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蒼海の奏者  作者: 鮭いくら
第1章
34/125

【2】




「平民ながら天才児と言われるレオニダス君…彼を抑えるためにはどうしても卓越した水の魔法使いが必要だ。彼の代名詞である火属性魔法を封じるためにね」

「そちらにも水属性の魔法使いはいるでしょう」

「卓越した、と言っただろう?」


ヤクト様は軽薄な笑みを浮かべたまま言葉を連ねて来る。腹の底が読めない方だが、状況的に無理だと分かっているだろう。


「まあ水魔法使いで上位にいるのは認めたとして、ロンギヌス様が許可するとは思えませんわ」

「大丈夫だよ。勝つためのチーム編成を任せられたから」


つまり勝つために私をチームに入れたと屁理屈を言って押し通すつもりだろうか。

はあ、と息を吐く。




「私にメリットがありません。お断りします」

「おや、悲しいな。先程僕の負担が増えると心配してくれていたのに」

「メリットが、ありません」


魔法戦は最終種目で注目を浴びて名声に繋がりやすいのだが、魔法を使った本気の戦闘なので毎年怪我人が続出する。貴族や平民など関係ない、本当に実力のみで戦う場なのだ。

対抗するために出て怪我をするつもりはない。そして必要のない戦闘はしない、いや…出来ないが正しいか。


「最近、噂になってるんだけど…君は授業などでレオニダス君と競い合っているそうだね?」

「はい…?」

「それで負け続きだとか。公爵令嬢としてはどうなんだろう?」


ネアシェの方をチラリと見ると、困ったように頷いた。つまり、競い合っているという噂は本当にあるのだ。






競い合っているというか。

レオニダスが授業などで一々嫌味を言ってくるので、ムキになって反抗したりする事はあった。

……あ、競い合ってますね。


「ふう…正直に申し上げますけれど」

「なんだい?」

「私は、魔法戦には出ません。なぜなら…」




魔法で人を傷つける事が出来ない。魔物ですら躊躇う私に、人相手なんて魔法を放てる訳がない。

競い合って傷つけ合うなら割り切る事も出来るけれど、多分この男は。


「一昨年のように、集中攻撃してレオニダスさんを倒す予定でしょうけど、そういった行為は嫌いなんですの」




レオニダスを倒すためだけに、水属性を中心とした魔法戦の構成にしようとしている事は知っている。なぜならレオニダスさえいなくなればヤクト様1人で全てを制圧出来るからだ。

ヤクト様はロンギヌス様派閥の方、ロンギヌス様がチームリーダーであるから派閥の方は絶対に青チームに勝とうとしない。それどころかチームが違っても青チームを勝たそうとすらしてくるだろう。

ふふ、と初めて軽薄そうな笑いから心から笑っている顔になった。しかしその顔はおおよそ貴族らしい、人を嘲笑うかのような醜悪な顔だ。


「目障りなのは先に片付ける。今まで君がやっていた事じゃない?」

「去年までは、ね?敵対している令嬢を煽って引き込もうとするくらいなら、他の方々の修練でも手伝ってさしあげれば?」

「おやおや、5年生になり変わったというのは本当のようだ。その原因に些か興味はあるけど…しつこいのは柄じゃない、ここは引こうか」


にっこりと微笑んであげれば、さすがに諦めたのか私からネアシェへと視線を移した。

ネアシェも同じく微笑み、ご遠慮致します、と言われる前に断っていた。ネアシェはしつこく勧誘する気がなかったようで、ヤクト様は挨拶をしてすんなりとテラススペースから出て行った。





「…ふう、さすがは次期テラウィリス家公爵様ですわね。人の話を聞かない所がそっくりですわ」

「皇后陛下の血筋で、ロンギヌス様とは親戚ですものね」




皇帝陛下の正室である皇后陛下は元々シルフを戴く四大貴族のテラウィリス家令嬢。

現公爵様の妹君に当たる方だ。故にロンギヌス様の後ろ盾となっているし、ヤクト様とロンギヌス様は従兄弟である。






「ですが、ヤクト様の言い方…というか形振りの構わない点は、異常ですわ」

「ええ、派閥闘争の矢頭に立っているメイルーン様と共闘しようと持ちかけるのですもの」

「まあ、ロンギヌス様の影響でしょうけど」


ロンギヌス様は林間学習にて目覚ましい成果を残していない。そして当たり前だが1日目の段階で暴力的な手段をとったとして悪評さえ広がってしまった。

故に1学期の締めとなる魔法競技大会で成果を見せなければならないのだろう。




「ヤクト様は大変でしょうが…私は私で、青チームのアインルーガ様派閥を守らなければ」


ロンギヌス様に罵られ貶されるであろう他の貴族や平民の方々を庇えるのは私しかいない。ネアシェは中立的な立場であり、協力を望む事は出来ないのだ。

彼女は彼女で、各方面へのサポートを頼まれている。


「私の事は気になさらないで。青チームの勝利のために協力するだけですから。

ですが…個人的には友人をサポート出来れば嬉しいです」

「ありがとう、ネアシェ」

「姉様!」


テラススペースへと慌ただしく入って来たのはガルフィースだった。いきなり入って来た無作法を咎めつつ、息を整えさせる。


「ね、姉様…」

「落ち着いて、ガルフィース。どうしたの?」

「ふぅ、すぅ…はあ、姉様。ヤクト卿は来なかった?」

「ヤクト様?先程来られたけど…」

「やっぱり!姉様、魔法戦へ参加するよう言われなかった!?」

「言われたけど、断ったわ」

「くっ…あの軽薄男…!僕だけならまだしも、姉様にまで…って、断った?」

「ええ」

「でも、レオニダスの奴との因縁がって…」


ハッとしたようにガルフィースが口を抑える。顔がみるみるうちに赤くなり、どうやら口調が違っていた事に気付いたようだ。

私とネアシェが温かい目で見ているのに気付いたようで1つ咳払いし、居住まいを直した。もう遅いと思うけど。


「ネ、ネアシェ様ご機嫌麗しゅう。騒がしくしてしまった事をお許しください」

「ふふふ、大丈夫よ。よろしければ座ってくださいな」

「失礼します…」


もう開き直る事にしたのか、赤い顔のまま空いている席へと腰掛ける。

ウェイターがカップを持ってきてくれたのでティーポットから紅茶を注ぎミルクを垂らす。


「それで先程の事なんですが…姉様の所にもヤクト様から魔法戦参加の話が来て、最早断っているのですね?」

「ええ、その口ぶりだとガルフィースの所にも来たようね?」

「ええ…水属性といえば私ですから。勿論断りましたが」


次期ファクトヒルデ家公爵なだけあって、水属性だけの魔法使いであれば1番強いのはガルフィースだろう。4年生ながらその力は中等部クラスとされている。

そしてガルフィースも青チームなのだ。


「さっきレオニダスさんがどうこう…って仰ってましたが、何がありましたの?」

「…断った際に、ヤクト卿が、」




ーーーであれば姉君に声がけしよう。姉君はレオニダス君との因縁があるようだし、すぐに承諾してくれるだろうから。

いやぁ、あの麗しいご令嬢を激しい魔法戦に参加させるのは心苦しいよ。




「と、言っていたので…」

「あら、私を心配してくれたの?」

「姉様が!煽られて、簡単に参加をしそうと思ったからですよ!」

「心配してくれたみたいよ、メイルーン」

「いや、ですから…」

「ええ、ありがとうガルフィース」


私とネアシェでにこにこと言論を奪えばガルフィースは更に顔を赤くし、諦めたように撃沈するのだった。


「レオニダスさんと競ってしまうのはしょうがないわ、性格的に合わないのだもの。けれど複数人で襲うような卑劣な真似はしたくないわ」

「…そうですね。ですが水属性を中心に集めているのには理由があるらしいですよ」


ガルフィースが青チームのメンバー表をテーブルの上に載せる。


「魔法戦に参加するのは…ヤクト卿と、アーバハン家のミレイユ嬢が確定しているようです」

「!?」

「5年生の枠がさほど実力がない方で1つ埋まりましたから…ヤクト卿も躍起になっているようです」



魔法戦は人数制限があり、3パターンある。

1つは、6年生4人とするパターン。

1つは、6年生1人、5年生2人、4年生2人の計5人とするパターン。

1つは、各学年より1人ずつ選出し計6人とするパターン。

それぞれ、実力などを加味して選択可能であり、ヤクト様は2つ目のパターンにしようとしているのだろう。

本来勝利を目指すならば1つ目のパターンが良いのだがレオニダスなどの特殊なのがいると話は違って来る。


「ミレイユさんをねじ込んだのって…」

「言うまでもないでしょう、ロンギヌス様ですよ」

「勝つためのチーム編成を任された、と仰ってましたが…フォロー出来る人員を集めたかったのでしょうか」


ミレイユさんの魔法は、正直パッとしない。水属性魔法使いである事はわかるのだが、魔力もそこそこなのだ。

だがゲーム脳で言わせて貰えばまだステータスが育ってないだけで将来は水を司る公爵令嬢になれるポテンシャルはある訳で。

ステータスさえ育てれば強いはずなのだ。主人公はそうだった。






「……強制イベント、起こしましょうか」

「「えっ?」」

「こちらの話よ」



嫌なのだけど、本当に嫌なのだけど。


少しの間、悪役令嬢に戻らせて頂くわ。

ごめんなさいねミレイユさん。いえ…ミレイユ嬢。





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