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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
79/125

【17】





「あ…」

「どうした?」

「外、雪が降って来ました」


窓の外にちらつく白い結晶。イルミネーションの煌めきも合わせて、夜の暗闇に不思議な灯りを灯している。

ホワイトクリスマス…こちらにクリスマスという単語はないけれど、思わず懐かしくなる。


「…これ飲んだら戻るけど、お前はどうする?」

「私も戻ります」

「良いのかよ、ダンスまだ終わってねえぞ?」

「はい、もう大丈夫です」


例えアインルーガ様に思う所や負い目はあっても、逃げていては何も始まらない。アインルーガ様は真摯に向き合えば真摯に返してくれる方だ。

それを再認識出来たし…1人で抱え込むとロクな事にならないらしいから、もう少し頼っていきたいとも思う。













「メイルーン!良かった…突然いなくなってしまって、驚きました」

「ごめんなさい、ネアシェ」


会場へと戻ればネアシェが駆け寄って来てくれた。申し訳なく思いながらも、友人の存在に微笑んでしまう。


「いいえ、元気なかったみたいなので…元に戻ったみたいで良かったです」

「…こちらこそありがとう、ネアシェ」


本当にネアシェで良かったと思う。何を言わず寄り添い、包む優しさを持っている彼女だから、私は甘えてしまうのだろう。

ネアシェは嬉しそうに笑い、こそっと耳元に話しかけてきた。


「レオニダスさんのおかげかしら?」

「ノーコメントとしますわ」

「あら!…うふふ、わかったわ」


にこにこしながらこちらを見るネアシェに居た堪れない気持ちを抱いてしまう。レオニダスと共に戻って来て私の様子が元に戻ったのだ、察するのも安易だろう。

見れば大勢がダンスに興じているが、もうまもなく終わりそうだ。見ているとアインルーガ様がちょうど令嬢と踊り終わり、こちらに気付いたようで別の令嬢達を断りながら寄って来た。




「メイルーン、いなかったようだが何かあったのか?」

「アインルーガ様…」


こちらを伺う目で周りの空気が止まったように感じたが、気にせずニコリと笑いかける。


「少々体調を崩してまして、もう治りましたので大丈夫ですわ」

「そうか…よかったら、一曲踊って貰えるだろうか?」

「もちろんです」


差し出された手を取れば、アインルーガ様は自然にフロアの中心へとエスコートしてくれた。

リードに従って手を合わせれば、ちょうど最後の曲だと宣言されてスピーカーから音が流れ始める。足を踏み出せば自然とステップを踏み、多分高等部生徒にも負けないであろうアインルーガ様の先導する動き…リードに身を任せる。

去年までは必死についていこうとしてリードに合わせられなかったが、アインルーガ様はダンスがお上手なのだ。彼のリードは私に合わせていて難しい訳ではない。


「…上手くなったな?」

「まだダンスに慣れてませんので、アインルーガ様のリードについて行っているだけですわ」

「そうか?」

「はい」


しばらく私たちの動向を見守っていた他の人達も踊り始め、最後の曲だからと勇気を出した男子達が多かったのか踊っている人数は先ほどより増えていた。

このざわめきなら、多少話していても聞こえないだろう。


「本当に大丈夫なのか?体調が悪ければ無理をする事はない」

「無理なんてしてませんわ。それに、最後かもしれないでしょう?」

「…そうかも、しれないな」


その時のアインルーガ様の顔は申し訳なさそうにも見えたし、悲しげにも見えた。…やはり、理由を聞きたくなってしまう。でも今は、それよりも優先すべき事がある。


「アインルーガ様、夜会が終わったらお話がありますわ」

「…お前の事に関してか?」

「そちらではなく…たしかに私も含んでいますが、今日とある出来事に巻き込まれまして」

「とある出来事…?」

「ここで話せませんが…とても重大な事です」

「…休憩室を借りておこう」

「ありがとうございます」


くるり、とターンして慌てずに腕を元の位置へ戻す。令嬢としての嗜みとしてダンスは当然習っているが、普段使わない筋肉を使うので意外と大変なのだ。

でもリードの上手い方が相手だと自分が上手くなったと思えるから楽しい。少し笑うと、アインルーガ様も少し安心したように笑ってくれた。

今だけは、この穏やかな時間を過ごしたい。たとえ数時間とはいえ自己否定し続けていた、ご褒美だと思っても良いだろう。





ダンスが終われば、次は在校生や先生方による出し物が行われた。芸を披露したりして盛り上がったのだが、特に高等部の先生方による早着替えならぬ早変身は盛り上がった。一瞬で性別はおろか種族さえ変えてしまう、水魔法による液体変化の応用らしいが…竜になった時は本当に驚いた。

その後はゲームが行われたりデザートの巨大ケーキが運ばれてきたりと、夜会自体は毎年の如く盛り上がっている。

ただ…ミレイユ嬢はうつむき、楽しげな素振りを全く見せずにいた。声もかけたいのだが、ロンギヌス様の側は周りに派閥の貴族が固めていて、その中心にいる。高等部の方もいるため中々威圧感があって近寄りづらい。ロンギヌス様の派閥は最近普通に接していたのに、上級生がいるとそうもいかないようだ。

まあ…家柄的に一番ロンギヌス様に近いはずのヤクト様は派閥関係なく女性に話しかけているので、尚更ピリピリするのかもしれない。




『さて、ケーキでお腹を満たした所で…学園夜会も、まもなく終わりとなるね』


拡声器から学園長の声が響き、ケーキを食べていた手を止める。


『今年の学園夜会はいかがだったかな?』


生徒達の拍手が言葉への返答だった。大きく響く音に学園長はにっこりと笑う。




『では、学園夜会最後のイベントだ』

「メイルーン、お皿を置いた方が良いのでは?」

「そうね」


テーブルへとお皿を置いて両手を空ける。これからが学園夜会のメインイベントなのだから。

学園長が光を灯すセフィロトツリーへと手を掲げ、魔法を唱える。






光よ巡れ、其れな(トゥールン・トゥー)るは人々の夢(ル・トゥリナ)




セフィロトツリーから溢れ出していた光が色とりどりの光に分かれ、やがてぬいぐるみの形になっていく。ぬいぐるみ達は次々にセフィロトツリーから離れて私達生徒の方へと向かって来る。いや、戻って来ると言っていいだろう。

そしてぬいぐるみ達はその光と共にプレゼントを持ってきてくれていた。


「あ、来たわ」


先ほどまでセフィロトツリーの一部だった青い光を灯した犬のぬいぐるみは、包みを手に持ち私の元へと戻ってきた。手元に来ると光だけふわりと浮いてセフィロトツリーへと戻っていき、光を失ったぬいぐるみとプレゼントは私の手の中へ落ちる。

プレゼントは正方形の箱に入っているようで丁寧にラッピングされているのだが、大きさに反して中々重い。


「メイルーン、プレゼントはどんなのです?」

「ちょっと外見だけでは分からないわね…結構重たいわ」


このプレゼントは、この学園の誰かが用意した物だ。私がプレゼントとしたオルゴールも、誰かの手に渡っているだろう。

学園夜会に参加する際必須となるプレゼントはこのタイミングでランダムにシャッフルされ、別の誰かの手に渡る。

ぬいぐるみは付属品扱いであるが、もしプレゼントがいわゆるハズレだった場合などの保険のようなものだ。


「ネアシェのプレゼントは…」

「これです。持ち帰るのが楽で良かった」


ネアシェの手にはぬいぐるみと筆箱くらいの大きさのプレゼントがあった。貴族がいるのでサイズの大きなプレゼントもあり、そうなると持ち帰るのが大変なのだ。

昔に一度だけ、大きな箱のプレゼントに潰されそうになった事がある。

私のプレゼントは振っても音もせず、匂いや魔力も感じない。


「わ、本当に重いですね」

「でしょう?」

『うん、みんなプレゼントは行き渡ったみたいだね』


ザワザワとした話し声を学園長の声が遮り、もしプレゼントが持ち帰れそうになかったら学園から届ける事が出来る旨を伝えた。


『これを持って、今年度の学園夜会を終了となる。

この一夜、青春の1ページになってくれたなら、これ以上の喜びはないよ。

みんな、気をつけて帰ってね』


全員が拍手し、それは学園長がいなくなるまで続いた。

学園長が学園の方へと姿を消せば、生徒達もわらわらと動き出す。帰る人が大半だが、馬車などの迎えがある貴族達は歓談を続けていた。




プレゼントをどうしよう、と考える。

この後、アインルーガ様に話をするし、結構重たいし…別邸に送ってもらおうと決める。

レイサ先生がいたので声をかければ、明日にでも届くと言われたので預かって貰った。





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