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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
35/125

【3】




主人公は数々の苦難を乗り越えて自分を磨き、攻略キャラと愛を育み、成長していく。それが蒼海の奏者。




その数々の苦難というのは闇の魔法に心奪われたメイルーンによって創り出されたものだったが、それは主人公を成長させるキッカケとなるのだ。







バシャン!!


「きゃあっ!」

「…制御はまあまあね…反応が遅すぎるわ」


バケツがひっくり返り、床に水が流れていく。ミレイユ嬢はそれを水の魔法で元に戻し、去っていった。

床に水分はあまり残ってないから、制御はマル。床に落ちる前に止められなかったから反応速度はバツ。




「さて、ステータスはこんなものかしらね」


バケツをひっくり返したのは勿論、私。メイルーン・ウンディーネ・ファクトヒルデだ。

何もやりたくてやっている訳ではない、ステータスを測るためにやっているのだ。

行動は悪役令嬢だって?知ってますわ。


「ステータス低いわね…まあ、当たり前か。本編前に育ててあってはいけないもの」


コソコソと廊下の影に隠れて調査して書いた紙を見る。制御と魔力はともかく、それ以外は相当低い。端的に言うならドジっ子だ。


「魔力があって制御出来るなら、それなりに扱えるはずなのよ…やっぱり、魔法発動までの構築と時間が…」

「何やってんだお前」

「ひゃわっ!?」


ブツブツと考えをまとめていたところに声がかかる。


「レ、レオニダスさん」

「なんかブツブツ唱えて…何かあったのか?」

「い、いいえ、色々考えてたら言葉に出ていたみたいですわ」


おほほ、と引きつった笑みを浮かべてしまうが、さっさと退散してしまいたい。


「…お前、てか青チーム、大丈夫かよ?」

「はい?」

「あんま良い噂聞かないぞ?」




あれから数日経っているのだが、青チームは相変わらずだ。チームミーティングでもロンギヌス様が独善的に進め、競技に参加する人を次々に決めていった。魔法競技大会の競技前までメンバー変更は可能なのだが、変える気もないだろう。

耐えかねた平民の方が意見した日にはもう、ミーティングが皇族や貴族の自慢説明会に変貌したのは有名な話だ。


「まあ、それなりに。噂は噂でないとだけ言っておきますわ」

「…アインルーガが、心配してたけど」

「アインルーガ様が?ありえないでしょう」

「はっ?」

「公爵令嬢ならばこういう事体に対処できて当たり前ですもの、アインルーガ様も何度も見ているはずよ」


貴族社会はルールとしがらみに満ちている。

所詮我々はまだまだ子どもであり、大人の方々と並び立つなど無理なのだ。メイルーンは悪役令嬢だがその辺りの立ち回りはしっかりとしていて、大人の前では従順に演じていた。

だからこそ両親の寵愛を受け、摘発されても大人を味方につける術があったのだ。


「あなたこそ、魔法戦に出るのでしょう?一昨年のようにならないよう、気をつけた方がよろしいのでは?」

「フン…今年は集中攻撃されようと、負けねえよ」





一昨年、他3チーム…それも6年生4人で編成されたチームに集中狙いされ、レオニダスは倒れた。

それも当時3年生の時の出来事で、チームは各学年から1人ずつ選出されており1年生の子を庇ったのだ。その子はレオニダスが庇っていなければ大怪我をしていただろう。

そして思い出される、アインルーガ様の反応。卑劣な行動をする人々に対する、静かで激しい怒りを孕んだ彼に、メイルーンは初めて恐怖した。


「精々気をつけてくださいませ、あの時のアインルーガ様の顔はもう見たくありませんから」

「分かってる。何か競技には出るのか?」

「今のところは出ませんわ。障害物競走に出ようと思ったのですけど…弟に止められまして」

「障害物競走…お前が?」

「ええ」


現代では良く参加していた、障害物競走。足の速さはあまり関係ないし重要度も高くないからキツイ競技からの逃げとして使っていた記憶しかない。

ふはっとレオニダスが思わずと言ったように吹き出した。


「くっ、ははっ!」

「…なんですの?」

「お前、あんなキツイ競技に参加する気だったのかよ、マジか!あははっ」

「キ、キツイ…?というか、笑いすぎです!」


笑いすぎで涙すら出ているレオニダス。きつめの印象を与える目元が緩み、瞳の紅は澄んでいてどこまでも綺麗だ。

……くそう、イケメンだな。攻略キャラはやっぱり美麗画像感を感じてしまって胸が高鳴るのはしょうがない。





「だってさ、参加したくない競技ダントツ1位だぜ?魔法で障害物破壊したりとかさ、魔法なしで壁越えさせられたりとか」

「………」


ハッ、と気付く。障害物競走を現代の光景として思い出していた。しかしメイルーンの記憶の障害物競走は、確かに過酷だ。

レオニダスの言っているように巨大な障害物を破壊しろとか、素手でのウォールクライミングとか、動き回る標的を捉えろとか、異空間の中に手を入れ目的の物を取れとか。

魔法が有るが故に性質がまるで違う。弟よ、止めてくれて本当にありがとう。




「…まあ、やりたい訳ではなかったというか…気まぐれですわ、気まぐれ!」

「くくっ、本当か?」


あの林間学習から、私に対する接し方が変わったように感じる。

まだ嫌味は言ってくるし煽ってくるのだが、なんというか…貴族としてのメイルーンではなく、1人の人間として接してくれている感じがする。

貴族に対する鬱屈感がなくなった、と言えば良いのか…良い事ではあるのだが、なぜ嫌味などは継続するのか。

魔法を笑ってしまったから、というならそろそろ時効でも良いのでは?でもここまで来るとガルフィースにも言ったように性格的な問題な気がする。


「っと、もう時間か、じゃあな」

「ええ、ご機嫌よう」


レオニダスは時計を見て慌てて去って行った。動きやすそうな服だったから、これから魔法競技大会の練習にでも行くのだろう。







「…はあ、レオニダスさんのせいで見失いましたわ」


ミレイユ嬢が去った方向へと向かう。

今日は後1項目、武器に関しても埋めたいのだ。

主人公の武器は選択性であったため、ミレイユ嬢が何を使っているのかを知りたい。


「…メイルーン嬢」

「! あら…スレイヴ様」




スレイヴ・リットマン。

リットマン伯爵の長子であり、槍の名手とも言われる。そして攻略キャラの1人であり、ミレイユ嬢の幼馴染でもある。

寡黙な方でその声を聞いた事はほぼないため、話しかけられて驚いてしまった。


「ご機嫌よう、どうかなさいました?」

「…先程、レオニダスといたようですが、何を話していたのですか?」

「クラスメイトですし、世間話ですわ。何か問題でも?」

「いえ…特には」


スレイヴ様がレオニダスを敵視しているのは知っている。確か魔法戦の5年性の枠のもう一つは彼になったはずだ。


「…情報を漏らさないよう、お願いします」

「…世間話、と言ったのだけれど。それにあなた方だけで裏で色々決めているのでしょう?」

「…!」

「私から情報は漏れませんわ、注意するならご自身の派閥の方になさったら?」


お喋り雀の令嬢達とか、特にね。と思うが、そこまで教えて差し上げる義理はない。

ロンギヌス様の派閥内で勝手に決められた者が不満を漏らし、噂となっている。レオニダスの言っていた良い噂を聞かない、はここからきているのだろう。




「そうそう、それとあなたの幼馴染の方なのだけど」

「! なんだ!」

「最近、1人行動が多いのね?ロンギヌス様が他の競技練習など視察しているからだろうけど…」

「貴様…ミレイユに何かしたのか!?」


寡黙で言葉少なだったスレイヴ様がいきなり吠える。あらあら、さすが1番難易度が低いと言われる攻略キャラなだけあって、好感度が最初から高いわね。


「いいえ、何も?」

「くっ…!ミレイユに何かあれば、タダではすまないと思え!」


スレイヴ様は走り去っていった。




ーーーまさか、使い古された台詞を言われる日が来るとはね。







「……スレイヴルートで同じ台詞をメイルーンに言っていた気がするのだけど、気のせいよね」


うん、気のせい。


………気のせいと信じたい。信じさせて……。


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