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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
73/125

【11】





「ーえ…ま」


「姉様!」

「…どうかした?ガルフィース」

「それはこちらの台詞です。近頃ぼうっとしてましたが…今日はもっと酷いですよ」

「あら、ごめんなさい…」

「……」


馬車にガルフィースと2人で揺られながら、聖夜祭の夜の灯りを見つめる。

ーーーイルミネーションみたいだわ。




「…姉様、ドレスがお似合いですね」

「本当?ナタリーが選んでくれたのよ」

「いつもと雰囲気が変わって見えます」

「あらありがとう、褒めてくれてるのよね?」

「…暗い顔も、雰囲気が違って見えます」

「……あら、ありがとう」


皮肉だったろうか。ガルフィースは俯いて黙ってしまった。

ナタリーが選んでくれたドレスにヒールがありつつも動きやすい靴。長い髪を活かしつつ結ってくれた髪の毛に、顔色が良く見えるメイク。どれもこれも渾身の出来ですとナタリーは言っていた。

けれど私の表情が晴れず、ナタリーやメイドのみんなはお休みになられた方が、と言ってくれた。

だが頑張ると言ってしまったし、両親やガルフィースのいない別邸にいるのは少し抵抗があったのだ。心配をかけてしまうかもしれないが、雑多な中に居られる方が精神衛生上良いと思った。




「着きました」


馬車が止まり、扉が開く。ガルフィースが先に降り、手を差し伸べてくれた。有り難くその手を支えに馬車から降りる。

学園を見れば、聖夜祭の飾り付けと共に宙に光が浮いていたりと、幻想的な光景を演出している。


「姉様、雪積もっているので気をつけて」

「ありがとう、大丈夫よ」


地面に若干の雪が積もっている。除雪はされているが滑るところもあるようだ。今日は雪が降る予定がなく、聖夜祭の夜は若干寂しくなりそうだ。

周りにいる人にジロジロ見られていて、何かと目を向けると視線を背けられた。一応目立つ姉弟という事は自覚している。


「ガルフィース、エスコートありがとう。早速中に入りましょう」

「…当たり前です。皇太子様がいなければ、私がエスコートしますよ」


談笑しながら門の中に入る。聖夜祭の夜は特別仕様であり、学園は姿形を変える。これは言葉の綾などではなく、パーティ会場である体育館はまるで皇城の一部かのように内部も外部も変わるのだ。

内部の大きさは、外部から見た数倍はある。まあ学園の全員が入るのだから1つの体育館では足りない。学園長の魔法で空間を拡張しているらしい。外部は豪華絢爛な装飾に煌びやかな飾り付けなど。

学校の教室なども部屋と化しており、休む事も出来るし個々人で利用する事も出来る。

学食の方を始め皇室のシェフや名家の使用人などが給仕をしているので対応も完璧だ。





「お、来たなぁ」

「リンドウ先生」


出欠を取っているらしいリンドウ先生の元に行けば、少しキョトンとされた。首を傾げれば、先生は少し笑った。


「んー…メイルーンにとってこの1年は、今までと違う1年になったみたいだなあ」

「違う1年…?」

「いんや、深い意味はねーよ。絡まれたら言えよー」


リンドウ先生の言葉には含みも何もなく、こちらも素直に受け取れた。ありがとうございますと挨拶して離れ、出欠を取って来るとガルフィースが離れた。




「メイルーン!」

「ネアシェ?」

「ああ、もう…綺麗です!さすが私の友人ですね」

「あ、ありがとう…ネアシェも可憐で美しいですわ」


ネアシェはふんわりと広がるドレスに、花をモチーフとした飾りやアクセサリーが良く似合っている。髪の毛に散りばめられた小さな花は派手になり過ぎず可憐で目立っていて、クリーム色の綺麗な髪に彩りを与えている。

グイグイと手を引かれて行き、ユゥイさんやララさんがいた。2人は驚き顔を赤らめる。


「凄くお似合いです…!」

「かっ、かわっ…!ううん、綺麗です!!」

「あ、ありがとう…」


もはやパーティの熱に浮かされているのか、3人ともテンションが高い。いや全然いいのだけれど、ちょっと圧が強い。

ユゥイさんはシンプルながらも素材の良さが引き立つドレスで、ララさんは借りたドレスらしいが可愛らしい彼女にピッタリの華やかなドレスだ。


「メイルーンはこういうドレスの方が似合うわ。去年までを否定するつもりはないけれど、あなたの美しさにはそれで正解だと思うの」

「はい、凛としながらも華やかで…とても輝いて見えます」

「メイルーン様の美しさを邪魔せず、むしろ引き立てていますね!」


3人はベタ褒めしてくれて、悪い気はしない。照れ臭いがメイルーンの素材の良さは私が一番良く知っているのだ。主人公と対立する立場であり美貌も武器にしていたから。

クラスメイトが次々に挨拶に訪れ互いに褒めたり近況を報告したりと、次々に人が行き来する。

わあっと歓声が上がったと思ったら、ロンギヌス様が現れたようで派閥の令嬢達は我先にと寄って行っていた。学園祭の時も皇后様と何か話していたが、婚約者がまだいないので格好の標的なのだ。

そのすぐ後、スレイヴ様にエスコートされているミレイユ嬢が入り口から入って来た。


「メイルーン様」

「ミレイユ嬢…顔色が悪いですわね」

「大丈夫、です…」


帰る最中にもし何か言わなければならない状況になったらはしゃぎ過ぎて疲れてしまった、と辻褄を合わせようと決めてはいる。しかしあの出来事に繋がる事をあまり口にしたくないというのが本音だろう。

まだまだ顔色が悪いが、スレイヴが側に控えている。ミレイユ嬢はロンギヌス様とスレイヴ様と共に来たらしく、ドレスはロンギヌス様から贈られた物があると一緒にいた時に言っていた。

ミレイユ嬢に似合うリボンやレースのフリルなどが散りばめられた可愛らしいドレスだ。


「言っておいて何だけれど、あまり無理しないで」

「ありがとうございます…でも、みんなと一緒にいる方が、気が紛れる気がして…メイルーン様もそうですよね?」

「ええ…そうね」

「やはり、2人で出かけた時何かあったのか?」


スレイヴ様の問いに私もミレイユ嬢も首を振る。


「少しはしゃぎ過ぎて疲れてしまっただけよ。ね、ミレイユ嬢」

「そうですね、メイルーン様」





話していると、また歓声が上がった。

今度はアインルーガ様が登場したのだ。その側にはレオニダスの姿もある。私がガルフィースのエスコートで現れた時から、こちらの派閥の令嬢達は浮き足立っていた。

特に関わるタイミングがなかった者は5年生になってからの不仲の噂は本当で、婚約破棄も間近だという噂を信じただろう。

いや、じきに噂ではなくなるのだ。

私をさし置き、アインルーガ様の周りに令嬢が集まる。ロンギヌス様の登場から時間も経っていないので、凄く人口密度が上がった気がする。


「メイルーン、いいんですか?」

「…ええ。体調も優れないし、近寄る事も出来ないわ」


近寄る事をしたくない、が正解。

だが避けては通れない事象であり、婚約破棄の前にアインルーガ様に聞きたい事もある。


「酷い目にあった」

「あら。ご機嫌麗しゅう、レオニダスさん」


令嬢達の隙間を縫って脱出したらしいレオニダスは、疲れたように息を吐いた。確かにあの人の波はくたびれるだろう、性別も相まって触れないようにする必要もあるし。

こちらを見て、レオニダスがキョトンとした。


「メイルーン、だよな」

「はい、そうですが」

「…いつもクッソ似合わない服着てたけど今年はまともだな」

「あら、毎年見てくださってましたの?光栄ですわ」


ちょっとイラッとしたけどにこやかに返す。そんな訳ないだろと彼は返して顔を背けてしまった。口元歪んでたかな。

レオニダスは装飾を散りばめ刺繍が高級感を引き立てるスーツ調の服装だ。ベストを着てジャケットの前を開けているラフな格好がレオニダスらしい。どうやらアインルーガ様が仕立て屋に頼んで強制的に着せられたらしく、作った人間のセンスは抜群だと言わざるを得ない。

そしてその服に決して見劣りしないレオニダスの顔の偏差値はやはり高いのだ。







そんな事をしている内に拡声器が宙に浮き、中心の大階段の上に学園長が現れた。

いつもと違うローブを纏い、パーティの華やかさに劣らない美丈夫である。


『間も無く、夜会パーティを始めさせて貰うよ。各学年出欠を報告し、ドリンクを持つように』


近くのウェイターからドリンクを貰う。細いワイングラスに入っているのは炭酸飲料だ。




「レオニダス、先に行くとは卑怯だぞ…」


アインルーガ様がリンドウ先生の元に行き、尚も寄って来ようとする令嬢から逃げるようにこちらに来た。


「あんな波に飲み込まれたら死ぬっての」

「何人かお前目当のもいただろう」


アインルーガ様は豪華でありながら品のある礼服を着ていた。宝石をあしらった装飾も多く目を惹くがアインルーガ様のご尊顔の威力は失われていない。むしろ宝石の数々が顔の美しさを引き立てていてアインルーガ様だからこそ着こなせるお召し物だ。

アインルーガ様とレオニダスが並ぶとそれだけで輝くようで目の保養になる。

ネアシェにこそっと耳打ちすれば同意されたので、全令嬢の総意ではないだろうか。






『皆さん、準備はいいかな?』


ザワザワとしていたフロアは静まり、飲み物を片手に学園長を見上げた。1つ咳払いをして学園長が続ける。




『今宵は身分、人種、運命を超え、全ての子らに平等に魔法(プレゼント)を分け与えよう。

聖夜祭の夜は、子供の味方である。存分に楽しんでくれ』



乾杯!という掛け声に合わせて、グラスを合わせる音が響いた。



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