【3】
ユゥイさんが口を開く。
「最初の頃、メイルーン様がレオニダスくんと悪口の言い合いしてたじゃないですか」
「え、ええ…」
「今もしてるけど、みたいな顔してますよ?」
「ネアシェ!?」
くすくすと笑う彼女はどこまでも楽しそうだ。
「ふふ、その時身分とかじゃなく、魔法とか学力の比べ合いになってましたけど、いつも楽しそうでした」
「周りの令嬢の方々は忌避してましたけど…私達みたいな普通な人間は、完璧だったメイルーン様にも出来ない事はあるって…少し、嬉しかったんです」
楽しそう、の部分は否定しておきたいが、ユゥイさんとララさんは少し恥ずかしそうに続けた。
「メイルーン様も、完璧になるよう努力してるんだなって、私達と一緒なんだって」
「一緒…ですか?」
「学園はまだマシな方ですが、貴族と平民って、帝国では区別されますから…貴族の方は本来、高潔で優れた方と教えられます」
「今までの学園生活で私達と同じく笑い、悲しみ、喜び、怒って。同じく努力をしている姿に、みんな少しずつメイルーン様を通して貴族への苦手意識が薄くなっていってるんです」
今までの学園生活、メイルーンは努力していない。それが基礎レベルの問題の根本でもあるし、人間関係の問題でもあった。
「…私は、今までの高慢な性格を改めようと思っただけよ。それが親近感になってくれたなら嬉しいけれど…私だけの影響じゃないわ」
「いえ、学園祭の時に身分や派閥を関係なくチームを作ったじゃないですか。あの時、最初ギクシャクしていた人達に声をかけていた事、みーんな知ってますよ」
「い、いえそんな事は…」
「意見があれば聞き、良い提案であれば分け隔てなく採用してくれるんですもの。それはやる気出てしまいますわ」
人間なので褒められるのは嫌いではないが、いい加減居たたまれなくなる。
分かりましたから…と諦めれば、ネアシェが冷えた手を握ってくれた。
「ネアシェ?」
「…そんなメイルーンだから。クラスのみんな、感謝してますわ。何か悩みがあるのなら、相談して下さいね」
「!…ふふ。ありがとう」
ユゥイさんもララさんも、こちらを見て笑って頷いてくれる。どうやらネアシェは最近様子がおかしい事に焦れて、今日買い物に行こうと言ってくれたようだ。
2人も気にしてくれていて、示し合わせてくれたみたい。友人に恵まれている事を感謝しつつ、私も笑い返した。
「整理がついたら、良かったら聞いて欲しいわ」
「勿論よ」
「はい!」
「喜んで」
この、胸の中にあるモヤモヤした気持ち。
アインルーガ様に婚約破棄宣言されてからだが、その事が原因ではない。
原因ではあるのだが…破棄が悲しいのではない。
下町にある、古風ながらもオシャレな外観のお店。アクセサリーがたくさん並んでいるが、他にも小物などが置いてあって、雑貨店といった所か。
入店すれば、優しげな老夫婦がお店の奥で座っていた。
「いらっしゃい」
挨拶をすればにっこりと老夫婦は笑いごゆっくりどうぞと声をかけてくれた。お言葉に甘えてアクセサリーを見て回る。
シンプルなデザインから豪華なデザインまであり、お手頃な値段で並んでいて思わず目を奪われる。
正直、こういう友達と行くショッピングは大好きなのだ。
「お嬢さんたち、オルガンテ学園の学生さんかい?」
「はい、初等部5年生です」
「ほっほ、そんなに近くないのに、良く来てくれたね」
店主なのであろうお爺さんが声をかけてくれて、学園夜会の事を話せば嬉しそうに頷いて聞いていた。
学園からは近くないのだが、ネアシェの帝都での邸宅にはほど近いから知っていたのだろう。老夫婦は私達が貴族だとは知らないようだ。
「そうか、もうそんな季節だものなあ」
「はい、それでプレゼント用の品物が欲しくて…」
「そうかい、包装もしてるから色など考えておくんだよ」
お爺さんの気遣いに返事をして、プレゼント選びを再開した。
向こうも見てきますわ、と離れて雑貨の所に行く。魔法道具仕掛けのものもあるが、どれも綺麗に装飾されていて見た事ないものばかりだ。
「綺麗…」
手に取ったのは、オルゴール。
ゼンマイ式であり、現代でも見かけるような箱を開けると音が流れるタイプだ。
後ろから音がしたので見れば、お婆さんがにっこりと笑っていた。
「それが気にいったかい?」
「あ、はい。綺麗な装飾なのに特徴的で…見た事ないです」
「それは、箱だけ私の手作りなのよ」
「そうなんですか!?」
中の音が出る機構はさすがに手作りではないみたいだが、箱に施された装飾は光沢を放ち、宝石ではない石も煌めいているように見える。
「ゼンマイ式なのも珍しいですよね」
「あら、お嬢さん。ゼンマイ式なんて知ってるのね」
オルゴールはこの世界で一般的に魔法道具が主流だ。蓋を開けば中の魔石が回転し音が流れるタイプで、音が綺麗なのだが、魔石に込められた魔力がなくなれば鳴らなくなってしまう。
「あ、えっと、はい。見た事あるので…」
「魔法道具のオルゴールもいいのだけど、いつか鳴らなくなってしまうでしょう?
私はこのいつまでも巻けば鳴ってくれるゼンマイ式が好きなの」
「そうなんですね…」
「それに、音は綺麗なのだけどオルゴールという感じがしなくてね」
「何となく分かります」
ゼンマイが音と共に回る音。弁を弾く音すら、演奏される曲の一部な気がするのだ。
お婆さんは嬉しそうに微笑んで、オルゴールに手を伸ばした。
「実は仕掛けがあるのよ」
「え?」
こそっとお婆さんから耳打ちされて見てみて、まあ!と思わず声を出してしまった。
「素敵です、これにしますわ…!」
「ふふ、ありがとうねえ」
同じく包装も頼み、丁寧にラッピングしてもらってプレゼントは用意出来た。
ネアシェとユゥイさんも決まったみたいで、どんな物にしたのか互いに秘密にしておき、学園夜会の楽しみにする事にした。
プレゼントの入った紙袋を持って帰路に着く事になった。ユゥイさんとララさんに別れを告げ、使用人が迎えに来るまで待つ事にした。
「もう遅いですわね。ネアシェ、近いですし先に送って行きますわ」
「え?そんな事出来ませんよ。私が誘ったのに…」
「送ったら迎えに来るカフェであったまっていますから」
「…でしたら、我が家にいらっしゃいませんか?」
「えっ!?」
ネアシェは最近帝都にある邸宅に滞在していると聞いていたが、公爵令嬢が事前約束もなしに行くのは問題があるだろう。
「嫌ですか?」
「まさかそんな!でも今度…」
「もう暗くて危ないですから、1人にしたくないのです。見て頂きたい温室もありますし…行きましょう?」
「え、えっ?」
ぐいぐい手を引かれて、ネアシェの家に行く事になった。




