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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
71/125

【9】



「ナ、ナタリー…?」

「はい、なんでしょうお嬢様?」

「ちょっと…多くないかな?」


目の前のドレッサールームには大量のドレスが並んでいる。全てここ最近着せ替えさせられたものだ。しかも最先端の流行らしく、形だったり色だったりは似通っているので正直違いがわからない。




今日は聖夜祭、そして夜には学園夜会がある。

学園夜会に着ていくドレスを選んでいるのだが、別邸に来た数日前から考えているのに決まっていないのだ。






「この間見た時と丸っきり景色が違うのだけど、これ全部新作よね?まさかこんなに買ったの?」

「ええっ!ですが、お嬢様はパーティではいつも最先端の流行のドレスをと…」

「ああ…」


思わず気の抜けた声も出る。公爵!というか貴族!スケールが違う!

メイルーンはパーティがあるたび、メイドに流行のドレスをこのドレッサールームが埋まるほど用意しなさいと命令していた。そして前のドレスは全て破棄せよ、と…今になって頭の痛い事実が突きつけられる。しかもドレスだけじゃなく…アクセサリーや靴もだ。


「…ナタリー、ありがとう。でも、もうこんなに多くなくていいよ?」

「えっ!?」

「似通った物も多いし。私に似合いそうにないものもあるし…」


人には人に合う服がある。それはドレスも同じで、メイルーンは可愛いピンクとかオレンジはあまり似合わない。色合いの関係もあるけど。

あと可愛いリボンとか装飾も似合わない。メイルーンの顔立ちは幼いながらもキリッとした美人系で、可愛い装飾などはむしろ顔との違和感が生まれてしまう気がする。

でもいつも着ているシンプルな寝巻などはセンスいいから、ナタリーの目は確かなのだろう。


「そうね…流行は抑えつつ、ナタリーが似合うと思うドレスがいいな」

「わ、わ、私がですか!!?」

「うん」


正直、私にドレスに対する知識は少ないし決められない。今まで私が言ったものを持ってくるだけだったナタリーはあわあわと狼狽えていたが、すぐに切り替えたらしくドレスの中へと飛び込んでいく。

戻ってきた手には、1着のドレス。


「こちらはいかがでしょう?」

「わあ…綺麗」


青と水色、寒色系だが白のアクセントで冷たい印象は与えない。

ちなみに今の流行はレース多めらしいのだが、インナーのスカートにはレースをちりばめていて、キラキラと輝く糸が使われているから歩くたびに揺れて綺麗だ。


「その…いつもお嬢様が着ているドレスより地味ですが、使われている素材や技術は引けを取らず、流行も取り入れてまして!」

「うん、凄い良い!」

「!」


布地も刺繍もその滑らかさや煌めきから一流の素材なのは分かる。刺繍はとても凝っていて精密だ。

ナタリーは安心したように笑顔になり、私もこれがいいと決める。

靴やアクセサリーも決め、試着してみた。




「お嬢様…素敵です…!」


ナタリーは感動したように呟き、私も鏡の前で回ったりして見てみる。

メイルーンは幼いながらに蒼薔薇と称されるだけあってかなり美しい。そして薔薇の名に相応しくと煌びやかさを追求していた。でも私の薔薇のイメージは違う。

煌びやかながら品があって、棘があっても凛と美しい。

そもそも青い薔薇の花言葉は【夢かなう、奇跡、神の祝福】など、神秘的な言葉なのだ。


「うん、これでいこうかな?」

「はい!派手ではありませんが品があって、とっても素敵です!お化粧や御髪も、合わせて考えておきますね!」

「よろしくね!」


現代の私にとっては初めてのパーティで、少し浮かれているのはわかっている。だが学園のパーティでただ騒ぐだけの場だ、気負うものもないから楽に過ごせる。




「ですがお嬢様、本当によろしいのですか?皇太子殿下と合わせなくて…」

「ええ、いいのよ」


メイルーンは皇太子の婚約者であり、毎年度学園夜会ではエスコートさせていた。ドレスも色合いを考えて指定したりと社交パーティでもないのにそのルールを強要していたのだから、今年からは自由に楽しんで欲しい。

ドレスを一度脱いで、普通の服に着替える。




「って、こんな時間!

ナタリー、じゃあ後はよろしくね!」

「時間に余裕を持ってお帰り下さいね!」

「わかったわ!」


バタバタと準備をし、別邸から飛び出る。

使用人の方々は驚いていたが気をつけて下さい!と声をかけてくれた。

どうやら別邸のみんなも、少しずつではあるが私の変化を受け入れ始めてくれたようだ。







聖夜祭で賑わう帝都。各領地から貴族や平民などが集まっているようで、いつもの倍の人数がいるようにすら感じた。

ぶつかりそうになりながら馬車を使わなくて正解だと思った。聖夜祭中は混雑するため、馬車の使用は推奨されていないのだ。公爵家の家紋が入った馬車ならば優先通行出来るのだが、物凄く目立つ。

一際大きな通りを進み、初代皇帝陛下の像がある広場へと出た。皇城への道に繋がっているため混雑してはいるが軍人達も多い。

待ち合わせ場所を見ればもう待ち人がいた。




「ミレイユ嬢、待たせてしまったかしら?」

「い、いえ!今来た所です!」


防寒具に身を包んだミレイユ嬢。こちらを見て嬉しそうに微笑む。

ミレイユ嬢の生家、アーバハン家は帝都に別邸を持っておらず、邸宅が帝都から遠いのも相まって聖夜祭の前から年始までの数日間だけ宿泊施設に泊まるらしい。


先日テストが終わった後に相談したいと言っていたミレイユ嬢。その内容はプレゼントを買いたいとの事だった。私達がプレゼントを買いに行った時一緒に行きたかったらしいのだが、ロンギヌス様との約束があったらしい。

それなら、と聖夜祭の日にプレゼントを買いにいく事にしたのだ。ミレイユ嬢はあまり帝都を見た事がないらしく観光も出来るし、一石二鳥だ。







「見えるかしら、あれが皇城よ。長い列が出来ているでしょう?」

「本当ですね、あれは…」


この広場の事、皇城の事。学園の方へ繋がる道。美味しいクレープ屋さん。

下町についてはそこそこ知っているようなので、あの雑貨店を目指して進んだ。

下町も聖夜祭に合わせて飾ってあり、シンプルな街並みも今は華やいでいる。

ネアシェ達と行った雑貨店も賑わっていた。老夫婦は私を覚えていたようで、いらっしゃいと迎えてくれた。


「何にしますの?」

「ひ、秘密ですっ」


コソコソとミレイユ嬢が買っていたので覗けば隠された。確かにプレゼント交換で私の元に来る可能性がない訳ではない。

包装を待つ間、様々な雑貨を見て回った。特にアクセサリーの種類の豊富さは、時間を忘れて見てしまうほどだ。






「メイルーン様、あちらはどこに繋がっているのですか?」

「ああ、あちらは…スラムですわ。貧民街とも呼ばれますわね」


帰り道、ミレイユ嬢を送っていく途中にある、薄暗い路地。見る人が見れば行ってはいけないとわかるだろうが、ミレイユ嬢は思わず聞いてしまったようだ。


「すらむ…ひんみんがい…」

「…お家を持てない人などが、集まっているのですわ」

「帝都にはそんな所があるのですね」

「帝都だからこそ、ですわ」


帝都には産業廃棄物、生活している上で出るゴミなどがごまんとある。それを目的として住む…いや、そこに居る人達だ。

今は聖夜祭で賑わっているため目のつく所にはいないが、普段歩いているのを見かける事もある。


「今は帝都が賑わっていますから大丈夫ですけれど、基本近寄らないほうがいいですわ。盗難などもありますから…」

「はい…わかりました」


もっと凄惨な事件もあるのだが、彼女に教える必要はないだろう。






ヒュンッ


「え…?」


風の切る音が聞こえた。










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