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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
49/125

【3】



夏期休暇の終盤、気温はかなり高く、お昼などは動けば汗ばむ。

湿気は高くないし現代よりははるかにマシだが、魔法を使えば更に快適だ。お父様に自身の周囲の温度を下げる魔法をメイルーンが教えてもらっていたため、常にクーラーが側にあるような感覚になる。




そして、私は帝都へと来ていた。









「ふむ、変わらんな」

「懐かしい…年末年始以来ですね」


ファクトヒルデ家が帝都に持つ別邸。帝都などに滞在する際に使っている邸宅だが、本邸より遥かに小さい。

だが私達が使う範囲は変わらない。使用人やメイドの人数は変わらないのだが普通に帝都の街に住んでいるので、その居住分が削減された感じだ。後は庭園が大規模ではない事くらいか。




「お、お嬢様…お部屋までご案内します」

「ええ」


ーーーメイルーンはこの別邸嫌いだったなあ。

メイドが部屋まで連れて行ってくれるが、ビクビクしていて顔色も悪い。メイルーンの別邸での態度は最悪だったからしょうがない。

貧相に見える、と別邸を嫌い、そこで働くメイドや使用人に事あるごとに罵倒した。性格が変わったのも伝わってないだろうし当たり前か。

荷物を持って後ろからついてきてくれているナタリーがヒソヒソと耳を寄せた。


「申し訳ございません、別邸にも伝えたんですが…」

「いいのよ。それに少し前のナタリーやみんなもこんな感じだったわよ?」

「そ、そうだったかも…しれません…」


転生したばかりの頃を思い出し、少し笑ってしまう。メイルーンの一挙手一投足に気を使い、声をかける度に青ざめて身を竦ませる。そして私の性格が変わったと聞き、恐る恐る様子見してくる。

今となってはシェフは私が言ったあやふやなレシピでお菓子を作ってくれたり、メイドは一緒に洋服を選んだり、使用人は困っていたら声をかけてくれる。

別邸もそうなったらいいな。








学園は夏期休暇でも数人の先生がいる。

体育館やグラウンド、図書館や教室も自習のために開放されている。

食堂は運営していないがカフェは開いていて、そこで軽食なども食べられる。前に過ごした事のあるテラススペースでネアシェと待ち合わせしていた。





「メイルーン、こちらよ」

「ネアシェ!」


テラススペースに先に到着していたネアシェは本を閉じ、こちらを見て微笑む。シンプルなドレスを着たネアシェは、制服を着ている時とまた違った雰囲気があった。


「やっぱり毎日会っていた学園生活から比べると随分久しぶりな感じがするわ」

「ええ、前に顔を合わせてから数週間くらいしか経ってないのだけど。会えて嬉しいわ」

「私もよ、メイルーン」


互いにお土産を取り出し、お茶の注文をしてお茶会が開始された。

最近の出来事から始まり、家族の事、写真の事、久しぶりに会えたから会話がするすると進む。


「このメレンゲクッキー、とっても美味しい」

「ふふ、ちょっと甘いから紅茶と一緒に食べるとちょうど良くなるわよ」

「確かに甘いけど、不思議な食感でどんどん食べちゃいそうだわ」

「ふふ、バーミリオ伯爵家にもお持ちしてね…」




そういえば、と思う。

バーミリオ伯爵家の事を思い出すと、どうしてもワイス卿、そして魔法競技大会の事が頭をよぎる。

しばらく話した後、一旦区切りがついた所で切り出した。


「…そういえば、ネアシェ。

入院していたレオニダスさんやヤクト様達なんですが、退院したとかって聞きました?」

「我が家は医療方面への出資もしているので、それとなく聞いたのですけれど。先週の時点でまだ病院にいるみたいでした」

「えっ…事件が事件とは言え、長くありません?」


帝国の医療水準は高い…と思う。医学に詳しくないから良く分からないけれど。しかも帝国随一の病院にそれなりに長い期間入院しているのは重病者くらいだ。


「プライベートに関わるため、と情報はかなり濁されまして。理由まではわかりませんでした」

「…大丈夫かしら。後数日で学園も再開するというのに」

「それでなんですが、良かったらお見舞いに行きませんか?」

「お見舞い…ですか?でも面会謝絶では?」

「ええ、ですが……あら、噂をすればなんとやらですね」

「えっ?」


ネアシェがテラススペースの出入り口を見て笑ったので後を追うように見れば、久しぶりの姿があった。




「アインルーガ様!」

「久しぶりだな、メイルーン、ネアシェ」


礼服を身にまとい、こちらへと向かって来たのは確かにアインルーガ様だった。入り口の近くとテラススペースの見えない所に皇族の護衛の姿が見えた。


「ご機嫌麗しゅう、アインルーガ様」

「ご機嫌麗しゅうございます、アインルーガ様」

「ああ、護衛の目があっても気にしなくていい。いつも通りいてくれ」

「わかりましたわ」


アインルーガ様は何しにいらっしゃったのだろう。学園のテラススペースなど、ふらっと立ち寄るものでもないだろう。

あの大会の時、皇帝陛下と共に魔法戦を観戦していたアインルーガ様は魔物が出現した時点で空間魔法で避難されており、その後何が起こったのかその目で見れなかったと悔しそうにしていた。

レオニダスが重症を負ったせいもあって、大会の調査なども夏期休暇前に行っていた気がする。




「少し早かったか?」

「いいえ、ちょうどその話をしていた所です」

「?」

「それでね、メイルーン。先ほどの話に戻るのだけれど、アインルーガ様と一緒に面会に行きません?」

「えっ本当ですか?」

「ああ。どうやら面会謝絶は感染症などの疑いがあったかららしいのだが、先日少人数であればと許可が降りた」


アインルーガ様は着席し、紅茶を注ぐ。


「いいのですか、アインルーガ様が訪ねて。もし、何かあれば…」

「感染症自体はクリアで、現在は検査入院のようなものらしい。まもなく退院するらしいので大丈夫だろう。それに少人数としたのは、どうもヤクト卿の影響らしいからな」

「ヤクト様の…?」

「病院に連日令嬢から見舞い品が届くらしくてな。それが面会出来るとわかったら病室がパンクする」

「「ああ…」」


お見舞いと称して近づこうとする令嬢はたくさんいるだろう。


「一応俺は学園関係者を全員見舞うつもりだ。君たちはどうする?」

「レオニダスさんに、同じチームだったヤクト様とスレイヴ様…かしら」

「後はレイサ先生ですね」

「紅茶を飲み終わったら移動しよう」


そうだ、と思いカフェの方に小分けの袋とラッピングを頂いた。メレンゲクッキーを数個入れてラッピングしてお見舞いの品としよう。

メレンゲクッキーはアインルーガ様も驚きながら気に入ってくれて、とても嬉しかった。













皇城の近くにある帝国最大規模の医療施設、ユグドラシル病院。

貴族御用達であり、医療施設は最先端技術を導入していると噂だ。平民専用の病棟もあり窓口は広く、外来受診も可能らしい。

馬車で移動し、VIP専用入口から人目に触れず病院内へと入った。


「まずは…ヤクト卿か」

「ええ…後々問題にならないよう、それが最善かと」


学園関係者は貴族平民関係なく特殊病棟にいるようで、まずは1番位の高い人から行く事にした。

正直そこまで仲が良くなくても関連があるならば先に。そこが貴族社会の悲しい所だ。





病室の前まで来ると、大柄な男性が声をかけて来た。


「失礼。ファクトヒルデ家のご令嬢、メイルーン様かとお見受けします。次期公爵様へのご面会はご遠慮願います」

「…彼女は私の婚約者であり、ヤクト卿のチームメイトであった。それでもか?」

「申し訳ございません」


ピシャリと断られ、確かに無神経だったかと思う。本当は私だけでなくアインルーガ様も断りたいんだろうし。


「かしこまりました。アインルーガ様、ネアシェ嬢、ヤクト卿へと面会してきて下さいな。私は先に別の方をお見舞いしてきますわ」

「メイルーン…」

「…わかった。護衛を連れて行け」

「結構ですわ、では失礼致します」


良かったら渡しておいて、とネアシェにメレンゲクッキーを渡して礼をして立ち去る。

敵陣にいるようなものだもの、アインルーガ様の護衛を減らすのは良くない。けれどテラウィリス家の護衛までびっくりしていたのは何故だろう。メイルーンが騒ぎ立てると思ったのかな?

事を大きくしないためにも早々に離れた。





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