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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
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【1】第五幕:貴族に夏休みはあるのでしょうか。





「わあ…!」

「ちょっと、姉様」


眼前に広がる海。

馬車から身を乗り出してしまいそうなところを、ガルフィースに止められた。


「危ないですから。というか遊びじゃないんですよ?」

「あっ、そ、そうだね…」


この世界の海を見るのは初めてだったので、思わずはしゃいでしまった。

今から行こうとしているのは領地内の貴族、バーミリオ伯爵家の邸宅だ。

そう、魔法競技大会で魔法戦に参加していたワイス卿の生家でもある。


「…気になったから来てみたけど、至って平和かな…」

「姉様?」

「ううん、何でもない」




学園は、夏期休暇へと突入していた。











「バーミリオ伯、久しぶりだな」

「お久しぶりです、公爵閣下」


邸宅へと入れば、バーミリオ伯爵と伯爵夫人、ワイス卿と妹のジェシカ嬢が出迎え、メイドと使用人が列をなして首を下げている。

お父様はバーミリオ伯爵と私的にも仲が良いらしく、握手をしていた。


「前に会ったのは春のエータテリア侯爵が開いたパーティだったかな」

「ええ、時が流れるのは早いですなあ」

「そうだな。ほら、お前達も」

「ご機嫌麗しゅう、バーミリオ伯爵。伯爵夫人も先日は紅茶の贈り物をありがとうございました」

「こちらこそ、公爵夫人のお口に合って良かったですわ」


お父様に促されて私達も挨拶をする。お父様は伯爵と、お母様は伯爵夫人と楽しそうに話している。


「ワイス卿、本日はお世話になります」

「ガルフィース卿、メイルーン嬢、ようこそ我が伯爵邸へ。お待ちしておりました」


ワイス卿は妹へと目を移すが、ジェシカ嬢はあわあわと慌てている。

前へと進み出て、ドレスを摘んで礼をする。


「ふふ、はじめまして、かしら。

メイルーン・ウンディーネ・ファクトヒルデよ。真っ赤な頬が林檎みたいな可愛らしいお嬢様、お名前を聞いていいかしら?」

「あ、はいっ!ジェシカ・バーミリオです!

その、お会い出来て光栄です!」


言葉のたどたどしさにどこかの男爵令嬢を思い出してしまって、思わず微笑んでしまう。

ジェシカ嬢は、今まで何か理由があって会っていなかった。というよりバーミリオ家の方が意図して会わせようとしなかったのだろう。

メイルーンも領地の下級貴族に会う必要もないと気にしていなかったが、もし会っていたら虐めていただろう。弱気な人間はメイルーンは嫌いだから。




「…本当に、別人のようですな」

「ん?可愛さは前のままだろう?」

「ええ、むしろ美しさは磨かれたようですな、夫人のような華麗な女性となるでしょう」

「ふふ、お上手ですね」


そんな会話を知る事もなく、私とガルフィースはワイス卿とジェシカ嬢とお茶を飲む事になった。

お父様達は話し合いがあるらしく、短い時間だがお話しておいでと言われたからだ。







「ふふ、景色が良くて潮風が気持ちいいですね!」

「それは良かった」


海を一望出来るテラスで、小さいながら豪華なお茶会が始まった。お母様も気に入っているらしいバーミリオ伯爵領の茶葉はとても香りが良く口当たりがまろやかだ。


「ワイス卿は相変わらず紅茶を淹れるのがお上手ですね、とても香りが引き立って美味しいです」

「ふふ、ガルフィース卿もミルクティー以外飲めないのは相変わらずかね?」

「お恥ずかしながら…この場はお許し下さい」


ガルフィースとワイス卿も何度かお茶した事があるらしく、紅茶の好みもバレているようだ。年上のワイス卿はガルフィースを弟分のように思ってくれて色々世話になっていると馬車の中で言っていた。

ジェシカ嬢もミルクティー、それに蜂蜜も入れていた。メイドがそれとなく準備していたから、使用人達との仲も良いのだろうと思う。


「実は最近ファクトヒルデ家で良く食べられるお菓子がありまして、お持ちしましたの。よろしければ召し上がりませんか?」

「おお、それは是非」


ナタリーが飾り付けしたバスケットをテーブルの中央辺りに置き、ワイス卿とジェシカ嬢があれっ?という顔をした。


「これは…クッキーですか?」

「見た目はそうですが、食べてみて下さい、驚かれるかと」


ワイス卿はジェシカ嬢が恐る恐る口に入れる。


「!」

「これは…不思議な食感ですな!」

「ええ、これは…メレンゲという、卵の卵白を泡だてて作ったお菓子なんですの」

「卵…なんですか、これ…!」


2人ともアレルギーはないと事前に調査し、ファクトヒルデ家のシェフに作ってもらったからちゃんと美味しいはず。

ちなみにレシピを提案したのは私だったりするのだが、我が家のシェフ達はメレンゲを色んな所に使ってみようと試行錯誤中だ。

一つを口に運び、さっくりとした食感と絶妙な甘さに頬が緩む。


「不思議な食感ですよね、私も初めて食べた時は驚きました」

「これはどこかの市販品なのだろうか?」

「いえ、家のシェフの発案したお菓子です」


と、対外的にはなっている。


「凄く美味しいです!」

「喜んで貰って良かった。その内市販品なども出るでしょうけど、よろしければレシピをお教えしますよ」

「ぜひ!」


ジェシカ嬢は大層気に入ったようで、今度お茶会で広めても良いですか!と目をキラキラさせながら聞いてくれた。

私も幼いその様子に和み、軽く許可を出した。後に「メイルーン様が広めてるメレンゲクッキーは庶民も作れる美味しいお菓子」として大ヒットするとは知らずに。







「メイルーン嬢」

「ワイス卿?どうされました?」


しばらくお茶会を楽しんだ後、海を眺めるためにテラスの端で座っていたのだが、ワイス卿がこちらへとやってきた。

ガルフィースはジェシカ嬢と楽しそうにお喋りしている。


「いや、先月の魔法競技大会……貴女がいなければ俺は、いや…競技エリアにいた全員が死んでいただろう。感謝する」

「えっ!」


ワイス卿が深々と頭を下げてきて、思わず慌ててしまう。


「私は何も!リンドウ先生が倒してくれたので…」

「魔物の気を引き、防護壁が破られなければ我々やレオニダスは死んでいただろう。他の者からも言われているだろうが…改めて言わせてくれ」



私が防護壁を壊した、という感じで色々取り除かれた上に誇張された噂が世間に流れているらしく、魔法戦の出場選手はもちろん普通の生徒にまでお礼を言われた大会後を思い出す。



「…でも、大会はあんな幕引きになってしまって…」

「ああ、そうだな…黄チームは敗退が決まっていたが、それでも戦った後の達成感を、与えてやりたかった…」






魔法競技大会は魔物の暴走により中止となり、魔法戦前までの点数を計算して順位を決定した。

というのを聞いたのも、大会から数週間後の事だった。




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