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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
52/125

【6】



「…正直、だが。

私はもう、父様や学園は原因を知っている気がする」


アインルーガ様の言葉に、私と2人も驚く。確信に近いものを得ている口ぶりであり、今まで1人で考えて行動する事が多かったアインルーガ様が私達に伝えてくれようとしているからだ。


「林間学習のストルプの件、箝口令が敷かれたのは変異した事を伝えられると困るから、という前提で話すが。

恐らく学園は今回意図的に詳細不明の魔物と公表したのだろう」

「意図的にですか?」

「詳細不明の魔物とし…その後に新種の魔物にでも仕立てようとしているのだろう」

「!」

「なるほどな。変異ってなると【原因】を追求される。けど新種っていう事にしちまえば、ただの魔物が現れたという事で無理やり決着出来る」

「林間学習の件も…私達が解析魔法で調べてなければ、新種の魔物とされた可能性があったという事ですね」


アインルーガ様が頷く。


「学園はストルプも闘技場の魔物も解析したはずだ。元々は普通の魔物が変異した2件は繋がっていると考えるのが普通だろう。2件目となれば対策を立てる必要も出てくるはずだが公表する気がない。







ならば…変異の原因が帝国にとって具合の悪いものであり、公表しないのではないかと思う。

それに調査が皇室専属の研究所が行なっているのは秘匿しやすいからだろう」


アインルーガ様は淡々と連ねて、私とネアシェは黙り込んでしまう。レオニダスは何事か考え込んでいるようだ。




「…すまない、取り留めもない事を言った。これは全て私の推測であるから、あまり気にしないでくれ」

「アインルーガ様…いいえ、お話頂いて嬉しく思います」


帝国にとって具合の悪い原因。

ーーーゲームで情報はなかっただろうか。しかしこのような事件はゲームでは起きてないのだ。でもキッカケくらいならば……。


「おっと、すまない。

他の人々を見舞う時間がなくなってしまう、少々席を外すよ。また戻って来る」

「はい、いってらっしゃいませ」




アインルーガ様は申し訳なさそうに病室から出て行った。

3人となった病室で、全員黙ってしまう。





「あまりの情報量にパンクしそうでしたわ」

「ふふ、でもモヤモヤしていた部分が纏められて良かったです」

「そうだな。アインルーガも1人で考えてた事吐き出せたみたいだし良かったんじゃねえ?」

「そうですわね」


事実は重くのしかかって来たが、悪い事ばかりではない。

これから先、私達に出来る事なんてないかもしれないが…アインルーガ様やみんなと協力していけば、このように話し合いを進めていけば見える物もあるだろう。




「……魔物に詳しい奴なら、ギルドにいるんだがな」

「!」

「ギルド…ですか?」


ここに来て、この帝国であまり触れられない単語がレオニダスから出て来た。


「ああ、俺の家の近くにギルドの隠れ家みたいな所があってな…偶然だったんだが知り合ったんだよ」

「まあ、帝国にもやっぱりあるのですね」

「その、大丈夫なんですか?」

「ああ、普通に困ってる奴らを手伝うような良いギルドだったよ」




ギルド。帝国ではその存在はどちらかと言うと嫌われている。

ギルドは様々な目的を持って作られる団体であり、様々な場所に存在し様々な人々が所属している。

その嫌われている理由は主に風評や幼い頃からの刷り込みであったりする。ギルドは魔物の討伐や依頼によっては暗殺なども行うため、荒事屋のイメージがあるのだ。

なので帝国国民、特に貴族はギルドを嫌がる。

そしてこれはゲームでの話なのだが、確かにギルドの話は出て来るしメイルーンも嫌々ながら雇って護衛にしていた事もある。だが物語に深く関わって来ないので知識としてフワッとしている。




「やはりギルドの方は魔物にお詳しいんですか?」

「討伐にも出てるって言ってたから、それなりに情報はあるんじゃねえかな。多分闘技場の事件は知ってるだろうし、今度話してくる。

…あ、アインルーガには言うなよ」

「どうしてです?」

「あいつの事だ。情報を得るために隠れ家だって言ってんのに訪ねていきそうだろう」


ネアシェと一緒に苦笑いしてしまうが、本当にやってしまいそうな気がするのだ。

皇太子が訪ねた隠れ家は、もはや隠れ家ではなくなってしまうだろう。


「お前らも行こうとするなよ?」

「まさか!行くはずありませんわ」

「でもメイルーン、結構無茶な行動する事ありますから…」

「と、闘技場の時は緊急時でしたし…慌てると、考えるより先に体が動いてしまうんですの」

「ああ、そういえば。









逃げる時の口調が本当かよ、お嬢様?」


レオニダスがにやりと笑う。






「ッッーー!!??」

「あの治療をお願いされた時の口調ですか、可愛らしかったですね」

「ああ、面白かったな」

「ち、ち、」




違いますわ!!!と叫んだ声は、廊下の端まで届いていて、看護師から注意を受けるのだった。














「…後は、レイサ先生か」



生徒全員の見舞いを終えたアインルーガは安堵の息を吐いた。

リハビリ中の者はいるが全員後遺症はなく元気そうで、本当によかったと胸のつかえが1つ除かれた気がした。

後はレイサ先生だが、メイルーンとネアシェも見舞いたいと言っていたから迎えに行こうと思い、レオニダスの部屋へと向かおうとしたが見慣れた姿が前から歩いて来た。




「よーう、アインルーガ」

「リンドウ先生、お久しぶりです」


担任のリンドウだが、アインルーガは少し苦手だった。この緩い性格にも関わらず、学園長と同じくどこか底知れない感覚がするのだ。


「これからレイサのとこ行くー?」

「は、はい。そのつもりです、メイルーンとネアシェと共に…」


ーーーレオニダスの部屋に足を向けていたのに、何故分かったのか。先程の独り言を聞かれたのか、それとも、









パチン







「!?」


リンドウ先生が指を一回鳴らした。

すると後ろに立っていた護衛が、いきなり倒れる。あまりの突然さに驚くが、状況から見ればリンドウ先生の仕業だろう。


「っ、何のつもりですか」

「ん、いやさぁ。忠告なー」

「忠告…?」

「あんまり口外しちゃダメな事、防音もせずに話さない方がいいぜー?」

「!!」


恐らく先ほどの病室でした会話だろう。


「口外したらどうなっても知らないって言われたろー?

マジで、碌な事にならないから、気をつけろよー」

「…」


アインルーガは自身の甘さに唇を噛み締める。皇室内での情報の露呈は致命傷に繋がることもあるのに、油断していた。

リンドウ先生がこちらに近付いて来て、思わず身構える。


「…そこで倒れてんのは、皇族お抱えの護衛だなー。でー、俺はそいつらを一瞬で眠らせた訳だなぁ」

「何が…言いたいんですか」


目の前で立ち止まり、片手が上げられた。








ポン、ポン、


「……え」

「子どもがあんまり1人で首突っ込むなよなー。護るのも、俺たち教師の仕事の内なんだからなぁ」


頭を軽く撫でるように叩かれて、アインルーガは思わず固まる。


「お前はまだ10歳だろー?色々背負ってるみたいだが、まだ友達と仲良くして青春味わっておいた方がいいぞぉ?」


リンドウの口調は緩いが目は真剣に気遣っているようで、手つきは無骨だがどこまでも優しい。

子どもを慈しみ、将来を願う。この人はまさしく、教師なのだろう。


「……」

「ま、俺はレオニダスよりも護衛よりも強いからなぁ、なんかあったら来いよー」

「…でもレイサ先生より仕事は遅いですよね」

「適材適所、って言うだろー?」


パチン、と若干苦笑したリンドウ先生がまた指を鳴らすと護衛達はすぐに目を覚ました。

そのまま立ち去ろうと後ろを向いたリンドウ先生は何か思い出したように声を上げる。


「あ、レイサはまだ面会謝絶だからなー」

「…無事では、いらっしゃるんですよね」

「おー、命に別状はないし、その内復職出来るだろうから気にすんなー」


じゃーなー、と緩く手を振って去る姿を見送り、レオニダスの病室へと戻る事にした。

何があったのかと問う護衛に、まだまだ修練が足りないなと言えば訳が分からないようで変な顔をされた。








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