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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
48/125

【2】




魔法競技大会の数日後、あの事件は詳細不明の魔物の襲撃、という内容の資料が配られた。



現れた魔物はどのデータベースにも載っておらず、闘技場の地下から出現したがそんな魔物はそもそもいなかったそうだ。

防護壁の影響で教師も助けに入れずにいたが、生徒の機転により防護壁を破った事で討伐した、と。

その生徒が私というのは広まってしまっている。


しかしその後の事件の保護者説明会は荒れに荒れたという。

初めて見た巨大な魔物にノイローゼになる生徒や、不登校になる生徒もいた。

詳細を伏せる学園に対する不満。

そして半壊した競技場側への責任も追求され、まだ運営再開には時間がかかるという。



どうにか夏期休暇前には一時的に落ち着いたが、休暇が終わったら学校辞めてました、なんて事態がありそうだ。

実際、渦中にいた私も怖いのなら辞めていいと言われたし。




「本当にあの魔物は何だろうな、見た事ない姿だった」

「ええ……」

「もし新種だったなら、間近で見れたのは僥倖だったのかもしれんが…」

「……」


あの、巨大な魔物。






似ている気がするのだ。

あの、林間学習の時に見た、巨大化し凶暴化した魔物のストルプと。

あの時はネアシェが魔法で解析してくれて、初めて魚の魔物であるストルプだとわかった。姿形は大幅に変わり、魔力量ですら違ったように感じた。

ーーーならば、大会に現れたあの巨大生物は普通の魔物が変異したのでは?




「メイルーン嬢?」

「…あら、申し訳ありませんワイス卿。考え込んでしまいましたわ」


声をかけられて思考を途切れさせる。後でいくらでも考えよう。

するとガルフィースがこちらに近寄ってくるのが見えた。


「姉様、ジェシカ嬢が寂しがっていますよ」

「あら、じゃあお話してこようかしら」


ワイス卿に礼をしテーブルへと向かう。






「何の話をしてらしたんですか?」

「ああ、この間の大会の件で礼をな」

「…そう、ですか……」

「…ガルフィース卿、そんなに悔やむな。あの状況ではどうする事も出来なかった」

「いえ…あの時、私は隣にいました。一歩を踏み出せなかったのは、私の弱さです」

「だが君は次期公爵であり、将来私の仕えるべき主だ。あの場で無謀な事をされたら、私が家を追い出されていたよ」

「っ…」

「変わったと業界で評判のメイルーン嬢は時々不思議な雰囲気がある。肝は据わっているようだし、大丈夫だろう」




「…今の姉様は、正直何をやるかわからない。変わってしまって、何をしたいのか良くわからなくなったから。

でも前の姉様には、絶対に戻って欲しくない…そんな矛盾が、自分の未熟さを表すようで…悔しい」


ガルフィースの独り言は、海風に吹かれて誰にも聞かれずに消えた。
















コン、コン、コン


夜。盛り上がったお茶会が終わってバーミリオ伯爵邸より帰り、もう寝る寸前…といった時間に、部屋がノックされた。


「はい」

「お嬢様、ナタリーです。お休みの所申し訳ございません、よろしいですか?」

「ナタリー?…どうぞ?」


扉を開いて入ってきたナタリーは普段着で、どうしたのかと思う。


「申し訳ございません、このような格好で…」

「ううん、大丈夫。どうしたの?」

「早く届けた方がよろしいかと思いまして…シドレ家のネアシェ様より、お手紙です」

「ネアシェから!?」


ぱあっと明るくなるのが分かる。ナタリーもそんな私を見て安心したようで、開封した手紙を渡してくれた。

用はそれだけだったようでお礼を言えばナタリーは出て行った。




「ふふっ久しぶりだなあ、ネアシェの手紙!」


ネアシェとは夏期休暇になってから会えていない。まあシドレ家は中立派閥であるし、家同士が仲良しな訳ではないので当たり前なのだが。






『久しぶり、メイルーン。

領地の視察などが多くて、返信が遅くてごめんなさい。

元気そうで何よりよ。暑さで体力を奪われないように気をつけてね。

そうそう、つい最近皇城でアインルーガ様とお会いしたのだけど、夏期休暇の終わり頃に皇室主催でパーティがあるみたい。

お父様とお母様が参加するために皇都に行くと思うから、早めに来るようだったら学園のテラスを借りてお茶会しない?


この間送ってくれた水連の花のお礼に、視察先で見つけた素敵な所の写真を入れておくわね。


ネアシェ』


手紙と一緒に入っていた写真には、白くて小さい可愛らしい花がたくさん咲く中で、微笑むネアシェが写っていた。後ろには山があり、そこも花で綺麗な色のグラデーションに彩られていた。


「元気そう…良かった。

って…皇室主催パーティ!?」


パーティは夏期休暇中、何度も行なっているし両親は何度も参加している。

だが各貴族で主催したパーティは派閥の影響で大きな規模になる事はないが、皇室主催パーティであれば派閥は関係なく事情がない限り全貴族が参加する。

恐らく皇城を使うだろうし、規模はかなり大きいだろう。


「最近皇帝陛下の体調が優れなかったから、あまり開催されていなかったし。

あっても皇后陛下主催だったからお父様は早々に退散してたからなあ…」


皇后陛下はロンギヌス様派閥の筆頭、というか母であるから当たり前なんだけど。

筆頭なものだから、招待されるのもそちらの派閥が多い。ファクトヒルデ家も礼儀として参加するが、理由をつけて早々に帰宅という状況だった。

失礼というレッテルは対立派閥につけられても痛くも痒くもないからだ。




「確かに早めに皇都に行けば、お茶を飲む時間はあるなあ…お父様に相談してみよう」


手紙を丁寧に机に仕舞い、相談してから返信しようとベッドに横たわった。












それからしばらくして、皇帝陛下からの招待状が届き、夏期休暇の終盤にお父様とお母様は皇都に行く事となった。本来であればお留守番する所なんだけど、今回は皇都へと同行したいとお願いした。

理由を聞かれたので嘘をつくより正直に話そうと思って、ネアシェと仲が良くなって会おうとしている事を話した。


「ネアシェ…シドレ家のご令嬢じゃないか!いつからだ?」

「林間学習で同じチームになって…そこから、良く話すようになったの」

「ふふ、そうか。家柄や人柄も良い噂の方だ、別に隠してなくても良かったんだぞ?」


正直、派閥のために仲良くしてると思われたくなくて隠してた所があったんだけど…お父様からそんな事は言われなくて一安心。

でもパーティで話すキッカケを与えてしまった気もする。


「分かった…というより、我々もこのパーティの前に会合や準備があるからな、2日前くらいには行くつもりだったんだ。一緒に来るかい?」

「はい!」


帝都にある別邸に宿泊するつもりだったようで、もしかしたらお茶会の他に散策なども出来るかもしれない。

その日の夜、早速ネアシェに手紙を書き、ナタリーに手渡した。夏の終わりに、良い思い出が出来そうだ。





「…そうだ、帝都といえば」


ヤクト様やレオニダスは元気だろうか。

帝国有数の病院に入院していた。

この間の事件で重症を負った人々は夏期休暇前に退院出来ず、しかも面会謝絶となっていたから大会から会っていない。

パーティの日付を考えると1ヶ月と半月という所か。流石に退院しているかもしれないが、まだ入院していて面会謝絶でなくなっていなければ尋ねてもいいかも。



「…あ」





私は大会で失態を犯しているのだ。

魔物に襲われ、リンドウ先生に助けて貰った後。


レオニダスに素で話してしまった。


命の危険に晒された動揺、彼が怪我をしていた動揺、無事だった安堵、諸々の理由はあるが、家族以外に素…というか気安い口調で話してしまった。

あの場にいた先生やネアシェ、何よりレオニダスは覚えているだろう、恥ずかしい所の話ではない。



「やっぱりお見舞いやめようかな…」


願わくば退院していて欲しい。





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