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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
36/125

【4】




そして、数日後。

魔法競技大会が数週間後に迫る中、私は最大の山場に差し掛かっていた。










「お前、よくもぬけぬけと俺の前に顔を出せたな!!」

「はい?」


声が、大きい!圧が、強い!

現れてすぐこんな事になれば、そりゃあ誰でも驚きますよ!

メイルーンは何でもないように見せかけてるけど、心拍数めちゃくちゃ早くなっている!









競技大会が近いため、授業よりチームミーティングやチーム練習に割かれる時間の方が多くなってきた。

授業であるチームミーティングに参加しようと教室を移動して中に入ったら、これだ。ロンギヌス様がこちらを睨みつけ、指差して来た。無礼ですよ。


「アインルーガに捨てられた可哀想な女だと思って見逃してきたが、もう許さん!」

「はい…?あの、」

「性悪女は何度痛い目を見ても治らないようだな、汚れた魔女め!」

「ですから、」

「口を聞けると思っているのか!大人しく断罪されろ!」


ーーーもう諦めてもいいかしら。

ゲーム本編で成長したこの方も最初はこんな感じだったけれど、まだ大人しい方だった。この幼さと混じってこの年齢のタチの悪い感じ、本編以上だわ。

キーキーやかましい声が耳障りなのだけど…要約すれば、青チームの悪評と、ミレイユ嬢への虐め。全て私のせいになっているらしい。だが悪役令嬢断罪イベントにしては、質が悪すぎる。



「ちなみに、悪評とはどのような…」

「我々のチームは瓦解寸前であり、チームワークはないに等しいと!チームで戦うものは負けるしかないと言ったらしいな!」

「言ってな」

「だが我々の団結に揺るぎはない!そうだろう!!」


おお、とチームから声が上がる。

皆さま、バラバラですし目を逸らしてるんですが。


「そしてミレイユに対する悪行、絶対に許さん!!」

「根拠は、」

「複数の令嬢達がミレイユに対する事故と思えない事態をお前が操作していたと証言している!!」


チラリと横を見れば、ユーグリッド嬢や複数の令嬢達がニヤニヤと笑いながらこちらを見ていた。

確かに、ミレイユ嬢の魔法を鍛えるためにあれから継続して罠を仕掛けてはいる。だが直接的な怪我をするようなものはしていないし、むしろ虐めようとしていた令嬢を追い払ったくらいなのに。


「この方々だけですか?」

「そうだ!これだけの人数に見られていてシラを切る気か!?」

「ですから、」

「この場で土下座し謝罪せよ!」


ーーーコイツは人の話を遮らないと会話が出来ないのか!?




口汚くなるのを許して欲しい。遮られるわ、うるさいわでだいぶイライラしてるのだ。

というか令嬢達は見ても見てなくても1番偉いのに従うんだから黒も白になるし白も黒になるのは当たり前だ。




「…ミレイユ嬢」

「は、はいっ」

「あなたはどう考えるのかしら」

「え、と…」


私とミレイユ嬢の間にロンギヌス様とスレイヴ様が割り込む。

ああ…なんだか本当に断罪イベントじみて来た。笑えるほど難易度が低いけれど。







「お前、ミレイユをまた脅そうと…」

「まず、悪評に関してですが」


ピシャリとロンギヌス様の言葉を遮る。不敬ではあるが、このまま黙っている訳にはいかない。


「噂を流したのは私ではありませんが、内容に関してはほぼ事実かと。ロンギヌス様、競技チームに直接指導して回っているそうですが、指導の度に練習が逐一止まるのは大変効率が悪いですわ」

「なっ…」

「というか指導と言いながら、毎日言っていることが二転三転してますわ。それではチームにまとまりが出来る筈もございません」


今度は私がロンギヌス様を遮って言葉を連ねる。大きな声を出すのは一苦労だが止まってはいけない。


「それからミレイユ嬢に関してですが罠を仕掛けていたのは事実ですわ」

「お前…!」

「魔法戦に参加するには実力不足に感じまして。罠を避けるためにまだまだ修練は必要ですが水の槍(アクアニードル)も使えるようになりましたのよ?ねえ、ミレイユ嬢」

「え、は、はい」

「そういえば罠を仕掛ける際にそこにいるご令嬢でミレイユ嬢の鞄の中身を庭園に投げ捨てた方がいたのだけれどあれも修練のための行動なのかしら?」

「ひっ…」

「この映像を取り込める魔石に記録してあるのだけど、あら手が滑って再生してしまいそうだわ?」


令嬢達が一気に慌て出す。ユーグリッド嬢は眉を顰めてこちらを睨みつけるだけだ。

ロンギヌス様は一気にまくし立てられて処理に時間がかかっているらしく固まっていた。そんなではお先が知れるわよ?





「…まあ、まあ、皆さん落ち着きましょう」


混沌と化した場を止めたのはヤクト様だった。相変わらず軽薄な笑みを浮かべているが、どこか今までより楽しそうですらある。


「ロンギヌス様、確かにミレイユ様の件に関しましては私も把握していました。メイルーン様は魔法戦の事を想いミレイユ様に罠を通して修練をしていたのですよ」

「………」

「かっ、勝手な事をするな!」

「…ミレイユ嬢は魔法戦に不慣れなようでしたので、実戦が1番かと思いまして」


どうやらこの方向で事態を収拾しようとしているようだ。乗ってあげて早くこの無駄な口論を終わらせたい。


「ミレイユ様、いかがですか?」

「あの、えっと…魔法を上手く扱えるように、なりました!」

「だそうです。ここは、ミレイユ様のより一層の修練を行うため、メイルーン嬢に引き続きお願いしませんか?」

「修練といって、ミレイユが傷ついたらどうするのだ!」

「それではロンギヌス様もご一緒にいて監視すれば宜しいのでは?」


ーーー面倒な所を押し付けたな、この人!?


「ロンギヌス様、わたし、わたし…もっと魔法、上手くなりたい、です」

「ミレイユ……だが、敵になど…」

「悪評を広めたかどうかも監視出来て一石二鳥では?ロンギヌス様がいればどうも出来ませんよ」

「ふむ…」


ヤクト様は私の言った事を忘れさせるかのように、言葉を連ねて自分の思い通りにした。

確かにミレイユ嬢と私につきっきりになれば他のチームも練習出来るし、ミレイユ嬢の戦力向上も出来る。


「それと」

「っ!?」

「姉様っ!」


手に衝撃が走り、思わず怯む。手の中にあった魔石はいつのまにか背後にいたヤクト様の手の中にあった。

ガルフィースが睨みながら間に入るが、ヤクト様は笑みを崩さない。


「おっと、申し訳ない。魔石を壊してしまったようだ」

「…壊した、の間違えでは?」

「いやいや、とんでもない。麗しい令嬢方の姿が記録されてると聞いたから、少し力が入ってしまったんだよ」


これで他の令嬢がミレイユ嬢を虐めていた証拠は消えた。先程の話ではミレイユ嬢が1人になるタイミングはもうなさそうだから、証拠はもう捉えられない。

ほぼ私がミレイユ嬢を修練する事が確定し、ロンギヌス様も納得しそうだった。気をつけていたけど速すぎてヤクト様の証拠隠滅を阻止出来なかった。


「ロンギヌス様、いかがですか?」

「…いいだろう!ミレイユの望みであれば致し方ない、メイルーンに挽回の機会を与えてやる!

だが俺とスレイヴも監視に着くぞ!」

「…御意」


ーーー面倒なのまとめて来た…。


ヤクト様が見えないように笑ってる。嘲るように、面白くてしょうがないというように。




あの人…相当曲者で性格悪いわ。




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