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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
37/125

【5】




「集中して、魔力の流れを真似して。この速さに慣れませんと、戦闘なんて出来ませんわよ」

「う、くっ…!」

「闇雲にやらない!最初は真似しなさい!」

「は、はいっ」


ミレイユ嬢の修練を手伝う、というこの状況。見ようによっては悪役令嬢の虐めにも見えてしまうのは、分かるのだが。

ロンギヌス様とスレイヴ様の視線がとてつもなく痛い。

だが言動が鋭くなってしまうのは許して欲しい。


「自分の魔力を利用し術式を構築して初めて魔法へと変換出来るのです、術式構築が最重要なのですよ?」

「は、はい…」


ミレイユ嬢は魔法発動に必要な術式構築が遅すぎる。

言ったように魔法は魔力を術式へと流し込み初めて発現出来る、例えるなら電化製品だろうか。魔力は電気、術式は製品、製品に電気が通る事で電化製品は本来の役割を果たす。

術式によって必要な魔力量は違い、つまり魔力が強くても術式構築が遅いのは致命的なのだ。

しかし、


「まあ、最近覚えた割には上等ですか…」





諸々の理由からメイルーンは前年度ばっちり虐めている、という諸々の理由でもあるのだが、ミレイユ嬢は体が弱く休みがちなのだ。最近こそ良くなったらしいが、昔はもっと休んでいた。

故に授業などはあまり受けられなかったらしい。ただ本で見た事はあるようで、見せれば属性や発動する魔法の名前は知っていた。病床では本ばかり見ていたらしい。

だから今はひたすら術式構築の実践を行なっている。


「はい、気を緩めない!」

「はっはい…!」




ゲーム本編では、主人公は内気ながらも健気で、親しくなるにつれて雰囲気が柔らかくなる。みたいな性格だった。

乙女ゲームでは珍しい性格だったらしいがキャラクターの誰かに、護りたいと思わせる天性持ちだよね、みたいに主人公が言われていた。

確かにゲーム本編の主人公は全員護りたいからと告白されてた気もする。そして主人公もキャラクターを護りたい…という感じで相思相愛になっていた。

しまった、思い出してしまった。


「ふぐっ…」

「メ、メイルーン様?どうか…なさいました、か…?」

「い、いえ、何でもないわ」


ミレイユ嬢越しに見える攻略キャラ2人が目に入って笑ってしまった。ロンギヌス様もスレイヴ様も攻略した事があり顔も良いので胸が高鳴る事もあったのだが、最近の出来事でもう過去の思い出と化している。

あとヤクト様も。あの方に対しては殺意すら湧いてるくらいだわ。今頃チームと話し合いをしているだろう、話を遮るお邪魔な方はここにいるから。






「はい、休憩にしましょう」

「はぁっ、ふう…」

「ミレイユ!」

「大丈夫か、ミレイユ」


パチンと指を鳴らし術式を消す。術式を発動させずにキープするのって結構難しいのよね、制御が得意だからまだ何となっているけれど。


「ひたすら反復する事、それが重要です。一先ず今くらいの難易度の術式であれば、すぐに構築出来るようになって頂いてスタートラインですわ」


私が真似させたのは水属性単体魔法、水の槍(アクアニードル)。水属性魔法の基礎中の基礎だ。

ミレイユ嬢は水の槍は発動出来るのだが、術式構築がまるでなっていないから発動するまで時間がかかる。


「お前、基礎に何時間かける気だ!」

「出来るまで、と言ったはずです」

「このままでは今日は何一つ進まない!」

「それは私の責任ではございません。それと今の発言、ミレイユ嬢を傷つけていますよ?」

「なっ、ミ、ミレイユ!」


ミレイユ嬢は落ち込んだ表情で地面へと座り込んだ。集中し過ぎて疲れたのだろう、男子2人があわあわと騒いでいる。


「申し訳ございません…ロンギヌス様…スレイヴ様…わたしが、力不足なために…」

「ミレイユが頑張っているのは知っている、無理だけはするな。いつでも辞めていいんだぞ」

「ああ、お前が心配だ」




あそこの3人を見ているとゲーム本編を思い浮かべてしまうのはしょうがない。

スレイヴ様は幼馴染で伯爵家と男爵家ながら友好関係を築いており、幼い頃にいつか共になろう、と口約束していたはず。しかし主人公が公爵令嬢となり距離が離れつつあった…みたいなストーリー展開だった。

ロンギヌス様は皇室競争に辟易していた幼い頃主人公に優しくされて一目惚れ。それからは男爵家から位を上げようと裏で工作するが上手くいかず、それが主人公に発覚し喧嘩してしまいゲーム本編の最初はどこかよそよそしい感じなのだ。

2人とも最初は距離を置いていて、ストーリーが進むにつれて昔の恋心を再び取り戻し甘々な態度を見せていく…という乙女ゲームをなぞらえるような展開になる。






「…そんな所に座り込んでると回復しませんわ、あちらのベンチでもご利用なさい」

「は、はい…」


そしてこの時代のミレイユ嬢は、まさに内気で健気と言っていい。最初こそ私の事を恐れてガチガチだったが、今は必死に修練に取り組んでいる。あと言葉が上手く出て来ないのは会話が不慣れだからのようだ。


今のところ顔色は悪くない。病弱の女子、というのはそれだけで虐めの対象になったりする。可愛らしさも相まって男子がちやほやするのもそうだし、何より皇太子から寵愛を受けているのだ。男爵位がお姫様扱いされるのにも腹に据えかねるのだろう。

メイルーンは男爵位の癖に生意気!ロンギヌス派閥の弱点!という感じで気軽に虐めていた。姿を見せないような陰湿な形でだが。




「今日は水の槍の術式構築がスムーズに行えるまで修練しますので、そのつもりで」

「待て、これ以上ミレイユに無理をさせるな!」

「このままでは間に合いませんので」

「体調を崩したらどうする!」

「一度は任せられた身、私の計画通りにいきます。それとも皇太子殿下ともあろうお方がご自身の発言を撤回されるのですか?」

「くっ…!だからこんな汚らわしい魔女に任せるのは反対だったんだ!」




ーーーだから任せる事許可したのはあんたでしょうが!

というように叫びたかったが、これ以上言うと面倒くさくなる事はもう実証済みだ。ここは精神年齢16歳の私が飲み込んでやろう、と上から目線で考える。

そしてミレイユ嬢も、主人公のポテンシャルがあるならこのくらい簡単に出来るはずだ。


「……この状況も面白いわね。悪役令嬢がステータス強化を手伝ってるって…」

「? はい…?」

「いいえ、何も。少々席を外しますわ」


私がいると十分に休めないだろうと思い離席する。このついでに図書室で術式構築の本も借りてこようと考える。本で術式の種類を覚えたなら本で教えた方が修練が早いかもしれない。

移動しようとした時、廊下の先から声が聞こえた。








「考え直してくれないかい?君も下位になるのは嫌だろう?」

「お断り致しますと何度も言っています」


ヤクト様にガルフィース。軽薄な方と生真面目な弟は相性が相当悪いのだが、廊下の見えにくい所で話しているようだ。

足音を立てないように近付き会話を盗み聞く。







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