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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
51/125

【5】




次にスレイヴ様の所に行った。

病室前にいた護衛にやはりいい顔はされなかったが伯爵家のため、公爵令嬢を断る事は出来ない。

スレイヴ様はどうやら明日にでも退院するらしく、荷物が纏められていた。


「忙しい所に来てすまない」

「いえ、とんでもございません」

「でも大事がなくて良かったですわ」

「ああ。…その、メイルーン嬢」

「はい?」

「もう、機会がなさそうだから言っておく。…ミレイユを強くしてくれて、ありがとう。魔法戦を戦い抜いた事は、彼女の自信となってくれたようだ」


スレイヴ様とミレイユ嬢は手紙でやり取りしたらしく、そこにもっと強くなりたいと書いていたらしい。


「それから、申し訳ない…今まで失礼な態度をとっていた。あなたの事を誤解していたようだ」

「え、ちょっと!」


スレイヴ様は頭を下げた。いくら爵位が上でも、男子が女子に頭を下げるのは外観が良くない。ほら、護衛の方々もザワザワしてるから!


「気にしないでくださいな、昨年度まで私が色々好き勝手やっていたせいですから!」

「確かにな」


アインルーガ様の同意を得られたけどそうじゃない!

スレイヴ様は頭を上げ、また大会で助けた事に対して感謝を述べてくれた。私がやった訳ではないと、この間ワイス卿と話したようなやり取りをする事になってしまう。

やはり休暇明けにこの話題をはっきりさせておかないと、延々と続きそうねこのやり取り。


「休暇明けに学園は行けると思う。何かあればよろしく頼む」

「ええ、わかりましたわ」


退院の準備を進めるという事で、クッキーを渡して退室した。








それから、重症者の1人であるラス・ノーマンだったが、どうやら家族が来訪しているようで、アインルーガ様が後にしようと言ってくれた。

知らない関係でもないから挨拶したかったのだが、気遣いを無碍にもしたくない。









貴族は訪ね終わり、次はレオニダスの所に行く事となった。





コン、コン、


「どうぞ」


短く返ってきた言葉に扉を開け、入室する。


「久しぶりだな、レオニダス」

「…アインルーガ!それに…」

「久しぶりね」

「お久しぶりです」

「メイルーンにネアシェ」


レオニダスは心底驚いていて、ベッドから起き上がった。こちらも元気そうだ。


「元気そうだな、良かった」

「ああ、もうほぼ治ったしな」

「あら、じゃあこの松葉杖は何かしら?」

「…最近は使わなくても歩けるっつの」

「最近までは必要だったということですね。確かに最初治療した時から酷い怪我でしたし」


ネアシェが初期治療を施したおかげで悪化しなかった片足は、まだテーピングや定期治療が必要だが快方に向かっているらしい。


「ああ、ネアシェから話を聞いて心配したぞ」

「悪かったな。まあしばらくギプスだったけど特に問題はなかったよ」

「そういえば感染症の恐れがあったって聞いたけど、大丈夫だったの?」

「怪我はともかく、調子は良かったんだよな。それに感染症予防ってのも、どうも嘘っぽいんだよ」

「え?」

「感染症って割に隔離されてないんだ。扉出たら普通に通路だろ?医者や看護師は普通に通ってたし」

「確かに、そうですね…」


レオニダスの言葉に私達は考え込む。

特殊病棟であるが他にも患者がいる。隔離病棟はちゃんとあるのに、だ。

部屋を移されたとかでなく、最初からこの部屋で入院していたらしい。




「…まあ詳細不明の魔物のせいだろうがな。何か影響があったら困るという事だろう」

「というか、ここにいる面々だけだから話せますけど…闘技場に現れた魔物、雰囲気が先日の魔物と似てませんでした?」


前の約束は【ここにいる人間以外に伝えない】だから、話しても大丈夫なはずだ。それを察したのだろう、全員が頷いた。

林間学習の時の巨大魚、ストルプと似ていると。



「新種などではなく、既存の魔物が変異した…という事でしょうか」

「ええ、でも元の魔物がわからないわ。解析魔法もかけていないし…」

「…多分だが、火トカゲ系の魔物だと思う」


レオニダスが重く口を開く。


「火トカゲ…ですか?」

「ああ、俺の火属性魔法を易々と弾きやがった、多分防護魔法でな。あと噛みつきと突進の特徴から」


確かに火の特性があり、攻撃パターンはトカゲ系の特徴と合致している。

それとメイルーン、とレオニダスから呼ばれた。


「あいつに襲われた時、なんか変じゃなかったか?」


変?と首を傾げる。

あの時気を引こうとして水魔法を放って…悪寒がして飛び退いたら九死に一生だった。


「…メイルーン、大丈夫ですか?怖い記憶を無理に思い出さなくても…」

「あ、ううん、平気よ。変な所…というか、考えてみればおかしいのよね」

「何がだ?」

「防護壁を魔物が易々と破った事よ」


魔物はリンドウ先生の手によって迅速に討伐された。つまりリンドウ先生や先生方ならば防護壁を破壊出来たのでは、と思ってしまう。





「正直、防護壁あるから大丈夫かなと思って魔物の気を引こうとした所もあるし…」

「へえ…そうなんですか?」


ヒッと思わず声が出てしまった。ネアシェの目が笑っていない。

私の無茶な行動にガルフィースとネアシェから相当怒られたのを思い出してしまう。


「で、でもレオニダス。変ってどういう事ですの?」

「…いや、気のせいかもしれないんだが。あの魔物と対峙した時…今までに感じた事のない、体の芯が冷えるような魔力を感じた気がするんだよ」

「感じた事のない冷たい魔力…?」

「でも確かに、悪寒のようなものは心当たりがありますわ」


思わず飛び退いた、数秒間だけ。魔物のギョロリとした目に睨まれたので、殺気を感じただけだと思っていたのだけど。


「…感じた事のない魔力だが、私はストルプからは感じた」

「ストルプからですか?」

「本当に微弱だったがな。というか大会の時は異常がおきてすぐに移動してしまったから魔物は資料でしか見てないんだ。直接見ていたら私も意見を出せたのだが」

「仕方ありませんよ、御身を危険に晒すわけにはいきませんもの」


後悔しているようで、アインルーガ様の顔は暗くなる。

だが皇帝陛下はもちろん、アインルーガ様もロンギヌス様も何かあっていけない方だ。




「…過ぎた事を言ってしょうがないな。今は出来る事をしよう」

「はい、そうしましょう」

「巨大魚に、巨大火トカゲ…巨大化と凶暴化、そして感じた事のない魔力か。偶然じゃないよな、多分」

「ええ…この2件は関連していると考えるのが自然です」

「そして原因、か…」


全員が黙り込む。そもそも魔物の生態自体、謎に包まれている事が多いのだ。

帝国は近年魔物の大きな被害などもなく、至って平和だったからというのもある。





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