【8】
始まったはいいものの、調合最中は地味…ではなかった。時々煙が出たり火が出たり、魔法で器具が浮いていたり。
さすがは魔法学園、現代の科学実験でもこうはいかないだろう。
最初のお題は「軽傷以上を治す治療薬」だった。これは基礎中の基礎であるため、どれだけ早く作れるかが問題だろう。
「調合って、難しいんですね…わたし、薬品とか薬草とか見ても全然わからなくて…!」
「まああなたは術式すら覚えてないからしょうがないわよ」
「あう…」
「意地悪でごめんなさいね」
悪戯っぽく笑ってみせればミレイユ嬢も拗ねながらも微笑んでくれた。笑顔には主人公の面影があって、ゲームを思い出してしまう。
だが現実に生きている彼女を見てバーチャルを思い出すのはいけない事だと、考えを振り払った。
『おおっと、早い!緑チーム、判定クリア!
第9回目の調合対決は緑チームに1ポイント!』
「くそ!」
「ああーっこれでもう無理だよ!」
チームのみんなが声を上げ、がっくりと項垂れる。
現状で赤3、緑4、黄1。そして我らの青チームは1。今の対決でポイントが入れば、最終対決で同率も狙えたかもしれなかったが、もう3位か4位となってしまう。
いや、
「いや、お前達、諦めるのには早いぞ!」
「ええ、そうですわ、3年前のパターンだと…」
『しかし、最終対決は一味違います!
早い人に1ポイント入るのは確定です!
そして完成した際に残りの分数があった場合、お題をクリアしているとポイントとして加算されます!
30秒につき1ポイント入りますので、まだまだ逆転の可能性はありますよ!』
うおおお!!と野太い声が闘技場を揺らす。
「えと、つまり…?」
「課題を早くクリアすればするほど、1番早いチームじゃなくても加点される」
「ええ、30秒で1ポイントですから…現状の私達だと課題を完璧に最速でこなしてプラス1、残り時間が1分以上あれば首位の4ポイントと並びますわね」
スレイヴ様がミレイユ嬢の隣へと腰掛ける。魔法戦の話し合いは終わったようだ。
「だが…3年前は最終課題が難しくて、そもそも課題クリアした者がいなかった気がする」
「確かに最後の難易度は高かったですけど、ネアシェは出ませんでしたものね…」
「? えっと、ネアシェ様って調合がお得意なんですか…?」
「ええ、ネアシェは調合が好きですし、得意なの」
『では、お題はぁーーーーっ……
睡眠導入効果があり、一見すると日用品の魔法道具!
それではよーい、スタート!!』
開始の音が鳴り、各チーム一斉に動き始めた。ネアシェも数種類の薬品と薬草を作業台へと移動させている。
「睡眠導入効果…つまりは神経系に作用するものか?中等部クラス…下手すると高等部クラスじゃないか」
「そして一見すると日用品ですか…相当難易度高いですわね」
「えっ、そうなんです…?」
「ええ、というか初等部で作れたらそれはそれで問題というか…」
ヒュパッ
「えっ」
「メイルーン、この液体を瞬間的に凍らせて14.3秒後に瞬間解凍してください」
いきなり目の前に現れたネアシェが中身の入った器を渡してすぐに離れた。パタパタと騒がしくないながらも動き回るネアシェと、相方の女子。
そして立っているここは、先程観戦エリアから見ていた青チームの競技エリアだった。
「えっ、ええっ!?」
「メイルーン、お願いします!」
「わ、分かったわ…?」
一瞬にして器の中身を凍らせる。液体だが質量は桁違いに大きかったものだったが、このぐらいなら造作もない。
1、2、と数を数えながら周りを見る。
いきなり私が消えたからかミレイユ嬢やスレイヴ様が慌てていた。恐らくネアシェがヘルプを使ったのだろう。話していて競技を見ていなかったから突然だった。
「その青緑色の薬草は形が残らないようすり潰して下さい、手で掴めるくらい粘度が上がったらくださいね」
「はいっ」
相方の女子は平民の子だったが、ネアシェの言うことを良く聞いているようだ。
ネアシェは真剣な表情で作業台の上で分量を計りながら刻んだ薬草を器に入れている。
よし、13.……14.3秒!
「ネアシェ!」
「ここに入れてください!ゆっくり!」
瞬間解凍し、液体へと戻す。ネアシェが薬草を入れていた器にゆっくりと注ぎ入れれば、シュウシュウと音がして少し刺激臭がした。
「…さっき、目を離してたでしょう。来た時驚いてましたものね?」
「ふふ、お喋りしてたわ。でも応援もしてたわよ?ネアシェなら出来るわよって」
「あら、それは頑張らなくちゃ」
ヒュパッ
液体を注ぎ終え、器を置いた瞬間に観戦エリアの元の場所へと戻った。
「メ、メイルーン様!びっくりしましたよお…!」
「ああ…ヘルプで呼ばれたんだな」
「ええ」
「ファクトヒルデ!ネアシェ嬢の様子はどうだった?出来そうだったか?」
ロンギヌス様がこちらにやってきて、少し心配そうに尋ねて来た。
私はにこりと微笑む。
「…もう、出来るみたいよ」
「「「!!?」」」
『おっと、おっとぉ!?これはなんと言う事だ!!』
興奮したようにアナウンスが叫ぶ。
『青チームのネアシェ嬢!先生を呼んで……!?
オーケーが出た!
タイムは、残り時間3分ーー!!?』
「なっ…!!」
「ネアシェ様…凄い…!」
「………」
見ていた全員が驚き、興味なさげであったヤクト様すら少し目を見開いていた。
他のチームの方々も焦りながら調合するが、全く進歩しないようで時間切れとなってしまった。
『青チーム、最後に大量得点をゲット、そして合計8ポイント!
調合対決の勝者は、青チームだーー!!』
ワッとチームみんなで歓声を上げ、喜びを分かち合った。
競技エリアで汗を拭きながらこちらに向かって微笑むネアシェに、思い切り手を振った。はしたないかもしれないけど、許して!こんなに嬉しいんだもの!




