【6】
「僕たちのチームで魔法戦でまともに戦えるような人間は限られている。魔物ではなく、人間を明確に傷つけられる意志のある者と言えばいいかな。
ご令嬢は勿論、男子達も怯えて動けないだろう、情けない事にね」
魔法戦では、体力の代わりに擬似体力を利用し戦う。傷つけ合っても本当の体力、つまり生命力は減らない。ただ痛みや衝撃、熱力などの概念はそのままだ。
魔法競技大会が学園の外にある室内式のドームで行われる。そのドーム内の特殊な術式により擬似的だが本格的な戦闘が行えるのだ。
「私も対人戦闘に慣れている訳ではありません」
「僕は君の場の制圧力を買っているんだよ。水のフィールドでは敵無しだ」
「お褒め頂きありがとうございます、ですが対人戦は不慣れだと言っているのですが?」
「そこは僕の出番かな。頑張るよ?」
「私はただの火消しになるのは御免です」
「火が大きければ火消しも有名になるさ」
「それから、姉様に押し付けた事…絶対に許しません」
ガルフィースの声は冷え切っており、先日テラススペースで見せた幼い様子はなく次期公爵に相応しい毅然とした態度だ。
美少年の鋭い態度など、ある業界ではご褒美…ごほん。私の事を気にしていたみたいで嬉しい限りだ。
「むしろ姉君や君達の派閥に発言権を与えたと思うんだけどな?」
「あなたが自由に出来るようになった、の間違いでしょう?」
そう、ロンギヌス様がこちらにつきっきりな分、他の競技参加者などをヤクト様は操作し、こちらの派閥や平民の方々もチームに組み込んだのだ。
もちろん、体力を使うものは変わらず平民のみなのだが。
「そんなに邪推しないで欲しいな、チーム一丸となって良かっただろう」
「チーム一丸…?」
「ふふ、チーム内で分離している時よりマシだと思うけど」
くすくすと軽やかに笑うヤクト様に裏心はないのだろう。だからこそどこまでも底知れず考えが読めない。
「ガルフィース、ヤクト様」
「姉様!」
「やあ、メイルーン嬢」
影から出て声をかける。2人とも意外そうだったので気付いていなかったのだろう。
「姉様、どうしてここに?今はミレイユ嬢と共にいるのでは?」
「今は休憩中よ。図書室に資料を取りに行こうと思って」
「ミレイユ嬢の様子は如何ですか?」
「まだまだですが、大会までにはそれなりになるかと」
「へえ…?」
まるで信用してないヤクト様の顔。
ですが私には、もうルートは見えているのですよ。伊達に高難易度で全キャラクターのトゥルーエンドクリアしてる訳ではないのだから!
「まず魔力をほぼ空っぽにするレベルで魔法の修練をします、それも3日連続で。そして1日休み、また3日続けて修練する、というのを繰り返します」
「1日休み…ですか?」
「ええ。1日休みを挟む事で効率化を望めるのです」
3日修練で1日休息日…というのは、ゲームシステムで効率が良い方法だった。
蒼海の奏者の高難易度には疲労値というものが存在する。疲労状態になるとステータス低下はもちろんのこと、経験値上昇がそこそこ阻害されるのだ。
4日続けて戦闘や育成を行うと疲労状態になる確率が高いため、3戦1休が考えられている上で1番良い方法だ。ハプニングイベント等があるとその限りではないのだけど。
この現実となった世界で効果があるかは謎だが、疲労というものはたしかに存在するから、この方法が良いはずだ。
「その1日は好きにして頂いて構いません。ただし戦闘行為はしないこと」
「は、はい…!」
修練開始から数日、ミレイユ嬢とはそれなりの時間を共に過ごしているのだが、未だに距離は縮まっていない。
それというのも…
「3日続けてなど、むしろ効率が落ちるぞ?」
「ああ、ミレイユの体にも良くない」
この2人のせいである。
口を挟んでくるせいで話が出来ないのだ。だがこの人達の習性も分かってきた。ロンギヌス様はただ自分好みの女性でなくなる事を恐れて衝動的に言葉を口にするだけで理論的に返されると弱いし、スレイヴ様は単にミレイユ嬢が最優先なだけだ。
スレイヴ様は自身も魔法戦に出る予定なのに修練や連携の確認などしていないので、大丈夫だろうかと思う。
早くミレイユ嬢を魔法戦の連携確認が出来るくらいにして合流させなければ、チーム戦どころじゃない。
「ではこの修練を毎日行いますか?それこそミレイユ嬢の体が持たないと思いますが」
「3日連続が長いと言っているんだ!」
「それでは魔法戦まで間に合いません。いいですか、ロンギヌス様、スレイヴ様?」
詰め寄る2人にこちらから睨みつける。
「私は魔法戦で勝とうが負けようが痛くも痒くもありません、チームリーダーでもありませんから名声にも響きませんし。
静観してても良かったのですが、今となっては魔法戦に巻き込まれるミレイユ嬢やチームメンバーへの同情で修練を行なっています」
「同情だと!?」
「ええ、他チームのメンバーは精鋭です、もう情報は出てますよ?」
他3チームのメンバーはロンギヌス様派閥の暗躍により情報が流れて来ているが、学園内でも名の知れた魔法使いを組み込んだ本気で勝ちに来ている状態だ。
いくらロンギヌス様派閥の方が暗躍しても魔法戦には影響がないくらい。
「ミレイユ嬢が真っ先に攻撃されチームが瓦解するリスクを除くためにも、レベルアップは必須です。
それに水の魔法使いに求められるのはあのレオニダスの抑制でしょう?」
「し、しかし…」
「それに彼の魔法を押し込められたら、少しはミレイユ嬢の評価も上がるでしょう」
「!」
ミレイユ嬢は驚いてこちらを見るが、主人公ならそういった事も可能な筈だ。頷いて差し上げれば、ミレイユ嬢は私と向き合う。
「わ、わたしっ強くなりたい、です!」
「ミレイユ…?」
「ロンギヌス様の、お力に…なりたい、です!」
ミレイユ嬢の目には決意が灯っていて、本当にそう思っているだろう。評価の上昇とは名声であり、ひいては共にいるロンギヌス様の名声ともなる。
ロンギヌス様は複雑そうだが嬉しそうであり、スレイヴ様は悲しそうな顔をしていた。幼馴染を取られた気持ちなのかしら…?
「でしたら、精一杯精進なさい。先程言ったように、私はどちらでも良いのだから」
「メイルーン様、は。根気よく教えて、くださっています!これからもっよろしく、お願いします!」
顔を赤くしたミレイユ嬢は頭を下げ、私も頷いた。
ミレイユ嬢の意思に負けたのか、その日はロンギヌス様とスレイヴ様が修練に口を出して来る回数が減った。
そして…この数日、共にいて確信したのだが、このミレイユ・アーバハンは。
派閥内の虐めや派閥外からの批判に負けず口を閉じ、悟らせないよう振る舞う。泣いたりするのは1人の時だけで、親しい人にはいつも笑顔を見せようとする健気な子だ。
ゲーム主人公の性格そのままであり、救国の聖女と言われてもおかしくない人であった。
だからこそ。
彼女が公爵家になる事も聖女になる事も、自らの破滅を防ぐために可能性を潰そうとしている私は、どうしようもなく悪役令嬢なのだろう。
「準備ハ出来たか?」
「アあ、とドこおりナく」
「あとハ、来たルベき日を待ツだけ」
「こどモを手にカケるのはコこロ苦しイが」
「スベては、ーーーーーのゴイし」
「ーーーーーに、ヤすらギヲ」




