事なら」
「その…ミレイユ嬢に用があるから、もし帰りそうだったら止めて欲しいの」
「そのくらいだったら任せて下さい」
「ちょっと席を外してしまうから…本当にごめんなさい!」
「ふふ、いいのよ。いってらっしゃい」
身勝手なお願いだと思うが、ネアシェは微笑んで受けてくれた。
再度お礼を言って私は休憩室の方に向かうが、レオニダスも付いてきた。
「何ですの?」
「俺も巻き込まれた人間だからな、同席するに決まってんだろ」
同席するのは別にいいのだが、一緒に行くと変な噂が立ちかねない…と思ったが、今更かと思い諦めた。
もう一緒に帰って来た時点で噂の対象だろう。
案内の方に聞いてアインルーガ様が待っている休憩室へとやってきた。偶然にも闇の眷属に襲われた部屋であったので迷いなくたどり着き、ノックすれば入室を許可され中にはアインルーガ様が座って待っていた。
レオニダスが共に来た事に若干驚いていたが、挨拶もそこそこに本題へと入る事にした。…のだが、アインルーガ様は一旦止めた。
装飾の飾りかと思っていた宝石は偽装された魔法道具であったらしく、魔力を込めて効果を発動させたようだ。
「防音の魔法道具か?」
「ああ、廊下に人の往来が多いのでな。
魔力は相当持っていかれるが、中々便利だぞ」
魔法道具には適性がなくても魔力さえ込めれば使えるものが多々ある。高額なためあまり普及はしていないのだが。
配慮に感謝しつつ、ソファに座って本題を切り出した。
「…本当に闇の眷属、だったのか?」
「はい、その…童話内の姿と酷似していただけで本当に闇魔法なのか確証はないんですが…」
「まあ、闇の眷属と言われて疑わないくらいには禍々しい形だったな」
「………」
アインルーガ様は腕を組み、何事か考えている。
昼間にミレイユ嬢と外套を纏った者に襲撃された事。先ほどレオニダスと共に襲撃され地下水路に飛ばされた事。
意外なのがこちらを疑うそぶりがないことだ。正直、妄言と取られてもしょうがない事を言っている自覚はあるから。
「…年明けには公表される事だからな…」
「?」
ポツリとアインルーガ様は呟き、こちらを見据えた。
「実は今、外部から帝国に闇の魔法使いが侵入していると予測されている。それも複数な」
「!!」
「!?」
闇の魔法使いが帝国内に。そんな事が公表されれば、国民は相当混乱するだろう。
なにせひと昔前には闇魔法使いによる誘拐殺人など凶悪事件が起き、大量虐殺なども起きてしまった事があるからだ。村が1つ滅んだとか、関わった人間全員の気が狂ったとか。他にも逸話はまだまだある。
その影響もあって禁忌とされ厳しく取り締まった事により、闇魔法使いは投獄や国外追放などされたらしい。
平民やスラムに住む貧民の中には適性検査を受けれない場合もあり闇の属性持ちがいると噂されているが、外部からとなると話は違って来る。
「外部からとされる理由はありますの?」
「…判明したのは最近だが。
今年の春から続く問題…林間学習の巨大魚、魔法競技大会での巨大火トカゲ、先日の水の汚染問題。それら全てが闇魔法の影響である、という意見がある」
「「!!」」
疑いが出たのは魔法競技大会の魔物からだという。
大会で対応した人間より異質な魔力の侵食を確認し、更に調べれば林間学習で対応した人間からも異質な魔力の侵食を確認、調査に乗り出した。
「では私達が話していた、魔物から感じた寒々しい魔力って…」
「恐らく闇の魔力だろうな」
「それを対応した人間って、もしかしなくても」
「個人情報保護の観点から明確に提示されていないが、リンドウ先生とレイサ先生ではないかと思う」
その人間に対する光魔法の効果が実証されたため、闇魔法であると推察された。そして決定打は帝都の水質汚染であり、地下水路に出現した魔物は組織立った術式の発動痕があり、それを見つけたのはお父様だというのだから驚きだ。
「そして判明が遅くなった理由でもあるのだが…これらの闇魔法は全て、帝国で把握されている術式ではなかった」
「それって、王国から…か?」
「分からない。だが父様はそう予測しているな」
王国。
帝国の宿敵とも言える国であり、歴史上何度も戦争を起こしている。
予測しているみたいだが大成功だと言いたい。ゲーム本編のメイルーンを唆したのは王国なのだから。その辺りの設定は特に触れられないまま終わるのだ、一作目は。
「なのでお前達を襲ったのが闇の眷属だとしたら、偶然とは思えない。
襲撃されたお前達とミレイユ嬢は皇城で保護、検査を受けた方がいい」
「恐らく私はもう大丈夫だと思うのですが…」
「発症するまで1ヶ月以上あったレイサ先生のような例もある、光魔法なら対抗出来るはずだから来てくれ」
「光魔法ならって…お前でも出来るのか?」
「いや、私はまだ修練中の身だ。もし強い闇魔法だった場合、逆に飲み込まれる危険性がある」
アインルーガ様は光属性の適性は高い分近くに闇の魔力があれば気付いたはず…なのだが。私に闇の魔力が混ざっていた事に気付いていなかった。
それというのも、人間などの複数の魔力が入り混じった存在だと闇の魔力が混じっても相当分かり辛いらしい。
魔物のような単なる魔力が集まった存在であった場合闇の魔力が混ざればまだ分かり易いらしいのだが、それも距離が離れると把握出来なくなるという。
「とりあえず、皇城に行くしかないか」
「ああ、馬車の手配をするから、そのまま待っていてくれ。ミレイユ嬢もロンギヌスに聞いて来よう」
「そんな、アインルーガ様の手を煩わせる訳には…」
「いいから、休んでいるように」
私が行こうとしたら、アインルーガ様は反論を許さずに部屋から出て行ってしまった。レオニダスと残され、私も諦めてソファに座りなおす。
「…心配してんだろ、あれでも」
「心配?」
「禁忌とされてる闇魔法に侵食されてるかもって思ったらな。まあ、素直に甘えとけばいいんだよ」
「ふう、そうは言いますけど…って、あら…」
「?」
先ほどは気づかなかったが、レオニダスの荷物から見えた包装紙に見覚えがある。
「何だよ?」
「それ…私が選んだプレゼントですわ」
「は、マジか」
薄く青がかった白く高級感のある包み。深い青色のリボンで彩られたそれは、私が雑貨店で頼んだオルゴールを包んだもので間違いない。
「何選んだんだよ?」
「秘密ですわ。乱暴に扱わないようにしてください」
レオニダスはふーんとだけ呟きプレゼントを荷物にしまった。中身をバラした方が嫌がらせになったかもしれないと思ったが、老夫婦の手間を無下にしてしまう気がしたのでやめた。せいぜい秘密のギミックに驚くといいわ。
こうして、5年生の学園夜会は波乱の展開で幕を閉じた。
闇との戦いは、これからが本番だと私は知っている。




