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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
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【8】


「火の中級魔法も扱えるようになって…私が知らない内にどんどん強くなっていくな」

「まだ詠唱が必要だがな。でもまだ中級だ、地属性も下級魔法しか使えない…もっと、修練が必要だ」

「あまり無理するなよ」

「言っただろ、最近調子がいいんだよ。今ならもっと強くなれる」

「ヤクト卿がいつかリベンジすると言っていたが、もっと難しくなりそうだな」

「そんな事言ってたのかよ…まあ、負ける気はねえけど!」


楽しそうに言う、あの魔法戦をアインルーガは思い出す。




隣には父様、そしてロンギヌスがいた。父様はともかく、俺の護衛とロンギヌスの護衛は睨み合いを続けていて、あの空間は決して心地よいものではなかった。

だが魔法戦が始まってしまえば…全員、その戦いに目を奪われた。目の前に広がる、魔法と魔法のぶつかり合い。

飲み込まんとする水、塞きとめる土壁。

風の槍や水を蒸発させる程の火の玉、武器と武器のぶつかり合い。

初等部とは思えぬ戦闘の激しさ。そして1チーム対3チームの構図ながらも真っ向から立ち向かい戦う友の姿。


ーーー彼はアインルーガの友だったな、あの年齢で凄まじい魔法使いだ。将来が楽しみだな。


楽しそうな父様の顔が思い返される。身分などではなく純粋にレオニダス自身の力を見て讃えるその姿を見て、父への尊敬と友への誇りは一層強くなった。

全てのチームが仲間と共に勝利を目指し、凌ぎを削る戦いをもっと見ていたいとすら思ってしまった。


だが爆発が起き、状況を把握する前に待避する事になった。あの闘技場を背に何も出来ないもどかしさ、無力さは一生忘れられない。

ロンギヌスは大切な人がいるから戻ると騒いだが皇族に何かあった時はその者が責に問われるのだと言われれば、大人しく従うしかなかったようだ。

幼い頃からそれを言われ続けて来た私も、彼らならば絶対に大丈夫だと信じる事しか出来なかった。そして無事が報告された時の喜びと安堵、そして驚愕は一生忘れる事はないだろう。








「…おい、どうかしたか?」


レオニダスが怪訝そうな顔で見て来たため、アインルーガは思考を途切れさせて向き直る。


「ああ、いや…確かに魔法戦は素晴らしかった。





だがそれと同じく、皆を護るために魔物に立ち向かったお前を、心から誇りに思う」

「!」

「ありがとうレオニダス。俺の友でいてくれて」


アインルーガの表情は変わらないのだが、言葉を真っ直ぐ言って来る時は本心だとレオニダスは知っている。ばつが悪いように目を背けた。


「…突拍子もなく恥ずかしげもなく真顔で言えるのが、凄いよなあ」

「?聞こえなかった、なんだ?」

「何でもねえよ」

「護るため辺りは否定しそうだと思ったが、やっぱりそういう事なんだな?」

「はあーーっ……」


レオニダスは諦めたように息を吐き、恥ずかしげもなくクサい台詞を言う才能に関しては敵わないと確信したのだった。




「もちろん、この功績は将来必ず役に立つ。良かったな」

「ああそうだ悪い、言ってなかった。貴族になるために功績たてるのはやめたんだ」

「…そうなのか?」

「俺はお前の護衛官になるために努力すると決めたからな」


レオニダスはサラッと言うが、アインルーガは停止した。




「……は、」

「俺は貴族じゃなく、お前の護衛になる」


停止するアインルーガに構わず、レオニダスはキャビネットに置かれたクッキーを見て話し続ける。


「俺に貴族は似合わないって言われてな。確かにと思って、俺が本当にやりたい事を考えてみた。

立場的に護れる貴族じゃなくて…皇室護衛官になるのがいいかなって思っただけだ」

「しかし、護衛官は…」

「軍の役職持ちから一握りだけ選出され、複数属性持ちで優れた魔法使いであり近接戦闘から魔法戦まで何でもこなす。で、皇室の覚えがあり信頼出来る人…相当狭き門だ。

でも平民もいるよな。こっちの方が性に合ってそうだ」


皇室護衛官。

その名の通り、皇族の守護を最優先とし常に傍にある存在。

任命される事自体が誉れであるが専任護衛官となると皇族の生命線と言われるまでになる。基本的に貴族が多いが実力主義のため過去の歴史で平民も護衛官になった事はある。




「貴族って、派閥やら立場やら…色々縛られるだろ。それなら直接、お前の命を護る仕事に着きたいと思った。

まだあやふやで…」

「…そうか」

「っ、は…?」


今度はレオニダスが今度は固まる。

アインルーガが一筋、涙を零していたからだ。


「なんっ、はっ!?」

「…ありがとう。その想いが嬉しい」


レオニダスは激しく動揺していた。

覚えている限り、アインルーガの泣き顔を見た事がなかったからだ。幼い頃から達観した子どもであった彼は泣く事もせず、大笑いする事もなく。

泣くレオニダスを慰めていたのはいつもはアインルーガだったので、こんな事は初めてだったからだ。


「そんな、泣く事か!?」

「ふふ、悪いな。確かに大袈裟だった。

だが本当にありがとう。わからないかもしれないが、これでも喜んでいる」

「それぐらい分かるっての」

「…そうか」


アインルーガが涙を拭えば、もう流れる事はなかった。しかし確かに、一粒だけだが涙を流すほど喜んでくれたのだ。

調子が良かったのも、そう目指し始めたからだと伝えるのは流石に恥ずかしいのでやめようとレオニダスは心の中に仕舞い込んだ。




アインルーガの心中にはずっと、言えない事があった。

レオニダスとロンギヌスが接触禁止となったあの爆発事故。言わずともわかる、あの事故のせいでレオニダスは貴族を嫌悪しながらも貴族を目指すようになってしまった。

それは才能豊かな彼をアインルーガのせいで道を決めさせてしまったのではないかと、ずっと後悔していたのだ。


だからこそ林間学習の際、ロンギヌスの影響で自身を責め調子を崩すレオニダスに苦言を呈した。彼にはそんな事で迷ってほしくなかったからだ。

そしてレオニダスはどこか折り合いをつけて別の道を模索したのだろう。だが護る為という変わらぬ想いが何よりも得難いものだと、皇室の謀略に巻き込まれたアインルーガはこの年齢で知っていた。









メイルーンとネアシェが戻って来た時には、変わらぬ2人がいた。

だが確実にその向かう先は、目指す先は共に在ると理解して変わった2人だった。



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