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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
66/125

【4】



ネアシェが帝都で滞在する別邸は草木に覆われていて、雪が積もっていなければもっと色とりどりであっただろう。

けれど規模はファクトヒルデの別邸に負けず劣らず、土地の広さは確実に上だった。

シドレ家は四大貴族の中で1番長く存続しており、その歴史も長いのだから当たり前なのだけど。




「ただいま戻りました」

「お帰りなさいませ、お嬢様……っ!?」


門前に立っていた軍服を着込んだ方が、ネアシェを見て柔らかい顔で迎えたので仲は良好なようだ。

その後私を見て目を見開いて絶句したのは申し訳ない。


「メイルーン・ウンディーネ・ファクトヒルデです」

「お迎えが来るまで一緒に待つからよろしくね」


門兵は口を開閉し、言葉が出てこないようだ。

迎えを頼んだカフェには言伝をお願いしたが、聞いてこの人と同じ反応をするだろうなあと思う。スタスタと邸宅に向かうネアシェの後を一礼してから追った。

動揺しながらもついてきてくれて邸宅の扉を開ければ、広い空間が広がっていた。


「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ただいま、爺や」

「おや…」

「始めまして、メイルーン・ウンディーネ・ファクトヒルデです。突然のご訪問をお許し下さい」

「やはり、ファクトヒルデ家のお嬢様でしたか。ようこそ、シドレ家へ」


初老くらいの方が燕尾服を着て迎えてくれた。爺やと言っているから、使用人の方みたいだ。

少し目を開いたが、すぐにニコリと微笑んで挨拶してくれてちょっとの事では動揺しないようだ。


「なるほど、噂通りの美しいお嬢様ですな。お2人並ぶと華やぎます」

「ふふ、恐縮ですけれど嬉しいですわ」

「もう、爺やったら。温かい飲み物を温室に持ってきてくれる?」

「かしこまりました」

「行きましょう、メイルーン」

「ええ、お邪魔しますわ」




屋敷内を歩いていると驚いて見られるのだが、すぐに一礼して仕事へと戻っていた。

やはり公爵家の使用人達は動きに無駄がなく、よく教育されているようだ。

案内された先は温室で、邸宅から直接繋がっているらしい。

磨かれたガラス越しに見える風景は雪景色なのだが、温室内は四季折々の草花が咲き乱れていた。


「メイルーン、こちらへどうぞ」

「ありがとう、ネアシェ」


その中央辺りには豪華なテーブルとイスがあり、上着などの防寒具を脱ぐ。ランタンのような魔法道具をテーブルに置くと、ほんのりと温かい。


「凄いわね、少し見ただけで色んな種類があるのが分かるわ」

「そして、これよ」


ネアシェの手には、草花図鑑があった。春のエリアから順番になっているようで温室内を見て行く。





「綺麗な色…見た事ないわ」

「それはレクセンチアっていう花よ」


形はラベンダーに似ているが見た事ない花で、色も淡いオレンジ色をしていて可愛らしい。


「レクセンチア…聞いた事ないかも」

「シドレ家の領地に群生地があってね、他の方々にはあんまり馴染みがないかも」

「…あら、そういえば」

「思い出した?夏期休暇中に送った写真にこの花があったのだけれど」

「でもこれって春の花なのよね?」

「レクセンチアは四季によって色を変えるの、春はオレンジ、夏は水色、といった形にね」


四季によって形や色を変える草花はあるが、珍しい部類になる。シドレ家が出荷しているみたいなので更に珍しいだろう。


「お嬢様、お茶とお菓子の準備が出来ました」

「ありがとう、爺や。メイルーン、どうします?」

「せっかく用意して下さったんですもの、頂くわ」


先ほどの場所に戻ると、温かな飲み物と豪華なお菓子がメイド達によって用意されていた。いきなりであったのにこれほどの準備が出来るのは、さすが公爵家といったところか。


「ごめんなさい、いきなり来てしまったのに…」

「引っ張って来たのは私だもの。ありがとうね、みんな」

「とんでもございません」

「これが我らの仕事でございますから」


メイドさんが手伝ってくれて、イスへと腰掛ける。テキパキと準備をし、紅茶を注いでくれて良い香りが漂う。我が家の紅茶にも負けない、とても良い茶葉のようだ。

ネアシェは使用人の方々と仲が良いらしく、親しげに話していた。


「ありがたく頂きます」

「はい、どうぞ召し上がって下さい」


少し飲めばまろやかで美味しい紅茶が喉をスルリと通っていった。熱すぎずぬるすぎずちょうど良い温度で、味は勿論体の中から温まるようだ。


「とても美味しい。体の芯から温まるわ」

「良かった、流石に雪の中を歩きましたからね」

「楽しかったけれど、冷えてしまうものね」


美味しい紅茶とお菓子を嗜みながら、席から見える草花について話していると入口から声が響いた。


「おねーさま!」

「おねーさまー!」

「あら?」

「全くもう…」


2人の子ども達がこちらに走って来ていた。ネアシェがため息を吐いたので、どうやら弟妹たちのようだ。

確かシドレ家の1番下は双子だったか、と思っているとネアシェが2人を抱き止め、少し怒っていた。


「来客中だと止められたでしょう?ダメじゃない。大声まで出してしまって…」

「「だってー!」」


2人の子どもはそっくりだ。男の子と女の子だが服の色が違わなければ一目で分からないだろう。


「ほら、挨拶出来るわね?」

「えー?」

「ふふ、始めまして」


席から立って、しゃがみこんで目線を合わせる。2人とも、ぱあっと花が咲くように笑ってくれた。


「リマだよ!」

「テマなの!」

「こら、もう…ごめんなさい、メイルーン。まだマナー教育が十分じゃなくて…」

「いいのよ、可愛らしいわ」

「ねえねえ、おねーさん!かみのけきらきらね!きれいね!」

「髪の毛?」


2人は私の銀髪が珍しいようだ。銀髪自体は珍しくないのだが、青みがかったのがキラキラして見えるらしい。


「おねーさまのおともだち?」

「ええ、一緒のクラスなのよ」

「がくえん!」

「あのね、リマとテマもがくえんいくんだよ!」

「あら、来年入学するのね」

「ええ、ちょっとお母様は心配してたけれどね」


恐らく魔法競技大会での出来事だろう。

2人は無邪気にネアシェと話し始め、私もガルフィースの小さい頃を思い出そうとするが、メイルーンの企みも思い出してしまったためやめた。


「おねーさま、わたしたちもおはなみる!」

「後でね?今は…」

「大丈夫よ、ネアシェ?一緒に観賞したほうが楽しいわ」

「やったー!ありがとうおねーさん!」


妹のテマちゃんがぎゅうと抱きついてきたので、頭を撫でてあげればにこにこと太陽のような笑顔を見せてくれた。

そしてこっち!と連れられた所には、2つだけプランターが置かれていた。周りには子どもようのジョウロやスコップが置いてあって他のところと少し違うようだ。


「これね、リマとテマのおはな!」

「え?2人が植えたの?」

「うん!そのうちね、きれいなおはなさくんだよ!」

「テマ、ずるいぞ!」


ネアシェと弟のリマくんがこちらに来て、ネアシェと2人で苦笑する。


「ほら、リマ、テマ。今日はお水あげないの?」

「「あげるー!」」


おみずー!と2人とも言ってジョウロを持って行ってしまった。子どもならではなのだが元気いっぱいで、思わず微笑んでしまう。


「全く、花を見ながらゆっくりしようと思ったのに…ごめんなさいね?」

「良かったらだけど…また今度、ゆっくり見てみたいわ」

「…ふふ、勿論よ」


またこの温室に来るという事は、また遊びに来るという事。今度はちゃんと連絡を入れて、手土産を持って来ようと決めた。

お水を汲みに行ったリマテマが戻ってきたのだが、その後ろに見た事がある人がいた。


「リバーレ様…!」

「…メイルーン嬢?」





リバーレ様はネアシェの兄であり、次期シドレ公爵家当主となる方だ。

会った事はないが、資料として知っていて向こうもその様子だ。制服のスカートを摘み、礼をして名乗る。


「リバーレ・ノーム・シドレだ。噂はかねがね聞いている」

「メイルーン・ウンディーネ・ファクトヒルデです。お会い出来て光栄ですわ」


ネアシェの兄君らしく、柔らかな雰囲気を持つ方で親しみを感じるが、お父様が褒めるほど優秀だと知っている。


「ご挨拶が遅れ申し訳ございません、本来であればこちらから出向く所を…」

「いや、今帰ってきたばかりだから。温室の方が賑やかだと思ったらこういう事だったんだね」

「「おかえりなさい、おにーさま!」」

「おかえりなさいませ、お兄様」

「ただいま」


リマくんとテマちゃんを軽々と持ち上げ、微笑む姿は理想的な兄のようだ。理想的、ではなく理想な兄か。






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