【6】
お父様お母様とお茶することになったテラススペースへと来て、物凄い場面に遭遇してしまった。
「やあ、ファクトヒルデ公爵」
「皇帝陛下、ご機嫌麗しゅうございます」
皇帝陛下に皇后様と皇妃様…アインルーガ様にロンギヌス様という皇室揃い踏みなど、誰が想像しただろうか。
「ガ、ガルフィース…!?」
「完全に想定外ですよ…!」
ガルフィースとヒソヒソと話せば本当に偶然だったらしく、お父様と皇帝陛下は和やかに会話をし始めた。
でも確かに食堂周りに軍人がたくさんいると思ったが、皇帝陛下がいるなら当たり前だ。
そして皇后陛下の視線が、痛い…!
ファクトヒルデ家はアインルーガ様の婚約者を擁しており、何を隠そうお母様と皇妃様は同級生だったらしく、仲がいい。皇后様とは折り合いが悪いのだ。
「ファクトヒルデ公爵、クーメルも久しぶりね。会えて嬉しいわ」
「皇妃殿下、お久しぶりでございます」
「私もお会い出来て嬉しく思います。さあ、2人も」
お母様に習って挨拶すれば、微笑んでお返事をくれた。
皇妃様はとても美しい。アインルーガ様に受け継がれている金髪はさらさらと風に揺れて、失礼ではあるがまるで人形のようにすら見えてしまう。
幼さすら感じさせる可憐な容姿だが表情は穏やかで、どこか安心させる包容力がある。
「皇后陛下も、ご機嫌麗しゅう」
「ええ」
短く返事を返し、こちらを睨みつけたままの皇后様もとても美しい。
皇妃様とは違った魅力で、ロンギヌス様とそっくりなつり目は厳しく見られがちだが、はっきりくっきりとした顔立ちはまさしく美女だ。遠くからでも圧倒的な存在感を放っている。
皇妃様が柔で、皇后様が剛とでも言えばいいのだろうか。2人は真逆で、それ故に仲が悪い。
というか皇后様が皇妃様を心の底から嫌っている。皇妃様はそんなに嫌っていないが、周りに手を出すのを辞めてほしいと常々言っているとお母様が話していた。
皇室問題の根幹でもあるのだが。
「ガルフィース君のクラスの出店は大層有名だと聞く。さすが公爵の息子だな」
「勿体ないお言葉です」
「ふふ、我が息子ながら…」
「ですから、ロンギヌス。婚約者の取り決めを…」
「今する話では…」
「ふふ、さすがクーメル。あの原産地が分かるなんて」
「皇妃様、これは…」
恐れ多くも皇帝陛下と同じテーブルについたが、話はバラバラで最近の事から学園祭の事まで様々ある。
私はアインルーガ様と大人しく紅茶を飲んでいたが、なんかもう気が気でない。紅茶の香りと味が曖昧だ。
ちらっと皇室の方々を見る。
「………」
清々しいほどまでに、皇后陛下は皇妃様を視界にすら入れようとしない。
大抵の貴族は知っている話で、私は前にも思い出しているのだが…詳しく思い返す。
皇帝陛下と皇后陛下は幼い頃からの婚約者であり、故に望まない結婚であった。
皇帝陛下は疲れ果てた際、一時の過ちで親身になってくれた平民のメイドに手を出してしまった。
その平民のメイドは現在の皇妃殿下だ。
しばらく後に皇后陛下のご懐妊がわかり祝福される中、メイドも身籠っている事が発覚した。メイドは身を引こうとしたが心根に惚れ込んだ皇帝陛下は父親である先代の力も借り強引に皇妃へと持ち上げ、側に置いた。
皇后陛下は大激怒。いきなり皇妃が現れたと思えば懐妊しており、しかも寵愛を受けているのだから当たり前だ。
そして皇妃様は皇后様より後に出産する予定だったのだが、度重なる心労などから早産となってしまい、アインルーガ様が先に生まれてしまったのだ。前代未聞とも言える皇妃の子が第一皇太子となってしまった。
貴族達は大いに荒れ、平民の子はと反対したが出生順に皇位継承権が渡るようになっている。今までの歴史では皇后の子が先に生まれるよう調整したらしいが、今回はそうもいかなかった。
皇妃様の平民からの印象も最悪かと思えば、慈善事業に力を入れて支援し人柄が知れ渡ってから人気が高い。そして、私が婚約者になりファクトヒルデ家が後ろ壁になったため貴族も皇妃を支援する事となった。
現状として、皇妃様の方が皇后陛下に相応しいのでは。
という声が帝国内外から上がっているのだ。
皇后様が皇妃様を嫌悪するのはしょうがない事だと思う。ただそれを見ても皇妃様ばかりに寵愛を注ぎ続ける皇帝陛下は、現代の私はどうかと思うわけだ。
「メイルーン」
「はい、お母様」
「最近頑張っていた展示はどうかしら、上手く進行している?」
「ええ、先程様子を見に行ったのですが問題なかったようですわ。ただ…」
「ただ?」
「待っている方々が大変多くて。案内が大変そうでしたわ」
ネアシェと共に教室に戻ると、待機列が倍に増えていた。驚いて多少手伝ったのだが、案内などの運営面は手慣れ始めていたのでスムーズに進行していた。
今頃、担当が変わる引き継ぎをしている所だろうか。
「あら、そうなのね。アインルーガから話は聞いたけれど、とても楽しそうな展示になりそうと思ったわ」
「ありがとうございます、皇妃様」
「よければ見て遊んで行きたかったのだけれど…」
「母様、無茶なことを言わないで下さい」
「う、うふふ…体感出来るような展示ですから、見て頂くだけなら出来ますが体感は…」
「そういえば、メイルーン嬢」
皇妃様を手製の乗り物に乗せる訳にはいかない、と冷や汗を流していたら、皇后様がこちらというか私に目を向けた。
「あなた、ロンギヌスやこの子の周りの方にも仕事をさせたようね?」
「はい、ロンギヌス様にもお手伝い頂きまして、展示はうまく…」
「信じられません、この子に手伝いをさせるなんて」
「いえ、ロンギヌス様には連絡や…」
「どういう事かしら、連絡役って?まさか伝書鳩のように行き来させたの?」
…ロンギヌス様の言葉を被せて遮ってくるのも、圧が凄いのも、この方譲りなんだろうなあと思う。
「まさかそんな事は決してしていません。全体的に見られる方にしか任せられない事でしたので、」
「任せるなんて随分上からね?」
…もう諦めてもいいかしら。
あら、なんだか既視感があるわね?
「あなたもよ、ロンギヌス。大人しく従うなんて、皇族としてあるまじき事です」
「今回に関しましてはメイルーンが主導する事が成功に繋がると考えました。全ては成功のためです」
「!」
「まあ…!」
ロンギヌス様の反論に近しい言葉に皇后様は憤慨したように声を上げ、続くと思えば皇帝陛下が立ち上がった事で中断はした。
「さて、あまりに時間を割いてしまった。楽しい茶会だが長くなり過ぎるといけないな」
「ふふ、確かに楽しい茶会は時が経つのが早いですな」
皇帝陛下の言葉で皇后様はこちらを睨みつけ、席から立ち上がった。皇妃様や皇太子の方々も立ち上がり離席の準備をした。私達ファクトヒルデ家はお見送りのために立ち上がったら、そばに皇帝陛下が来てくださっていた。
「…皇太子達が前より落ち着いているのは、君のおかげのようだ。よろしく頼むよ」
「!」
「では公爵、先に行かせてもらうよ」
「はい皇帝陛下」
礼をし視線を落としながら皇室の方々が去っていくまでそのまま持続した。護衛の方々もいなくなった事で一息ついた。
「…ふう、驚いたな。まさか皇室の方々がいらっしゃるとは」
「偶然とはいえ、一同に見える事は近頃なかったですからね」
皇帝陛下と皇妃様はともかく、皇后様が皇妃様と共に居る事はあまりないらしい。
そこに両皇太子殿下となると更に見られないと、珍しいものを見たと喜ぶべきか、それとも。
ーーー頼むって、簡単に仰ってくれますわね。




