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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
64/125

【2】



「どうかされたのですか、姉様?」

「……」

「…ナタリー、どういう事?」

「その、先程からお声がけしてるのですが反応がなく…」

「……」

「素晴らしい集中といいますか、大丈夫ですかね…?」

「最近はこういった事が多く、私も公爵様に報告しようか迷っていまして」

「うーん、流石にこれは…」


あら、と活字を追うのを止める。


「ガルフィース、ナタリー。ごめんなさい、気づかなかったわ」

「姉様、やっとですか?私が入室してから結構時間が経っていますよ」

「あら…」


ひたすらに記憶帳を書いていて気付かなかった。見られてはいないみたいで、すぐに閉じた。


「もう誕生日も過ぎたんですから、しっかりして下さい」

「そうね…」


先日、誕生日を迎えて11歳になった。家で誕生日パーティを開いて祝ってもらったのが思い出される。


「聖夜祭の準備もまもなく始まりますが…大丈夫ですか?」

「ええ、平気よ。集中し過ぎて疲れたみたい」


聖夜祭。

年末の前にある、帝国の一大イベントだ。帝国の建国記念日に帝都中を使用してお祭りが開催される。

元々は建国記念祭と呼ばれていたがいつしか雪の降る季節であり恋人達のデートイベントとして聖夜祭として呼ばれ、聞こえの良さからか詳細な理由は分からないがこちらの方で呼ばれている。


「聖夜祭から年末年始にかけて、様々なイベントが続きます、無理しない方が…」

「学園祭で頑張ったから気が抜けちゃってるだけよ。心配しないで」

「お嬢様…何かございましたら直ぐにお申し付け下さいね?」

「うん、ありがとう」


色々と思考する事が多くて最近はこの書庫にこもりっぱなしだ。学園でもぼうっとする場面が増えていたしそろそろ切り替えなくては。

そしてこの聖夜祭こそ、ゲーム本編であれば最終恋愛イベントを発生させる場なのだ。








翌日、若干雪がちらつく中登校した。雪にテンションが上がった生徒達が走り回っているのを見て笑ってしまう。

学園内は冷暖房完備なので快適な温度が保たれているので、寒さを感じる事はない。教室に入って挨拶し、席で上着などを脱いで準備していればネアシェが来てくれた。


「メイルーン、学園夜会には参加しますか?」

「ええ、お父様に許可は貰ったわ」


学園夜会とは、聖夜祭の最中に学園主催で行われるパーティの事だ。

高等部から初等部まで全員が参加可能であり平民もいる事から社交マナーなど関係なくただ騒ぐための場所となっている。

そんな状況なので貴族などは参加をしない場合があるのだが、年々賑わうイベントである。


「ふふ、今年は楽しくなりそう」

「どうしてです?」

「だって、パーティと言いつつ…今まで諍いが起きてばかりだったじゃない?」

「確かに、今年は大丈夫だと思います」


大勢が一同に会するためトラブルが起きやすい。そしてそのトラブルとは皇室問題が元だったりするのだが、あまりにヒートアップすると先生方に外に放り出されたりする。


「プレゼントはもう選びました?」

「いえ、まだ…そういうネアシェは?」

「私もまだなんです。良かったら一緒にアクセサリー店に行きませんか?」

「本当?嬉しい!」


学園夜会では全員でプレゼント交換のイベントがあるのだ。金額は問われないのだが、参加した以上はプレゼントを持参しなければいけない。自作でも既製品でも、危険な物以外なら何でもいい。

人数が人数だけに流行した物があれば品物が被る事があるのはご愛嬌だ。


「ララさん、プレゼントは決まった?」

「あ、はい!手作りのキーホルダーを作ろうかと…」

「まあ、素敵!ユゥイさんは?」

「私は不器用なもので…アクセサリーを買おうかと」

「良かったらユゥイさんもアクセサリー店に行きませんか?」

「いいんですか?」

「勿論よ。ララさんも一緒にいかが?見てるだけでも楽しいわよね」

「えっ本当ですか!?でもキラキラしたお店、行くの恐縮しちゃいます…」

「私の行こうと思ってるアクセサリー店は貴族御用達の所じゃなくて、オシャレだけれど下町にあるから大丈夫よ」


ネアシェが店名を言えばララさんは知っていたらしく、庶民らしくも可愛いアクセサリーがたくさんあるらしい。

前から行きたかったのでぜひ、との事で今日の学園が終わったら一緒に行く事になった。





あはは、と笑い声が違う所から響き、ちらっとそちらを見た。

そこはアインルーガ様やレオニダスなど、男性陣が集まっている場所で楽しそうに話していた。

…アインルーガ様は、前より表情を出して下さるようになった。どこか吹っ切れたのかスッキリとした雰囲気は親しみ易さを増し、まるで年相応の男子のようにすら見えるのだ。

そしてそれはロンギヌス様も同じだ。今は派閥の方と話しているが、時々アインルーガ様と普通に話すようになったと、貴族社会に激震が走っている。

恐らく、ミレイユ嬢の変化がロンギヌス様の変化へと繋がったのだろう。ミレイユ嬢も申し訳なさそうな雰囲気は消え、友人となったのだろう令嬢と仲良く話している。


「メイルーン、どうかしました?」

「…いえ、雪が綺麗だと思って」

「このままだと積もりそうですね」

「綺麗ですけど、滑りそうですわ」

「……」


最近ぼうっとしやすい私に、ネアシェは気付いているようだ。だが無理に聞き出すような事はしてこない。そのネアシェの優しさに私は甘えているのだ。






「おはよーさん」

「おはようございます」


リンドウ先生が教室に入ってきて、また一日が始まる。もう慣れたものだが、それでも少しずつ変わっている。

確実にゲームとは違う道を描いているのだ。


「お前らにも言っておく。今まで休学していた皆は、年明けには退学となる。残念だが…」

「……」


皆が僅かにざわつく。半年もこの状態だったのだ、しょうがない事ではある。


「アイツらの中には通学を希望してた奴もいる。無理な詮索はしないように」










「残念でしたわね…クラスメイトが減るのは、初めてです」


放課後、話していたアクセサリー店へと向かっている。

馬車など使わずに徒歩で向かっているが、雪が積もっているのでゆっくりと進んでいると寒さをより一層感じる。


「そうですね…」

「少し聞いたんですが、学園祭なども参加出来なかったために尚更輪に入り辛くなった…と言っている子もいたとか」

「その辺りはその子次第になってしまいますからね…」


少し登校してみたものの、変化しているクラスに馴染めずまた休学した子もいた。戻って馴染んだ子もいる事から、ネアシェの言う通りその子次第ではあるのだ。


「もし退学になったら…来年度はどうなるのかしら」

「確かに、初等部で中途入学は珍しいですからね」


中等部や高等部は学力や素行の問題などから退学者が出やすいので、中途受験をほぼ毎年行っている。

初等部は退学者が少ないというかほぼいないに等しかったので、中途入学というのはあまり聞かない。


「でも今のクラスなら、新しい人が来ても仲良く出来る気がしますね」

「ええ…本当に、このクラスが始まった時からは考えられないくらい、平和です」

「どれもこれも、メイルーン様のおかげですね」

「……私?」


全く関係ないと聞いていれば、私の名前を呼ばれて3人を見る。3人は幸せそうに笑っていた。






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