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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
59/125

【4】




「うーん……」

「あの、メイルーン様?どうかしましたか?」

「ミレイユ嬢…いえ、当日のシフトをね」

「し、しふと?」

「えーと、当日の各担当の時間決めをね?」


皇太子2人はシフトに入れられない。各貴族の挨拶などあって、担当している場合でないから。だからある程度自由に動ける連絡役にしたのだ。他にも連絡役はいるし、学園歳当日は頭数に入れていない。

クラスメイトの担当希望時間を集計し組んでるのだが正直、運営人数は少なくて済む。スイッチ1つで映像が流れ始め、乗り物も事前に動きを決めておけばいい。

装置のメンテナンスに1人、魔物の操作で1人、読めないのは受付…だろうか。


「当日の予定も組みにくいでしょうし、早く決めてあげないと…。

そうだ、ミレイユ嬢。銃のメンテナンス、簡易的なマニュアルにして欲しいと伝えて欲しいわ」

「わかりました!」


まさか全体的な進歩を見つつ、当日の事も考えなければいけないのがこんなに大変だとは。

現段階で上手く進行しているが、2週間を切っている。気ばかり焦るのはしょうがない。


「お昼の時間は少し空くだろうから、メンテナンスの時間を設けて……当日起こるであろうトラブルもQ&A式でマニュアル化しましょうか…」

「メイルーンさん」

「そういえば宣伝コメントの締め切りが近かったわね…広報担当に確認して、ポスターの様子も見てみなきゃ」

「メイルーンさん」

「わっ、レイサ先生?」


肩を叩かれて後ろにレイサ先生がいる事に気付いた。先生はもうだいぶ回復していて、最近は普通に過ごしていると聞いた。


「すみません、反応がなかったので」

「いえ、どうか致しましたか?」

「顔色が悪いですよ。一日中気を張っているようですから、ちゃんと休みなさい」

「ですが、まだやる事が…」

「数分休憩した程度で進行が遅れるような事はありませんよ」


レイサ先生が甘いジュースを手渡してくれる。


「メイルーンさんは先を読む力が優れているようで、先回りして色々問題を解消してますからしばらくは大丈夫ですよ」

「何かあれば、すぐに呼ぶ」

「アインルーガ様?」

「しばらく休憩しろ、メイルーン」

「……わかりましたわ」


レイサ先生に諭され、話を聞いていたらしいアインルーガ様に言われてしまうと休憩せざるを得ない。

ふうと息を吐いて、貰ったジュースを飲む。2人は各担当の元へと戻っていって、1人でゆっくりし始めると疲れがドッと出て来たような気がした。




「おい、メイルー…休憩中か?」

「ロンギヌス様。まあ一応、そうですが話は聞けます。どうかなさいました?」


ロンギヌス様の手には資料が握られていて、色々と書いてあるようだった。


「…各担当の必要部材を纏めた物だ。後でいいから確認頼む」

「昨日お願いしていた物ですね、ありがとうございます」


資料を受け取ったのだが、ロンギヌス様は立ち去らずにそのまま立っていた。


「どうかなさいました?」

「…お前は、派閥など気にせず担当を組んだな」

「は、はい」

「ああ、別に不満がある訳ではない。俺は、な」


ロンギヌス様の言葉に、やはりと思ってしまった。

進歩としては順調なのだが学園祭を前にしてくだらない諍いが増えて来ているのは気になっていた。主に派閥の違う者同士のやったやってない、言った言っていない、などの本当にくだらない理由だ。

恐らく原因は、準備期間に入り授業がなくなった影響で必然的に担当で一緒に過ごす時間が増えたからだろう。


「…そうですね、ヒヤリングして…」

「いい、俺とアインルーガに任せておけ。自身の臣下くらい御する事は出来る」

「!」

「お前の作業量くらいわかっている、当日は手伝えんからこのくらいはやってやる」


ロンギヌス様はふん、と鼻を鳴らした。

気を使ってくれてるのだろうが高圧的なのは変わらず思わず笑ってしまった。


「なんだ、失礼な!」

「すみません…ですが、ロンギヌス様も思う所はございましょう。何かあれば仰って下さい、出来る限り、」

「いいから任せておけ!お前は休め!いいな!?」


ロンギヌス様は言うだけ言って移動してしまった。やはり言葉を遮るのは癖なのかしら?と思うが、お言葉に甘えて休む事にした。












そしてしばらく休憩しお手洗いに行った帰りに遭遇してしまった。


「本当に頭の出来が良くないのね、家柄しかない小娘は」

「…無礼な」

「無礼?あなたわたくしに向かって言ってますの?」


声が、冷たく刺すようだと感じるほど怖い。令嬢と令嬢の言い争いなどほとんどこんな感じだが、比較にならないほど恐ろしい。

片方はユーグリッド嬢1人。

そして片方は、見た事がある…中等部のロンギヌス様の派閥の方々だ。まだ初等部にいた頃…つまり数年前だが、メイルーンと何度も悪態の応酬をした。


「ええ、公爵令嬢のわたくしにそのような口ぶり…たった数年先に生まれたからといって、家柄を履き違えるなんて格が知れてますわ」

「公爵令嬢?敵と仲良く行動している分際で、その立ち振る舞いをするのが公爵令嬢の勤めなのかしら?」

「わたくしはロンギヌス様の意向に従うまでですわ」

「主君の誤りは臣下が諌めねばなりませんのよ?」


中等部の令嬢達が、制服のポケットから何かを取り出した。それをユーグリッド嬢へと見せる。


「これを使って、学園祭前日にでも展示を破壊しなさいな。あちらの派閥のメイルーン嬢がやったと証言すればいいでしょう。初等部にいる取り巻きには根回ししておくから…よろしい?」

「…!」


中等部の方々は、展示を中止させようとしている。確かにアインルーガ様とロンギヌス様が同クラスな以上、あまりに大掛かりに成功してしまうと対立構造がバランスを崩してしまう可能性がある。

現状派閥関係なく進行している事は全体が知っているが、6年生などが通りがかりにギョッと驚いているところを見た事もあるからだ。


「…ロンギヌス様の顔に多少なりとも泥を塗るつもり?」

「もちろん、展示中止はそれなりに余波はありますわ。けれど派閥同士が共同で出店する事の方がこちらの派閥に害がありますわ」

「こちらの派閥、ではなくあなたに害があるのでしょう?

確かあなたの家はファクトヒルデ家から目をつけられ、皇帝陛下を通して水質改善に協力するよう言われたそうですね?」

「!」

「派閥共同で、しかも取りまとめたのはメイルーン嬢だなんて…ファクトヒルデ家の発言力が強くなるだけで、」



パァン!




廊下に響く、高い音。ユーグリッド嬢の言葉が途切れて廊下に木霊した。


「っ、!」

「下品ですわよ、ご令嬢?」


ユーグリッド嬢の頬を叩こうとした令嬢の腕を捻りあげる。先程の音は腕でガードした音だ。


「メイルーン嬢…!?」

「年下のご令嬢に向かって複数人で囲み、手を上げようなんて…あなた方、本当に貴族かしら?野蛮だわ」

「メイルーン嬢、割り込みしないで下さいな」


ユーグリッド嬢は手に術式を発動出来る段階で留めていた。魔法で応戦しようとしていたので、止めたのだ。今騒ぎを起こす事は学園の、学園祭への悪評に繋がりかねない。

捻りあげていた手を離せば、中等部の方々はじりじりと後ろに下がる。




「メイルーン・ウンディーネ・ファクトヒルデ…!」

「そんなに睨まないで下さいな、名も知らぬ令嬢方」

「なんですって!?わた…」

「ああ、覚える価値もないから名乗りは結構ですわ」

「っ!?」


家柄を大切にする貴族にとって、名乗らせないのは最大級の無礼に当たるだろう。知った事か、お父様の査察がこれから入るだろう家だ、多分ロクな家ではない。

大きな物音と大声でなんだろうとこちらを伺いに来る人達が見えた。


「中等部の方々、流石にここまで騒ぐと目につきますわ。なぜ初等部にいらっしゃるのかしら」

「くっ…」

「あと…我が展示品の数々には、最高級のセキュリティを完備しておりますわ。まさかとは思いますが不審者などいましたら…軽傷ではすまないかもしれませんね」

「知りませんわ!皆さん行きますわよ!!」


中等部の方々はこちらを睨みつけながら、元の学習棟に戻って行った。一応脅しはかけたけれど…本当にセキュリティを強化した方が良さそうだ。


「メイルーン嬢、こちらの事情に手を出さないで下さる?」

「私は、ミレイユ嬢の気分を味わって貰おうとしただけですわ」

「!」

「あなたには家柄や魔法がありますわ。でも彼女にはどちらもない、反抗する力がない。それを知っておいて欲しかったのです」

「……ふん、失礼しますわ」


ユーグリッド嬢は林間学習での事を思い出したのだろう。魔法を消して教室へと戻って行った。

少しは考えるキッカケになればいいのだが。





ーーーこのままだと私のせいで本当の未来に行けないミレイユ嬢を、少しでも助けたいと思うのは私のエゴだ。








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